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ライオン法/ショートショート

ニート問題は深刻化していた。若者が働きもせず、家に引きこもることは大きな国力の低下に繋がると政府は過激な法律を制定。それが、通称・ライオン法である。ライオンが千尋の谷に我が子を突き落とすように、親は成人した子どもを独立させなければならない。

その義務を果たせなかった親は、多額の罰金、年金カット、医療費全額負担など制裁を受けることとなる。さらに、独立できなかった子どもは欠陥人間と選定され、矯正施設に隔離。専門プログラムと称し、劣悪な環境で強制労働を科せられる。

 

「この家に、若い娘が働きもせず引きこもっているという情報を得ました」

 ついに今日、私の家に役人がやってきた。

「いえ、ウチの娘はとっくに家を出ております」

「確認させてもらう」

 私の話をろくに聞かず、役人は土足で家に上がってきた。役人は、娘が子ども部屋として使っていた部屋を勢いよく開けた。しかし、娘の姿はない。

「どこにいる? いるのは分かっているんだ」

 役人は高圧的に私を見下ろした。

「ですから、娘は成人して家を出ているんです」

「ここに、就業記録がある。二年前、出版社を辞めて以来、定職に就いていないじゃないか」

「そんなはずはありません」

 私は毅然とした態度で対したが、役人の疑惑の念は一向に収まらない。彼は、中庭に目をやった。

「あれは何だ?」

 中庭にある物置を指さし言った。

「な、何でもありません」

 役人は中庭に向かって歩いて行く。私は、役人の腕に必死にしがみつき、彼を制止しようと試みた。

「こんなことして、何になるんですか?」

「離せ!」

「社会に適応出来ない子もいるんです」

「だから、国家が矯正するんだ」

「無理矢理矯正させる必要がどこにあるんですか? 誰しも、多少の欠陥を抱えて生きているんですよ」

「そういう甘やかしが、ニートの子どもを産むんだ」

 役人は、中庭にある小さな物置の前に仁王立ちした。私は、物置の前に立ちふさがった。

「ここに娘がいるんだな?」

「いません」

「だったら、そこをどけ」

 私は頑として動かなかった。

「こっちは、お前が毎食ここに食事を運んでいることまで知ってるんだ」

 密告だ。この国にはもはや、プライバシーというものは存在しなくなっていた。国民一人一人が国家の子ども。子どもが親に逆らうことは許されない。

 役人は、業を煮やし私の腕を掴むといとも簡単に組み伏せた。どれだけ抵抗しようと、私が屈強な役人に適うわけがなかった。

「手間取らせやがって」

 役人は、吐き捨て物置の戸に手を掛け勢いよく開いた。すると、次の瞬間「おお…」と、思わずのけぞり尻餅をついた。私はゆっくり役人に近づき言った。

「厳しく育てたつもりでした。まさか、我が子が職場を追われて家に逃げ帰ってくるなんて想像も出来ませんでしたよ。親として恥ずかしいでしょう。ニートの娘がいるなんて。世間に顔向けできないでしょう」

 物置には、ホルマリン漬けにされたガラスケースに娘の遺体がプカプカと浮かんでいた。顔は、見るも無惨に潰れていた。

「だから、突き落としたんですよ。本当に」

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