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Never Reading Will

僕は小説を書いてみたかった。
でも、瀕死の世界で産まれた僕にとって、プロローグを書き始める事がどうしても難しかった。たくさん本を読んでみたけど、結局徒労。
読者のいない世界に、残すべき物語は見つかるべくもない。
そんな筆不精の僕がここに記すのは、僕と弟が見届けた、7日間に渡るこの星のエピローグ。
数百年、数千年後のいつの日か。
この星の住人ではない、どこかの誰かが受け取ってくれますように。
銀河の片隅でもうすぐ滅ぶ、神にも見捨てられた世界。
そこで生まれた愚の末裔が、最後に紡いだ物語。
この星の住人ではない、どこかの誰かが読み、語り継いでくれますように。
旅の終着駅に辿り着いた僕は、コンソールを叩き始めた。
叶うはずの無い願いを、この遺書に込めながら。

...かつて「命溢れる生命の星」と呼ばれたこの星は、文明がもたらした度重なる天変地異に耐えきれず、店じまいの支度に取り掛かっている。行き過ぎた資本主義のルールは、どうやら自然界にも浸透してしまったらしい。

<まだコレが聴こえている奴は、今すぐ"方舟"に向かえ!>

昨晩まで、そう喚き散らしていたオンボロラジオ。
僕はそれを抱き上げて、渾身の力でアンテナをへし折った。
最後の電池が切れた今となっては、これでちょうどいい大きさの枕代わり。隣で欠伸をしている弟に枕を渡して、明日は早いぞ、と眠るように促した。

・・・・・・・・

...夢の中で、僕はまだ赤ん坊の弟を抱えて逃げていた。飛び交うのは、ライフル銃の弾丸が空気を切り裂く音と、撃たれた大人たちの断末魔。

0時の方向、幾ばくも無い距離に迫撃砲が炸裂。次の瞬間、僕は瓦礫の山になった校舎の中で目が覚めた。抱いていたはずの弟は見当たらない。必死になってまだ赤ん坊の弟を探していると、遠くから泣き声が聞こえてきた。

一面赤黒い溶岩の大河が眼前に広がっているのが見える。弟は、穏やかだが流れの速い溶岩の流れの中に浮かんで、泣いていた。苦しんでいる様子ではなかった。何故か火傷を負っておらず、まるでオシメを早く変えてくれと言わんばかりの調子で、泣いていた。
僕は必死になって追いかけたけれど、川の流れは早くてどんどん弟の泣き声は遠ざかっていった。僕は意を決して大河に飛び込む。全身を灼熱が包み、着ていた服はあっという間に燃え落ちた。皮膚が炭化し、筋肉は熱で縮む。髪の毛が焼ける嫌な臭いに包まれる僕は苦悶の叫びを上げ…

ここで目が覚めた。
どうかしたのか?と弟は聞いたが、いつものように、別にどうもしないよ、と嘘をつく。さて、<方舟>とやらを見に行こう、と目も合わせず呟き、僕はまた、弟と歩き始めた。

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