イキカカシ
俺はポストの中身を見るのが大嫌いだ。
催促状。
催促状。
リ=ボルヴィング・カードの広告。
催促状。
ちり紙みてぇな食感のピッツア・デリバリーショップのチラシ。
そして、催促状。
俺の心を浮き立たせるようなもんは、今日も何一つ入っていなかった。
特に極めて最低最悪極まりないのは、
アホの"総統閣下"によるアホの『政令通知書』だ。
独裁国家というものは、歴史上どの国でもそうだったが、
くだらない方向にだけは思い切りが良く、また、無駄に仕事が早い。
通知を受け取った2日後には、『イキカカシ』が届いた。
俺の家は、ジジイとジジイとババア、そして俺も63歳なのでジジイなわけだが、そんな死にゆく我が家でも、若くてピチピチな『イキカカシ』を迎え入れる羽目になる。
人権を付与したフレッシュな、
しかし魂のない人肉の塊を
強制的に各家庭の扶養に入れることで、
書面上の人口を増やし、
国民平均年齢を引き下げ、
徴収可能な税の上限を上積みする。
まったくもって、素晴らしいアイディアだ。
反吐が出る。
俺は『イキカカシ』を一瞥した。
お前にゃあ罪は無いが、どんな名前をどうつけてやろうかな。
貧乏人らしい皮肉っぽい笑顔で奴を睨めつける。
あー
間の抜けた雄叫びをあげて、
我が家の『イキカカシ』が俺の首を憎々しげに締め上げた。
【続く】
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