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「A DAY IN THE LIFE」 7都市・7人の作家が描く、 新型コロナウイルス・パンデミック下での、いつもの街の物語。

1冊の本を自費出版で出すことにしました。
世界7都市に住むマンガ家7人による、新型コロナウイルス感染症による非常事態下での「いつもの一日」がテーマの短編集です。

本のタイトルは「A DAY IN THE LIFE」としました。
深刻な状況を背景にした本にもかかわらず、無防備なくらいストレートなタイトルにしたのは、ウイルスに「どう対応するか」という視点や意図をなるべくなくしたかったからです。それに、日々状況は変わっていて、それについて考察するような、そんな本はとてもじゃないけどできません。

この新型コロナウイルス感染症により、世界中の人たちの暮らしは突然に、大きな変化を迫られました。
国や地域、組織によってそれぞれ対策が示され、ぼくたちは今もそれを実行していますが、やっぱり、これはまったく整理のつかないことだと感じています。いまでも「これはぜんぶ夢なんじゃないか?」という気分になることもあります。

ニュースでは、どこの街で何人の感染者が確認され、何人が死んでいったのか、毎日数字が掲載され、その数は日々増え続けています。
医療の分野はもちろん、経済、政治、教育、宗教、文化活動に至るまで、ウイルスによる影響はどこまで拡がっていて、そして、これからどこまで拡がっていくのか。計り知れない量のデータが積まれ、それを基に調査、分析がなされるのだろうと想像します。

歴史の教科書にどう書かれるのかはまだわからないけど、きっと人類史の大きな転換点として、少なくないページが割かれるのだろうと思います。

しかし、これらはすべて「記録」です。

ぼくは今年の4月、世界の感染者数が増加の一途を辿っている時に、2011年の東日本大震災の時のことを思い出そうとしました。
その時も同じように出口が全然見えない状況で、どこか夢の中の出来事のようで、何を頼りにしていいかもわからなくて、不安だったからです。

その時ぼくは東京に住んでいて、どんなことを考えて、家族や友だちとどんな話をしたかを思い出そうとしたのですが、あまり鮮明には出てこなくてちょっと驚きました。

個人的なことになりますが、その時にはまだ父親が元気で生きていて、翌年他界したときに、「あの震災の時に父と話したことは忘れないでおこう」と自分に言い聞かせたりしたはずだったのに、記憶がかなり遠くなっていることを実感しました。

そんなこともあり、その翌日から日記を書くことにしました。
数字や各国の対応といった事実の記録ではなく、その時に感じた違和感とか、焦りとか、不安とか、食べておいしかったものとか、家族や友だちとの会話とかを残しておくことが、後々になって大事になるかもしれないと思ったからです。

この本も、おそらくそのような「記憶」に強く結びつくものになると思います。

世界各地で暮らす漫画家が切り取った、それぞれの「一日の物語」を読むことで、その時の自分の感覚を思い出したり、また、自分とは違う場所、違う環境での感覚を感じて、そこにも生活があって、もしかしたら失われてしまった何かがあるのかもしれない、ということを想像してもらえることができたらうれしいです。

とても幸運なことに、この本にはぼくが今までの人生の中で常に刺激を受けてきた、心やさしい作家たちが参加してくれることになりました。

参加してくれる7人の作家と、そこに描かれる街をご紹介します。

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■ ウィスット・ポンニミット(バンコク・タイ)
Wisut Ponnimit (Bangkok/Thailand)
みんな大好き「マムアンちゃん」の生みの親。日本では「タムくん」のニックネームのほうが知られているかもしれません。ぼくもかれこれ20年くらいファンでいます。

■ 高妍(台北・台湾)
Gao Yan (Taipei/Taiwan)
彼女の最初の作品で、Mangasickという台北の書店が出版した『緑の歌』という冊子を読んでから、何度か挨拶したりしてたのですが、最近村上春樹のエッセイの装丁と挿絵をやっているのを知って腰を抜かしました。が、納得のすばらしい仕事でしたね。

■ 香山 哲(ベルリン・ドイツ)
Tetsu Kayama (Berlin/Germany)
ebookjapanで『ベルリンうわの空』というマンガを描いていました。ぼくはebookjapanの社員で、香山さんの担当です。ひとこと相談するだけで、こちらの思うことを瞬時に理解し、いつも必ずその上をやってくれます。とても頼りになる、そして勇気のある表現者です。

■ ジュリア・ナシメント(ヨーテボリ・スウェーデン)
Julia Nascimento (Gothenburg/Sweden)
東京時代に何度も会って、そのたびに丁寧に自作について教えてくれる。夫婦そろってとにかくフレンドリーでやさしい人なのですが、作品のふり幅が広くて毎回驚かされてます。今回は落ち着いたバージョンだと思います。ブラジルから東京に移住して、今はスウェーデンと、行動力もすごい。

■ 鬼頭 祈(東京・日本)
Inori Kito (Tokyo/Japan)
日本画家で、イラストレーターで、絵本作家で、どの作品も見れば一瞬で彼女とわかる。
彼女の金魚のマンガがこれ以上ないくらいやさしい世界で、今でもたまに読み返してます。以前お会いした時に、また自由にマンガを描いてみたいと言っていたので、参加してもらえてよかったです。

■ シルビア・ヴァンニ(オデルツォ・イタリア)
Silvia Vanni (Oderzo/Italy)
ミラノにあるBao Publishingといういい感じの出版社で、『RAMO』といういい感じのコミックを出しています。今回の申し出を二つ返事で快諾してくれました。そして、彼女の住むオデルツォという町のある北イタリア地方は欧米圏で最初に新型コロナウイルスの大きな困難にあった場所のひとつ。つらいニュースばかりだった。でも彼女のおばあさんは元気で、ウイルスなどないかのように出かけているそうです。

■あとひとりはまだ決まっていません!

【追記】決まりました!(下記参照)

そして、この本の装丁デザインはスペイン・バレンシア(現在はバルセロナ)のイラストレーターである、タニア・ビセドさんが引き受けてくれました。
彼女もまた、いろんな場所で自由に活動してきた作家で、何よりとてもやさしい人です。
今は、タニアさんとデザインについてあれやこれやと話しているところで、折を見て、制作過程なんかも公開していけたらと思っています。

これだけ違った場所、経験、背景を持つ作家たちが集まって作られるのだから、巷にはあまりないタイプの本になることは間違いないと思います。

売れる見込みも、保証も、そもそもなんの後ろ盾もない個人出版の申し出を、快く引き受けてくれた作家の皆さんには心から感謝します。
このすばらしい人たちの仕事に恥じないように、よい本を作りたいと思っています。
ひとまずは日本語版のみで出す予定です。
出版は2020年末、もしくは年始くらいになる予定です(5月になりました!)楽しみに待っていてください。

【追記】

そうそう、この本の制作マガジンを設定しました。
経緯だとか、制作過程、進行具合、困ったこと、うれしかったこと、なんかも少しずつ公開していきたいと思っています(もちろん無料です)。
よかったらお付き合いください。

書店の方、メディアの方など、見本PDFのご要望や仕入れのご相談はすべて、下記までご連絡ください。

井上雄樹
weareyoyosha@gmail.com

すべての工程をぼく一人で週末を中心に行っているため、対応が遅れてしまうこともあるかもしれませんが、できる範囲、精いっぱいがんばります。
よろしくお願いいたします。

【作家プロフィール】

ウィスット・ポンニミット(Wisut Ponnimit)
1976年、タイ・バンコク生まれ。愛称はタム。1998年バンコクでマンガ家としてデビューし、2003年から2006年まで神戸に滞在。2009年『ヒーシーイットアクア』により文化庁メディア芸術祭マンガ部門奨励賞受賞。現在はバンコクを拠点にマンガ家・アーティストとして作品制作の傍ら、アニメーション制作・音楽活動など多方面で活躍する。主な作品に「マムアン」シリーズ、『ブランコ』(小学館)、『ヒーシーイット』シリーズ(ナナロク社)など。2016年にはくるりの楽曲「琥珀色の街、上海蟹の朝」PVを手掛けたほか、さいたまトリエンナーレ2016にも参加。2017年にはバンコク、東京、仙台にて個展「LR展」を開催。2018年に、雑誌「ビッグイシュー日本版」での連載をまとめた新刊『マムアンちゃん』をクラウドファンディングにより刊行。
https://www.wisutponnimit.com/
高妍(ガオ・イェン)(Gao Yan)
1996年、台湾・台北生まれ。台湾芸術大学視覚伝達デザイン学系卒業、沖縄県立芸術大学絵画専攻に短期留学。現在はイラストレーター・漫画家として、台湾と日本で作品を発表している。自費出版した漫画作品に『緑の歌』と『間隙・すきま』などがある。2020年2月、フランスで行われたアングレーム国際漫画祭に台湾パビリオンの代表として作品を出展。2020年、村上春樹のエッセイ『猫を棄てる 父親について語るとき』(文藝春秋)の表紙・挿絵を担当した。
https://www.instagram.com/_gao_yan/
香山哲(かやま・てつ)(Tetsu Kayama)
1982年兵庫県生まれ。漫画家、イラストレーター、ゲームクリエイター、ライター。
信州大学理学部生物科学科卒、神戸大学大学院医学系研究科中退。
2009年にlivedoorデイリー4コマグランプリ季間賞受賞。2013年、第17回文化庁メディア芸術祭マンガ部門審査員推薦作品に入選。2017年、フランス・アングレーム国際漫画祭オルタナティブ部門ノミネート。2018年より『ベルリンうわの空』連載中。ドイツ、ベルリン在住。
http://kayamatetsu.com/
鬼頭祈(きとう・いのり)(Inori Kito)
1991年静岡生まれ。東京都在住。京都造形芸術大学 日本画コース卒業。
日本画の技法を生かし、小人や苺をモチーフにした現代的な絵画を制作。
画家として国内外の個展を中心に活動。
イラストレーターとして広告・アニメコラボグッズ・絵本などに作品を提供。
第190回ザ・チョイス入選(江口寿史氏審査)。
絵本に『スプーンのおうじさま』(作・黒﨑美穂 福音館書店)、『こびとのおうち』(WAVE出版)がある。
https://www.inorikito.jp/
ジュリア・ナシメント(Julia Nascimento)
ブラジル・ベロオリゾンテ生まれ。イラストレーター、漫画家。
2010年に日本に移住。「東京」という経験を共有したアーティストたちの作品集「トコ ― 東京コレクティブ」主宰。個人では自主制作による出版、リソグラフなどの活動を行っている。2019年よりスウェーデン・ヨーテボリ在住。
https://www.nsjulia.com/
シルビア・ヴァン二 (Silvia Vanni)
1989年イタリア・トスカーナ州カステルヌオーヴォ・ディ・ガルファニャーナ生まれ。
幼少よりマンガに親しみ、スクオラ・インテルナツィオナーレ・ディ・コミックス・フィレンツェ校で技法を学ぶ。
2013年、イタリア最大のコミックフェア「Lucca Comics and Games」でのコンテストで賞を取り、エディツィオーニBD社から最初の作品『La citta dei cuori innocenti(無邪気な心の街)』を出版。2016年、エミリア・チンツィア・ペッリ作『サロメ』(クレイナーフラグ社)の作画を担当。2019年『RAMO』(BAOパブリッシング)を出版。
イタリア・オデルツォ在住。
https://www.artstation.com/fantafumino
タニア・ビセド(Tania Vicedo)
https://www.instagram.com/taniasillustration/

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