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市主導で有機農業を推進 千葉県いすみ市

首長がその気になれば、有機農業推進のきっかけはできます。しかし、それだけでは続きません。いすみ市が有機農業の盛んな地域となったポイントを整理してみました。


市長の意欲に応じ、農家が有機農業をはじめる

千葉県いすみ市は、もともと有機農業が盛んな地域ではありませんでした。
太田洋市長の意欲に農家が応えるかたちで、2013年に市の「自然と共生する里づくり連絡協議会」に所属するグループが有機米づくり(22a)に取り組んだのがきっかけです。
しかし、雑草がひどく、手取り除草で対応しても経営可能な収量は得られませんでした。

市独自で有機米づくりを進め、学校給食に

市では、有機稲作技術体系の確立に向けた事業を進めようとしました。しかし、千葉県、JAいすみからは技術指導が得られず、NPO法人民間稲作研究所の稲葉光國氏(故人)を講師に「有機稲作モデル事業」(2014-16年)に取り組み、抑草技術(雑草対策)など稲作技術の標準化を図りました。
事業と同時並行で学校給食の有機米利用を進め、2017年には市内の学校給食全量を地元産有機米で供給可能となりました。そして、有機米はブランド米「いすみっこ」として産地化を図っています。

さらに、2018年には移住者を中心とした小規模農家による学校給食用の農薬や化学肥料を使わない野菜の提供が始り、2023年からは有機野菜を「いすみそだち」として市独自で認証しています。

市への移住者が増加

有機農業への取り組みは、『住みたい田舎ベストランキング』で上位を獲得するなど市の認知度を高め、自然に恵まれた暮らしやすい風土と相まって移住者が増加傾向にあります。

市の有機農業推進のポイント

  1. 環境と経済が両立できるという考えから、地域農業の活性化のために有機農業を推進したこと

  2. 先行事例(兵庫県豊岡市など)を参考にし、いすみ市にあった取り組みを工夫したこと

  3. 有機農業に取り組む以前から、市民参加型の地域の環境を保全する取り組みがあり、地域農業の在り方について関心が高かったこと

  4. 行政(市長)、農業者のリーダーが、有機農業が地域農業、経済を持続する取り組みとして、早い段階から理解していたこと

  5. 市長、担当職員、実施農家が一体となって有機農業の推進に取り組んだこと

  6. 有機農業の導入にあたり、一部の関心のある農家の取り組みではなく、地域の合意のもとに進められたこと

  7. 販路(学校給食)を確保しながら、実証圃を設け、講習会を開催し、慣行農家に有機農業の実際を見せ、実証結果をもとに有機稲作の標準化が図られたこと

  8. 旧岬町(当時の町長は太田市長)で、学校給食に地元産米を導入した実績があったこと

などが挙げられます。

※2018年11月に現地での聞き取り調査と、その後入手した資料をもとに作成しました。

千葉県いすみ市では、2023年10月より自主財源で地元産有機米を使った小中学校の学校給食の無償化を始めました

参考文献

谷口吉光編著(2023)『有機農業はこうして広がった: 人から地域へ、地域から自治体へ』、コモンズ

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