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止め葉の窒素安定同位体比で、有機JAS産米を収穫前に判別する

有機JAS産米の収穫前に、地域の基準となる有機JAS産米の圃場と判別を求められた圃場の最長葉または止め葉の窒素安定同位体比(δ15N値)を比較することで、有機JAS産米であると判別できることを紹介します。


有機JAS産米を出荷前に判別する方法の必要性

新潟県、富山県、石川県、福井県の精米のδ15N値をもとに、有機JAS産米と慣行栽培産米の判別の可能性を示しました。

しかし生産地において、精米の分析結果をまって出荷することは困難であり、出荷後に検査結果が判明しても手遅れになる場合があるため、出荷前に判別する方法が望まれます。

水稲の生育にともなう窒素の吸収は、栽培法および土壌条件、気象条件、品種などの組み合わせによって異なります。また、穂の発達に際して、水稲体内から穂への転流窒素の依存度が高まります。なかでも、葉身中の窒素が穂への転流窒素として大きな役割を占めています。

収穫前に簡易に判別する方法を見つけるために、葉身と精米の関係に注目し、葉身、特に止め葉と精米の関係を明らかにして、有機JAS産米の判別法への利用を検討しました。

葉と精米および土壌のδ15N値の関係

化学肥料を用いずに栽培された自然農法国際研究開発センター農業試験場(長野県松本市)の黒ボク土圃場(2004年)と灰色低地土圃場(05年)の6月から8月の各月下旬の最長葉と9月の止め葉および精米、土壌のδ15N値を測定しました(図1)。
黒ボク土圃場の6月を除く、両圃場の6-8月の最長葉および止め葉と精米のδ15N値との間に、有意差はみられませんでした。葉身中の窒素が穂への転流窒素として大きな役割を占めていることが、葉身と精米のδ15N値からも明らかになりました。
6~8月の最長葉および止め葉、精米、土壌のδ15N値は、黒ボク土圃場に比べて灰色低地土圃場で有意に低い値を示しました。黒ボク土圃場の土壌は灰色低地土圃場に比べて、腐植が多く(全炭素: 3.51% vs. 2.66%)、しかも窒素含量が高い(全窒素: 0.30% vs. 0.24%)ことから、土壌の特性の違いが作物のδ15N値に反映したと考えられます。

図1 葉、精米および土壌の窒素安定同位体比の比較(藤田ら 2008)
A:黒ボク土圃場(2004年)、B:灰色低地土圃場(2005年)
6-8月は最長葉、9月は止め葉を分析。
図中の縦棒は標準誤差を示し、異なるアルファベットは有意差があることを示す。

止め葉と精米のδ15N値の関係

新潟県、富山県、石川県および福井県の有機JAS認定圃場と慣行栽培圃場(2005年:13組26試料、06年:14組28試料)の止め葉と精米のδ15N値を示しました(図2)。
止め葉と精米のδ15N値は、有機JASと慣行栽培の単独および複合、05年と06年の単年および複年で高い正の相関を示し、止め葉のδ15N値で精米のδ15N値の予測が可能です。

図2 北陸4県の止め葉と精米の窒素安定同位体比の関係(藤田ら 2008)
有機JAS圃場と慣行栽培圃場の27組54試料の分析値より作図
図中の直線はy = x

止め葉による判別の可能性

止め葉のδ15N値で、有機JASの最低値(05年:4.0‰、06年:3.8‰)よりも慣行で高い値を示したのは、05年で2試料、06年で5試料ありました。
このなかで、有機JASの方が高い値が4組(有機JAS vs. 慣行(‰);6.5 vs. 5.0、5.4 vs. 4.6、5.4 vs. 3.9、4.7 vs. 3.9)、慣行の方が高い値が1組(4.0 vs.5.5)、ほぼ同じが2組(4.6 vs. 4.4、4.3 vs.4.4)でした。
27組中24組で有機JASの方が高い値を示したことから、止め葉による判別の可能性が示唆されました。

最長葉および止め葉による判別方法

北陸4県の止め葉の分析結果から、地域を限定せずに比較した場合、有機JAS圃場よりも慣行栽培圃場で高い値を取る場合がありました(図2)。その一因として、図1に示したように土壌型の違いが考えられます。したがって、判別には地域ごとに、とくに土壌群別に基準となる有機JAS産米の圃場を、あらかじめ選定しておくことが前提となります。

ある圃場の産米が、収穫前に有機JAS産米かどうかの判別を求められたときには、

①地域の基準とした圃場と判別を求められた圃場の最長葉または止め葉を採取
②判別を求められた圃場と基準とした圃場のδ15N値との差をもとに判定

水稲の場合、栽培年によるδ15N値の変化が少ないため、地域ごとの定期的な調査結果も基準値として使用できます。

※ここで用いている窒素安定同位体比(δ15N)の数字(15)は、本来は上付き文字です。

参考文献

藤田正雄・岩石真嗣・南都志男・松田易子・藤山静雄(2003)有機JAS認定産米のδ15N値と食味値による品質評価について, 日本土壌肥料学雑誌, 74: 805-808.
藤田正雄・岩石真嗣・三木孝昭・南都志男・藤山静雄(2006)有機JAS認定米の評価法-窒素安定同位体比による判定-, 農業および園芸, 81, 620-622.
藤田正雄・三木孝昭・岩石真嗣・南都志男・藤山静雄 (2008) 止め葉と精米の窒素安定同位体比の関係について. 日本土壌肥料学雑誌, 79(1): 87-88.
前 忠彦(1982)作物の生長と窒素の転流[6] -水稲の生長と窒素の転流-, 農業および園芸, 57, 978-984.

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