毒親育ち視点で見るジャンケットバンク ライフ・イズ・オークショニア後編
死にかけて気付く大切なこと
刑事ペア優勢の中で始まる4セット目。「獅子神の過去を話に出し、対戦相手を揺さぶれた成功体験」に調子付いたのか、時雨が村雨までを揺さぶろうとした。しかし、それはどちらかと言えば逆効果だった。
捜査二課の職権乱用に基づく調査結果は、あくまで表面的なものでしかない。家族構成や各々の職種、それは表面的なものであって、時雨の予想した「兄に対する村雨の感情」はただの想像でしか無い。重大事件が起きた際に犯人の同級生等にインタビューがなされることがあるが、それで犯行動機が明らかにはならないのと同じである。
つまり、適当な推測を為された村雨は、ノーダメージだった。そもそも村雨にとっては「それが策と言うなら話してみろ」程度のことでしかなかった。ただ、兄にまで危害が及ぶことに関しては、思うところはあった説もある。
なめられた態度をされた村雨は、獅子神まで恐怖するようなオーラを放つ。そして、村雨が感情のようなものを見せなくなった為に、刑事ペアは村雨の手を読めなくなる。
この為、刑事ペアは競り勝つことより、獅子神を反則負け(16チップ分以上の電流を支払わせて、五分以上の遅延狙い)にさせることを選択。だが、これもまた逆効果だった。
タンブリング・エースの際、真経津と村雨の戦いを見ていた獅子神は「ネズミを追い込むだけ追い込んで敵が噛みに来させて楽しんでやがる」と評している。つまり、村雨は刑事ペアの作戦が「獅子神の反則負けを狙う」に向かわせ、それにより逃げ場をなくした。
4セット目、獅子神は「4」の札で競り勝ち、それによって支払い総額である15チップ分の電流を浴びることになる。それにより、走馬灯のようなものを見た獅子神は、ようやく死を意識し始めた。だが、それでも村雨からの合図は無い。それどころか、医師による診察結果は「健康状態は良好」である。
後が無くなった獅子神は、これまでの考えを改めた。強者は超能力的な何かで勝利している訳では無い。対戦相手を良く見て、その動きや息遣いまでも利用する。そうして、ゲームの流れに変化が起きた。
怖いモノ程見続けなけりゃ戦いようがねぇだろうが
ジャンケットバンク96話。実は、この回で沼にはまった。毒親育ちは育ち方を話しただけで「言い訳するな」だの「昔のことだろ」だのと言われる。だが、育ち方による歪みは、それを自覚しなければ治せない。それこそ、江渡貝くんが歪んだ巣で育ったことを認めた時から、何かから解放されたように。
育ち方による歪みで生き辛く、それによって引き起こされた鬱であれば効く薬はある。だが、それはあくまで鬱の症状に対してでしかない。育ち方によって背負った負債の金利を、症状に合わせた薬で打ち消しているだけのようなものだ。
育ち方の歪みを認識して負債を消していかなければ、その分の金利も増えてしまう。だからこそ、育ち方の歪みを認識し、それがどんなに辛いものであろうが直視しなければならない。それこそ「怖いモノ程見続けなけりゃ」に繋がる。
「幽霊の正体見たり枯れ尾花」と言う言葉があるが、怖いと思っていたものでも、目を逸らさないで見ればどうってこともないものはある。だが、それをする為には勇気が要る。そして、その勇気の積み重ねで人は成長出来るし、事実と感情を切り離して判断出来るのであれば、毒親育ちは解毒も出来る。
見る目を見る目
敵を良く見ることで、今まで見えていなかったものが見えるようになった獅子神。初めこそ我愛羅みたいな術に思えたが、村雨の背後はむしろ人体錬成した結果のようだった。つまり、村雨の背後は目玉だらけ。
この目玉の数は、視点の多さを表している。つまり、村雨がバケモノ扱いされるのも納得である。刑事ペアの視点の多さを足しても、勝つことは到底出来ない圧倒的格差。そして、その視点の多さを獅子神が認識出来たことさえも、村雨の目は逃さない。
王冠は必要ない
村雨の合図と共に、獅子神の反撃は始まった。4セット目2ラウンドは、山吹が競り落とす結果になったが、それはデッドラインが近付いたことと同義だった。
これにより、刑事ペアは山吹の死を回避する作戦に移行する。それもまた、村雨の張った罠であったのだが、追い込まれたネズミは、その考えに至る余裕すらない。
結果的に、理論上の最小値である「1」で競り勝つ村雨。咳き込んでしまった村雨にとって、刑事ペアは結局なんだったんだ。
追い込まれたネズミ達
セット内でチームが2勝した為、ライフダイヤを手に入れた宇佐美班。これにより、勝利にリーチが掛かった。故に、5セット目で村雨が競り勝てば済むゲームでもあった。だが、そうは問屋が卸さない。
獅子神は、感情を読みやすくなった山吹と同じ札を出して死を回避。時雨には死神村雨がぴったりと貼り付いて、じわじわと袋小路に追い込んでいく。デッドラインチューブにチップが蓄積される毎に、デッドエンドに追い込まれてしまう時雨。
そうして、村雨以外が一度でも競り勝てば死んでしまう状態となった。ここまで来て、山吹はある提案を話すが、それを村雨に拒否されて怒鳴った。
「おめでとう手術は成功だ」
医師にとってネズミなど取るに足らない
村雨の賭けは、山吹が発した言葉によって勝ちが確定した。例え山吹が対戦相手だけを脅すつもりだったとしても、それを判断するのは司会者である宇佐美主任。どんな言葉を後付けしても、発してしまった暴言は打ち消すことは出来ない。
山吹の発言の危険性に気付いた相棒は、怯えながらもこれまでにも言い続けてきた「脅す相手を選べ」を伝えた。カラス銀行の賭場は、VIPを敵に回したら終わる。それを時雨は理解していた。
宇佐美主任が「適切な処置」を宣言した為、賭けに勝った村雨は札を「脅しに屈して公開」する。そして、それを見て村雨の考えに気付いた獅子神もまた「あまりにも脅すもんだから」と札を公開する。それも、時雨の出す札によっては、死んでしまうかも知れない数字の。
これにより、時雨は究極の2択を迫られ「処刑される道」よりも「死なないかも知れない電流を浴びる」方を選択する。そうして、ライフ・イズ・オークショニアは終了。山吹は相棒を見捨てて走り出した。
祭りの後
相棒を見捨てた山吹を待ち受けていたのは、黒光主任と周防だった。山吹は刑事だけあって柔道の心得もあるようだが、黒光には通じなかった。無抵抗で投げ飛ばされたふりをした黒光主任は、山吹のネクタイを掴みつつ受け身を取る。それも、山吹の首が絞まるよう、器用に体側に垂れていた部分のみを掴んだ。
こうなると、山吹は黒光主任の方に注力しなければならない。そうして、周防は無表情で山吹に蹴りを入れる。おそらくは、仕事で蓄積したストレスも込められた蹴りである。
そうして、VIPの喜ぶ見世物の下拵えは完成。後は、周防の部下がVIPをおもてなししながらの「山吹への適切な対処」が始まる。
その見世物を悪趣味と捉える村雨は、直ぐに賭場を去ろうとした。しかし、賭場に慣れている村雨とは違い、獅子神は悩み動けないでいた。
そんな獅子神を一度は見捨てようとする村雨も、子犬のように見上げてくる表情に心が揺さぶられた。簡単な答えや、甘い言葉を与えた訳ではない。それでも、村雨の話した内容は、獅子神を立ち上がらせるには十分だった。
帰るぞクソ野郎ーー
そうして向かう先に、獅子神が本当に求めた光景は有ったのか。それは、まだ分かっていない。
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