(3)松戸のソーシャルファーム日記 晴耕雨読

 組織の目的は、凡人に非凡なことをさせること。「マネジメント」で有名なドラッカーは、そう言っている。

 もしかすると、日本で新型コロナの感染者や死者が少ないのは「凡人が達成した非凡なこと」の一例なのかもしれない。そして私の勤める農園でも、知的障がい者の人が安心して働けるような「非凡な成果」が出ているように思える。

 メンバーに求める基準を下げることで、誰にでも大切な基本により焦点が当たっていると感じた。毎朝、職場のルールの読み合わせがあるがたとえば暴力や暴言は何があっても絶対禁止だ。これは前職の現場では正直守られていなかった。

 私も1日に1回以上、注意してもうっかりがある。それでも周囲の人の対応は優しい。今日はロッカーに鍵を忘れたが、気付いた人が届けてくれた。

 本人は天才の部類に入る人間でも、初心者に教えるのが下手で組織を育てられないもどかしいケースを長年目にしてきた私からすれば、まるで奇跡。ここまで来るのにどれだけの苦労をしたかが察せられた。

 この農園から学べるものは、大きそうだ。

晴れた空に種をまこう

 今日の朝は寒かったが、天気は良かった。朝礼も屋外でやり、みんなでラジオ体操をする。ハウスに入ると気温が13℃から19℃に。日中25℃ほどに上がったが、午後になるとまた19℃前後に。終始過ごしやすい1日だった。

 パミスサンドも乾き気味だったので、朝の水やりは1レーンにジョウロ3個分。前の人が水を切らした場所から、次の人が水をやる。水まきが終わったら、作物の生育記録をつける。

 20分作業したら休憩のサイクルなので、雑談の機会も多い。前職では休憩時間になっても、誰とも話さずひとりでいることが多かった。とても雰囲気のいい職場だ。

 私は収穫したチンゲン菜で簡単なおかずを一品つくったこと、その際検索で一番上に出てきたレシピが役立ったことなどを話した。これだ。

 すごく簡単でおいしい。私でも楽につくれる。なおチンゲン菜をピーマンに変えただけのレシピもあるそうだ。

 他には、自宅待機の日に勤務時間を過ぎてから(時給が発生し、持ち場は自宅という体裁なので)近所に住む妹夫婦の家に農園でとれたチンゲン菜をおすそわけした話もした。
 ひな祭りの日なので、甥っ子と姪っ子にケーキも買っていった。おだいりさまとおひなさまのケーキに、ディズニープリンセスのアリエルとラプンツェルのケーキ。なかなか面白い見た目だった。

大地に根を張る

 午前中にオクラの種まき(赤と緑)をした後は、午後から他の班のレーンをお手伝い。コロナ対策でどこも出勤者が少なく、私の班もひとり体調不良で休んだ人が出て、1日中農場長さんとマンツーマンだった。

 お手伝いの内容は、先日おすそわけを頂いたコウサイタイの根処理。収穫後に残った根を取り除き、種まき前の状態に戻すのだが、根っこの張り方がすごい。プラスチックのスコップが通らない。危険なので、鍬は使わないルールになっている。

 残った根を引っ張ると、周りの地面ごと持ち上がる。裏返すと細かい根がじゅうたんのようにビッシリ張っていた。それを揉みほぐすと、ようやくパミスサンドがポロポロ落ちてくる。大地に根を張るとは、まさにこういうこと。植物の生命力を感じた。

 植物の根が地盤を強くし、土砂崩れを防ぐメカニズムをミニチュアで理解したような気分になった。父の実家の草むしりよりすごい。

無邪気な知りたがり

 初日に私のことを噂していた、知的障がいがあるらしき大柄な子は私の班の隣だった。面接のときから「やたら多弁な子がいるが、大丈夫か」と聞かれていたが、私の答えは「気にならない」だった。

 私は独身だが、子供は嫌いでないと思う(育児の苦労を経験してないからかもしれないが)。私の甥っ子は、東日本大震災の年に生まれた。それ以来10年、影から成長を見守っている。姪っ子も幼稚園に入った。たまに会っても「誰この人?」みたいな顔はされるのだが(笑)。

 彼は21で、私は45。親子ほど歳は離れているが、一切関係なく遠慮もなく私にいろいろ話しかけてくる。私も分け隔てなく、対等に接した。好きな女の子のタイプを聞かれたときは「あなたは?」と質問に質問で返したけど。

 まあ、明るくてユーモアのある子が好きかな。私の書いてる小説ワルネカのヒロイン、エルルちゃんみたいな。

 心は子供のような彼だが体格が大きく、作業服も合うサイズがなくて、椅子も特別なソファを使っている。この手の子は、自分が興味を持つことにはものすごく深い知識を蓄えていることがある。前の職場にも野球に詳しい子がいて、ラジオ代わりに聞き流していたが。今度の彼はかなり幅広い興味の持ち主みたいだ。

 小説ワルネカの先の構想で、彼をモデルにしたキャラを出そうかな。他人との交流は、自分ひとりでは思いつかないような人物観察に役立つ。

 時と場合は多少わきまえるが、好奇心の強さなら私も彼に負けないぞ。

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