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商人のDQ3【61】夢のような現実

聖竜が飛べるのは、夢の中だけ。だから結局、現実でオーブを探し出してラーミアを復活させなきゃね」
「卵の見ている夢だったんですね、あのドラゴン」

 火山対策のため、ロマリアからの本拠地移転で新たに「ヴェニス侯国」となった水の都でマリカとアッシュがゴンドラデートを楽しみながら、夢の中での冒険を振り返っていました。

 ここはロマリアの北フリウリ村の東にある寂れた都市。中東や周辺諸国からの防備の必要上、アドリア海の北端にある波の静かな入り江に築かれ、かつては黒胡椒などの香辛料貿易を独占し隆盛を極めましたが。ポルトガをはじめとする列強諸国が海路でバハラタまでの航路を切り開いて以降、見る影もなく没落。

 そこを我らがシャルロッテちゃんが街ごと買い取り、建築物の保全と再開発に乗り出したのでした。やることが豪快。

「あれから3ヶ月、いろいろなことがありましたね」

 マリカとアッシュは、正式にお付き合いを始めました。もちろん、双方の両親も心から祝福してくれて。マリカの両親はシャルロッテと一緒に、すぐにでも所帯を構えるようはやし立てるし。どこのドラクエ5ですか。
 夢の中での、バラモスとの戦い。オーロラソードを発動させるとき、光の帯を通じて少年の中へ流れ込んできた、少女の不器用で温かな想い。それを正面から抱きとめ、アッシュはマリカを人生のパートナーと意識するようになっていました。自分に、最初の勇気をくれた人。

※ ※ ※

「マリカさんのことなら、アッシュから聞いています。あなたなら安心して息子のお世話を頼めそうですね」

 アリアハンにも一時、里帰りしました。魔王軍もアリアハンを海上封鎖する理由がなくなり、空の封鎖も解かれていたのでルーラで帰れましたが。
 今度は逆にいざないの遺跡で魔王軍の姿を見かけるようになり、守護者のキラーマシンと魔王軍のエリミネーターもどきが激しい戦闘を続けているようでした。

「ムオルのテント村…そんなことがあったのね」

 偶然飛ばされた大草原でたどり着いた、遊牧民のテント村。そこで会ったポポタ少年と、オルテガの兜を託されたこと。息子が母に、ムオルでの話をしています。

「母さん、旅先で父さんに会ったよ。いまは表立ってアリアハンに帰れないけど、元気でやってるって」
「あなたもだんだん、父さんに似てきたわね」

 アッシュの母は、まるで夢でも見ているかのような表情です。旅立つことすらできなかった息子が、こんなに立派になって。まるで夢のような現実
 親子を見守るマリカは、なぜか白いチューブトップにミニスカ姿でターコイズ色のマントに、赤い宝玉のサークレットをはめた装い。

 あと、ガーターベルト装備でした。セクシーギャル女賢者!?

「これは賢者養成ギプスよ! 多少は武器持って戦う必要もあるでしょ」

 おてんば+ツンデレのマリカが、照れながらも成長補正のためにガーターベルトを装着するという萌え。

 悪夢の中での探索行のあと、もっと勇者の助けになりたいと言い出したマリカはダーマの北、アガルナの塔で賢者になるための修行を積んできたのでした。

※ ※ ※

「このはし渡るべからず…ナニコレ?」

 塔なのに、上がるな。ロープの吊り橋があるのに、渡るな。なんですか、このとんち。賢者は一休さん?
 吊り橋の脇に立てられた看板に、マリカが首をかしげています。

「もとから遊び人なマリカさんなら、簡単な謎かけですよ」

 単独でアガルナの塔へ修行に来たマリカが、たまたま出会った修行者。銀髪の踊り子ミキが、得意の軽技でロープを渡りながら言うと。

「端っこじゃなく真ん中を通って、しかも向こう側まで渡りきらずに途中で降りろってことね」

 マリカは、おばばから譲られた魔法のほうきでロープの下へ。生身での運動能力にはまだ自信がないようです。うん、塔から飛び降りて死なない冒険者の方がおかしいから。一応最初は、滑空してるって設定でしたけど。

「正解です、マリカさん」

 あっさりと、遊びの悟りをひらく少女に。私はいつになればフィギュアスケーターになれるのかと、ロープの上でミキは苦笑いを浮かべてました。

「ジパングの大公ヒデヨシが、ダーマ神殿に攻めてくるかもとウワサを聞きました。早く勇者様のところへ戻ってあげてくださいね」
「ありがとう、あんたも無事でね」

※ ※ ※

 ゴンドラからの景色を眺めながら、旅の思い出を振り返っていたマリカがふとアッシュ少年を見ます。

「身体のほうは、だいじょぶなの?」
バラモスの呪いは解けましたが、まだ後遺症が残ってますね」

 呪いをかけた本人はまだ生きてますが、先日の戦いでアッシュ少年に絆のチカラを集めた際、バラモスからの影響は断ち切られたようです。

「それで、今度は車椅子じゃない歩行サポート鎧を試作してみました」
「歩くのを補助する鎧?」

 アッシュ少年の手足に装着されたサポーター。それは胸当てや腰当てなど全身とつながっているようです。要するに小型軽量パワードスーツ。 

「これで歩くのに身体を慣らしたり、重い荷物だって軽々運べます」
「すごいじゃない、アッシュ!」

 マリカがパッと明るい笑顔を輝かせて、アッシュ少年を元気付けてくれました。

「アントニオじいさんも、手伝ってくれたんです」
「確か、大聖堂の工事があるのよね?」

 アントニオじいさんが職人を手配してくれたおかげで、外洋航海船は無事に完成の日を迎えることができました。

「せっかく資金調達の目処がついたのに、バルセナの街が突然ロックダウンされて。サクラダ大聖堂の建設もストップしてしまったんです」
「明らかに、あのピサロがあたしたちを警戒してのことよね」

 以前にバルセナの街近辺へ夢渡りしたときに見た、サマンオサのピサロ。最近ではスパニア本国からの命令を無視して、好き勝手放題しているとの噂も耳にします。

「アントニオじいさんも、職人たちもバルセナに帰れず。ピサロをなんとかしないといけませんね」
「その件でね、会ってほしい人がいるの。船でテドン近海へ出ましょう」

 マリカと顔を見合わせて、アッシュがうなずきました。

「では、メンバー選出からですね」

 いよいよ、外洋航海船の出番です。ここまでが長かった…!

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