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【ベナンダンティ】13夜 祝福されし十人

夜の松戸市、拡張現実の夢。営業時間を過ぎた「ゆっフィーの里」で祝勝会が開かれている。

「地球人の勝利にぃ、かんぱぁい!」

エルルが乾杯の音頭をとっている。地球人プレイヤーたちの仮面は、顔の上半分だけを隠すものに変わっている。厨房でも、エルルちゃんズが奮戦中。ヒュプノクラフトでもお料理は可能なようだ。

「みなさまのおかげで、フリングホルニの危機はひとまず去りましたの」

ユッフィーが、共に戦ってくれた地球人たちに感謝の言葉を告げたあとは。
銑十郎に抱えてもらって、お膝の上でくつろいでいる。お腹ぽよぽよ。

「で、あのあとどうなったのかな」
「それを知らせるために、あたしが来てるの」

銑十郎のもっともな疑問に、マリカが口を開いた。

「マリカちゅわん、萌え〜♪」
「萌えですねぇ♪」

白いネグリジェ姿のツンデレ幽霊少女は、その愛らしさから地球人たちに妙に懐かれてしまったらしい。エルルもノリで合わせてくる。

スーパー銭湯のロビーには、理髪スペースの入口天井に大きな液晶テレビがかけてある。現実では電源の切れてるモニターに、今夜はフリズスキャルヴの映像が投影された。場所は雪の街からだろうか。

「ヴェネローン市民軍、フリングホルニ駐留部隊の指揮官、アリサじゃ」
「うおっ、バニーなロリババア!?」
「サラシ!サムライガール!!萌え〜」

地球人からの反応に、顔をしかめるアリサ。

「なんじゃい、こやつら」
「アリサ将軍に、失礼ですの」

ユッフィーがたしなめて、どうにかその場を収める。

「フリングホルニに攻めてきた邪暴鬼が陽動なのは、分かっておった」
「中央制御室を掌握するとか、言ってませんでしたの?」

ユッフィーの質問には、聞き覚えのある声からの返事。

「衰えたとはいえ、雑兵におくれをとるわしではないわ」

オグマが画面に姿を見せる。まったく元気なようで、ガーデナーは彼の存在を過小評価していたらしい。全員、オグマがひとりで返り討ち。あるいは、油断を誘うために昼行灯を装っていたか。

「邪暴鬼は、わらわたちが退けた。じゃがまだ、終わりではない」
「そうそう。『フリングホルニ攻略戦』も『常設コンテンツ化』だよ」

画面いっぱいに、プリメラの顔が映る。アリサの発言とは、意味が違うようだが…?

「うわっ!」

思わず地球人たちも圧倒された。ガーデナー側なのに、まだいたのか。

「雪の街のサウナと、美味いメシが気に入ってね。鍛錬の後の一杯!」
「でしょでしょお!」

エルルが誇らしげに、ささやかな胸を張る。もともと農家で酒蔵をやってただけに、いろいろ野菜を育てているらしい。エールも自慢の逸品。

「ちきゅ〜じんども!ふりんぐほるにでの冒険報酬で『ヒュプノクラッド』をかせいで、け〜ざいをまわすでちよ」

今度は、ユッフィーよりも背の低い金髪のドワーフ娘が出てきた。物々交換中心の悪夢のゲームに、貨幣経済を持ち込もうとするか?

「幼女枠だ!」
「でちこぉぉぉ!!」

つぶらな瞳でドヤ顔見せて、その幼女が名乗りをあげる。

「雪の街に住むびしょ〜じょ、シャルロッテちゃんでち。あたちが町長代理でちゅよ」
「シャルロッテは、市民軍の兵站を担うオティス商会の秘蔵っ子。強者との戦いを望むプリメラを手懐け、攻略イベントの常設化を提案してきおった」

アリサの話では。シャルロッテは今回の影の功労者らしい。彼女がプリメラを懐柔したからこそ、地球人たちも救われた。たぶん、見た目よりオトナ。

「というわけで、ユッフィー。手合わせしてやるから修行に来いよ!その他の地球人諸君も、挑戦を待つ!あたいが難易度ハードのボスキャラさ」
「…よろしくお願いしますの」

とんでもない人物に好かれてしまった気がするが。

「それとユッフィーよ、大事な話がある」
「はいですの」
「エルルと銑十郎も聞くのじゃ」

アリサが改まった顔となり、ユッフィーに視線を向ける。
何事かと、エルルと銑十郎も顔を見合わせて。

「『勇者の落日』での一件といい、これ以上おぬしらに勝手に動かれると、計算が狂う。よっておぬしら三名を、わらわの裁量でスカウトする」
「おおおお!?」

地球人たちから、どよめきが起こった。

「ユッフィーちゃん、ついにぃ!」
「ま、我が弟子じゃからな」

エルルがユッフィーを抱きしめる。画面の向こうでは、オグマも微笑んで。
ゾーラやオリヒメも拍手していた。さらにもうひとつ画面が現れて、こちらはミキがロシアのスケートリンクから見事な滑りを披露している。

「エルル先輩、おめでとうございます!」
「ミキちゃ〜ん!」

エルルは大はしゃぎ。そこでコホン、とせきをひとつするアリサ。

「勘違いするでないぞ。おぬしら三名は、市民軍のフリングホルニ駐留部隊に配属され、組織の統制下に入る。現地の協力者と言えば、評議会も口出しできまい。前線での決定権は、わらわにあるからの」
「独断で動かれるより、ヴェネローン戦士の末席に加えて監視下に置く方がマシだと?」

アリサは否定しなかった。勇者の落日以来…一介の武芸者から、人を率いる将への成長こそが彼女の課題だったから。

ユッフィーが改まって、返答を述べる。

「謹んで、お受けいたしますの」
「や、やべんじゃ〜ず!?」

誰かが冷やかして言った。地球の「夜の国」を、ガーデナーの支配から解き放つヒーローチームが生まれたと。

「チーム名、どうすんの?」
「『祝福されし十人』ですわ」

マリカの疑問に、ユッフィーは微笑んで。

「何か、元ネタあるのかな?」
「なんでしょお?」

銑十郎とエルル、場の一同もユッフィーに視線を注ぐ。

「月の光に照らされし、赦す心を持った優しいおじさまですの」

それこそが、いまの日本人に必要なもの。自分が正義なのではなく、善き道を歩まんと願う者の、足元を照らす明かりでありたいと。

ベナンダンティ。その名はイタリア語で「善き歩行者」を意味する。

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