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商人のDQ3【21】おばばのバラード

「フェッフェッフェッ、このおばばにかかればチョロいもんじゃの」
「そこまでだ、魔王軍」

 キラーマシンがひしめく1階と、シャルロッテとマリカが綱渡りを前に尻込みしている高層階。その中間に、浮島のようなフロアがありました。階段を登って行くことはできず、アミダくじ状のロープから飛び降りる以外には到達する方法がありません。翼があったり、魔法のほうきで空を飛べるなら話は別ですが。

「み…みぃ〜たぁ〜なぁ?」

 魔王軍の魔女たちの中でも、特に経験豊富な「まほうおばば」に対峙しているのは、先行していたソルフィン。相手はどこかで聞いたようなセリフを発して、自分の企みを見抜かれたことに驚いていますが。
 このセリフ、ドラクエ3のボストロールが「アミダばばあ」のネタを拝借していたんです。オレたちひょうきん族。

「レムオルで姿を消して、俺たちのすぐ後を付いてきたまでは良かったが…魔法の眼鏡を持ってないんじゃ、あの仕掛けは突破できないだろうな」

 シャルロッテたちは全員、赤外線センサーの罠を抜けられたのに。誰かがトラップを起動させた。姿は見えないけど、自分たち以外に何者かがいる。

「ど、どうして気付かれたのじゃっ!?」
「前に別のところで、姿を消して宝を取りに入ったからな」

 ソルフィンが、以前バイキングの拠点に忍び込んだときのことを思い出します。あの経験が、今回役立ちました。

「綱渡り中に、何気なく下を見たら。この階で宝箱を開けてニヤリとしてるお前がいた。呪文が切れたことにも気づかないとは、ツメが甘かったな」
「ぬぅ、このおばばのチカラ侮るでないぞ!」

 キラーマシンに追われるシャルロッテ一行には、姿を消したまほうおばばに気付く余裕もないと思ったのでしょうか。

「あれ、ソルフィンしゃんは?」

 まごまごしている間に、先行してたソルフィンを見失ってしまったシャルロッテ。カシャンカシャンと、階段をのぼるキラーマシンの足音が近付いてきます。

「まずいわ、追いつかれる!」

 アバター体でなら自由に空を飛べるけど、生身の運動能力は一般人並みなマリカにも焦りが見えます。そして一列に並んで階段をのぼる先頭の一体が姿を見せたとき。

「バシルーラ!」

 どこからか飛んできた呪文の直撃を受けて、先頭のキラーマシンが派手に吹き飛ばされて塔内の壁に激突、下の階へ落ちていきます。流れ弾ならぬ、流れ呪文の巻き添え。

「どこから来た、今の呪文!?」

 クワンダも、吹き抜けになっている下の階をのぞき込みます。するとそこには、浮島フロアで魔王軍の魔女と一騎討ちしているソルフィンの姿が。

「わしの呪文を、避けたじゃと!?」
「俺はかつて、最強のバイキングと一騎討ちして生き延びた。そのときから周りの連中は俺を『カルルセフニのソルフィン』と呼ぶようになったのさ」

 カルルセフニは「男の素材」を意味し、侠気があると訳される言葉です。

「おのれ…メラゾーマ!」

 呪文攻撃は必中。ドラクエのお約束を破られたまほうおばばが、やけくそ気味に自身の最強呪文を放ちます。ソルフィンは超人的な身のこなしでこれも見事回避しますが、その流れ弾でアミダくじ状のロープに火がついてしまいました。あっという間に燃え広がり焼け落ちるロープ、さあ大変。

「ああっ、ロープが!?」
「飛び降りるには、距離が!」

 アッシュ少年も対処法を思案しますが、そこへキラーマシンたちが階段を上がってこようとします。

「ここは食い止めるから、あとは何とかしろ!」

 クワンダは階段の出口で槍を振るい、キラーマシンたちを足止めします。

「アッシュしゃん、ちょっちあぶないでちけど…!」
「ええっ!?」

 何かを閃いたのか、シャルロッテが浮島へ飛ぶ方法をアッシュに耳打ちします。その打開策とは?

ドン!!

 シャルロッテとマリカが、アッシュ少年の魔導アーマーめいた車椅子に同乗して高くジャンプします。そのチカラの源は、なんと魔法の玉。爆発の勢いを調整して、人間大砲のように飛んだのです。

「火薬だけでも、呪文だけでも。魔法の玉の真髄は、火薬の爆発力を呪文の障壁で封じ込めてコントロールするものですから」

 それを見たクワンダも、槍を使って棒高跳びの要領で後を追います。

「シバルタ!」

 マリカが拘束呪文の応用でツタを伸ばし、クワンダを自分たちの乗る車椅子へ引き寄せます。

「あわわっ!?」

 しかし、シャルロッテが勢い余って車椅子から飛び出してしまいました。そのまま砲弾の如く回転しながら、まほうおばばの顔面にごっちんこ。

「グワーッ!!」
「ぎゃ〜っ!!」

 ダブルKO。シャルロッテとまほうおばばは、頭の上で星がくるくる回って気絶してしまいました。そして後を追ってきたキラーマシンが、ジャンプで浮島へ渡ろうとするも、飛距離が足りずに下の階へ雪崩を打って落ちていきます。

※ ※ ※

「うぅ〜ん、ひどいめにあったでち」

 シャルロッテが目を覚ますと。一行は全員無事で、浮島フロアにたどり着いて休憩をとっていました。そして、ツタで縛られたまほうおばばの姿も。もう抵抗するチカラは無いようです。

「こ、こんなはずでは…」

 どこからか、もの悲しげなバラードが流れてきます。

「わしはな、この塔の攻略でアリアハンの遺産を手に入れて魔王軍の幹部に返り咲くつもりだったんじゃ。あのヒミコさえおらなんだら…」

 作戦は失敗、戦いに敗れ、全てを失ったまほうおばば…アミダおばばが、苦難に満ちた人生をつぶやくように語り出しました。


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