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営みに涙が出た「のぞき見ドキュメント100カメ × 阪神タイガース・ファン」

NHKに『のぞき見ドキュメント 100カメ』という番組がある。不定期で放送されていて、16日(月)の放送が3回目。これが超よかった……!

『のぞき見ドキュメント 100カメ』は、とある場所に小型固定カメラ100台を設置して、人間の生態を探るドキュメンタリー番組。繰り返すけどカメラ100台である。正気か!? という物量だ。編集だって大変でしょうこれ。

初回は「少年ジャンプ編集部」だった。狭い編集部にカメラを100台。デスクやロッカーの上、会議室の中、廊下や喫煙スペースに至るまであらゆるところにカメラがあって死角無し。濃いキャラクターの編集者がウロウロし、あっちで話している人がこっちの人のことを言っていたりして、物語が同時多発的に起こるのがたまらなかった。

2回目は「ZOZOデザイン部」と「はじめしゃちょーの部屋」。そして今回が「阪神タイガース・ファン」編なんですよ。

これまで100台のカメラはひとつの場所に所狭しと置かれ、クローズドな人間関係を映し出していた。今回の100カメはいろんな場所に置いてある。質屋、タクシー、ママ友たちの夕食会、テレビの前に集まる子どもたち、居酒屋、バー、食堂、オモチャ屋、そして甲子園球場内で自撮りをお願いした数名……みんなみんなみーんな熱心な阪神ファン! 8月31日の阪神対巨人、伝統の一戦をファンたちがそれぞれの場所で観戦する様子を、100台のカメラが同時に映し出すんですよ。

しかもこの日は、阪神を支えてきたレジェンド・鳥谷選手の退団が発表された日。タクシーの運転手は客と退団を嘆き、鳥谷選手の大ファンである質屋の主人はスポーツ新聞にブツクサ言ってる。老若男女みんなが「鳥谷…」「鳥谷が…」と寂しがっている。

試合が始まれば観戦はヒートアップ。球場ではアルプススタンドからヤジを飛ばすおじさんがいて、揃いの着物(虎柄)を着たマダムが判定に文句を言う。居酒屋ではご機嫌なお父さんがいて、点を入れられた瞬間に入店した人が「お前のせいや」といったん追い出される。カメラはリバプール(イギリス)の阪神ファンのところにまで置いてあり、現地時間朝10時からビール片手に中継を見ている。

それぞれの場所でみんなが「阪神を応援する」という行為でひとつになっている。違う場所、同じ時を共有している。お互いまったく面識はないのに。

試合は7回。ラッキーセブン。甲子園球場では黄色のジェット風船が客席から一斉に宙を舞う。ここで鳥谷選手がウォーミングアップを始めるが、結局代打に立ったのは中谷選手。「なんで鳥谷やないんや」と、居酒屋では質屋の主人が、民家では子ども阪神ファンたちがブーブー言う。

その中谷選手が、ホームランを打つのだ。

画面は2分割、3分割、そして数えられないほど細かく分割され、カメラに映る人々が「やったー!」「よっしゃー!」と歓喜に沸く。なんだか見ていて涙が出てきた。

試合は阪神の勝利で終わった。家族でテレビ観戦してた主婦は「アレクサ!六甲おろし流して!」と叫び、店を閉めてラジオを聞いていた食堂の主人は「やっと勝ちよった」とラジオを消す。

まるで谷川俊太郎『朝のリレー』のように、各々の阪神ファンの営みが試合のときだけクロスする、そんなもの肉眼で見れるわけがない。100台のカメラだからこそできる芸当。今のところ再放送の予定はないけど、ぜひみんなに見てもらいたい番組。VTRを見守るオードリーの視線も優しいんだ。

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