インタビューに悩むすべての人に『インタビュー大全』を
ライター歴も10年目になり、ここ数年は年間100件以上インタビューをしてるんですけど、未だに緊張するし全然慣れません。
もちろん回数を重ねることで場慣れもするし、こういう展開で話を聞こうという道筋もわかってくる。でも、うまくいく日もあれば、うまくいかなくて「あー」となっちゃう日もまだまだある。必勝法みたいなものが全然ない。あー。
……となったところで、最近読んだ『インタビュー大全』が素晴らしかったのでぜひ紹介させてください。駆け出しのときに読みたかったなぁ……!
経験則ではなくストラテジー(戦略)
インタビューは掴みどころのない生き物なうえ、他のライターがインタビューする現場に同席することなんてまずない。なのでどうしても「習うより慣れろ」になり、自己流でなんとかやる感じになっちゃう。
この本の著者、大塚明子さんは雑誌のディレクター兼ライターとして30年にわたり約2000人にインタビューをしてきた。そしてその仕事のかたわら、大学院で日本語を学び、インタビューのストラテジーを研究してきたという。
つまりこの『インタビュー大全』、単なる経験則からのアドバイスではなく、インタビューを分析して導いた「戦略」があますところなく書かれているのである。
たとえば第4章「スピーチレベルの『ダウンシフト』」
インタビューでは失礼のないように基本的に敬語で話すけど、そのままだと相手との距離が縮まらない。そこで、会話における丁寧度(スピーチレベル)を落として、素の感情を表現すると親密さが生まれるという。
平たくいうと、あえて「タメ口」を混ぜるのだ。言われてみればこれよくやる。「え!初海外でインドって⁉︎」みたいなリアクションとったりする。いきなりタメ口が難しい場合は「かっこいいなぁ……」と独り言のように言うのもいいらしい。
第7章には「中途終了型発話」というものが出てくる。
「〜ですか?」と疑問文で聞くのではなく、「〜だそうで」とか「なるほど。〜だと」と、最後まではっきり言わない聞き方があるじゃないですか。あれです。
中途終了型発話には、会話のターンを譲りましたよと伝えることで、会話のリズムをよくする効果がある。漠然とした質問を投げることで、回答の自由度が広がったりもする。なんとなく答えを絞り込んだり、あからさまに聞くのを避けるときにも有効。そんなに便利なものだったのか。
他にも、「常套句や一般論で答える相手から本音を引き出す」「わかりにくい発言にあえて反論する」「共感を示すために自分のことをどれくらい話すか」など、これ困ったことあるわとなるシチュエーションへのストラテジーがたくさん。
書かれているメソッドを既に実践していても、それが有効であると改めて解説されたり、手法に名前がついていたりすると、自分の中で意識も高まる。
インタビューが上達する「習慣」
ただ、『インタビュー大全』は単なるテクニック集でない。インタビューなので相手から情報を引き出すのはもちろん大事なんだけど、根底にあるのはいかに気持ちのいい会話ができるかどうか。
相手に興味がないと、質問の元になる「気づき」が得られないし、会話も続かない。普段からポジティブに人を見て、思ったことを素直に言葉にする習慣を身につけることが、インタビュー上達のカギ。というか、人間関係そのものを豊かにする。
というわけで『インタビュー大全』、駆け出しのライターはもちろん、中堅からベテランにも発見のある本で大変おすすめです。背筋が伸びます。
解説だけでなく、理解度をチェックできるワークもあるし、かわいいウサギによる会話の例も豊富だし、途中に挟まれたコラムで過去の失敗談に「ヒュッ」とします。ぜひ。
スキを押すと「今日のラッキー路線図」で表示されます。