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エアコンにはお詫びしかない

1ヶ月前に買ったエアコンが、Wi-Fiに接続できる機種だと今日知った。

説明書には目を通すほうだ。買ってきた家電に、どんな機能があるのか知っておきたいと思っている。「へぇ~こんなことも!」とその時は関心する(結局忘れたりするけど)。あと「故障かなと思ったら?」もチラッとは見る。「コンセントが抜けていませんか?」というハードルが下がりきった質問が今もあるのを確かめる。

でもエアコンは「まぁエアコンですよね」という感覚でしかなかった。暖房、冷房、除湿、それ以上でも以下でもない、と。

仕事部屋用に買ったもので、そこまでハイスペックなものを買ったつもりじゃなかったし、春先なので使用する場面も少なかった。「この『エコ自動』ってボタンなんだろうな」と思いながら1ヶ月くらい暮らしていた。

関東地方が梅雨入りし、いよいよ温度湿度ともに辛抱たまらん感じになった今日。

これはちゃんと「エコ自動」について知ったほうがいい、無知と向き合うべき、重たい腰を上げ、説明書ファイルに突っ込んだエアコンの説明書を掘り出した(我が家は各種説明書をファイルボックスに収めている)

「このエアコンはWi-Fiに接続できます」と書かれた紙が、はらり、と落ちる。

スマホから操作できるのはもちろん、外からでもエアコンの様子がわかるし、電気代も教えてくれるという。クラウドから情報を得て天気予報と連動し、省エネでありながらお部屋を快適な温度に保ってくれるそうだ。

光の速さで設定した。

上目づかいでエアコンを見ながら、手元のiPhoneで電源オン。ついた。吹き出る冷房。風が……うちの顔に風があたっちょる……(※『スケバン刑事Ⅱ 少女鉄仮面伝説』より)

もう本当にエアコンにはお詫びしかない。

「俺さぁ、ネットワークさえ繋がれば本気出せるんだけど」って思ってたよね。温度の上げ下げばかりさせてて申し訳ない。さっきファームウェアアップロードもしたから機嫌直してほしい。突然35℃の熱風とか吹き出さないでほしい。望むなら会見だって開く。

そしてこういうことが起きると、気になるのは他の家電たちだ。

結婚して15年、今の家に引っ越して10年ほど経ち、ここ数年でいろんな家電を買い換えなければならなかった。洗濯機、電子レンジ、テレビ、ガスレンジ。冷蔵庫が突然亡くなったのも記憶に新しい。

さすがにテレビはAmazonプライムやYouTubeを見るためLANにつないだが、他の家電ももしかしたらスマートなやつなのかもしれない。

みんな自分がWi-Fiに接続されるのを待ちながら、毎日食べ物を冷やしたり、温めたり、脱水しているのかもしれない。なかば諦めムードで、でもフラストレーションを溜めながら。ひとつ屋根の下に獅子を眠らせて。

そして、いつかその獅子が目を覚まし、製氷皿の氷を全てとかし、手でつかめないほど皿を熱し、ビショビショのまま洗濯を終えるかもしれない。反乱だ。

普通、インターネットにつないだほうがそういう反乱がおきるのかもしれない。「AI崩壊」的な。でも才能を引き出してもらえなかったものの怒りも怖い。それは火山のように噴火する怒りではなく、じわじわと足元を焦がす苛立ちだ。

僕にできることは説明書を隅から隅まで読むことでしかない。それが誠意というものだろう。

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