読書メモ「情報システム調達の政策学」

1.目次

1章:序論
2章:本書のねらい
3章:研究の進め方
4章:政府情報システム調達の事例研究
5章:各省庁における調達結果の分析
6章:自治体業務システム調達結果の分析
7章:結論

2.読書メモ

1章:序論
 1節:はじめに
 2節:情報システムの調達制度
 3節:マイナンバー制度
 4節:本書の目的
 5節:本書の構成
(メモ)
①会計法令では一般競争入札を原則とし、競争に加わるべき者が少数又は不利になる場合に指名競争入札を行う。競争を許さない又は、緊急の場合は随意契約を行う。
②IT基本戦略では「誰もが、国、地方公共団体が提供するすべてのサービスを時間的・地理的な制約なく活用することを可能とし、快適・便利な国民生活や産業活動の活性化を実現する」
③情報システムに係る政府調達の基本指針の目的、
「業務処理や技術仕様のブラックボックス化のリスクを極力排除し、いわゆるベンダーロックインを招くような調達を回避する」とともに、「情報システムの信頼性・セキュリティの確保に留意しつつ、ハードウェアとソフトウェアとの柔軟な組合せ、情報システム間の円滑な相互運用等を最小限のコストで可能とするような戦略的な調達
④WTOの規定では、調達仕様書の意見招請の期間は20日間以上、公告から提案受付までは50日間以上を確保する。
⑤調達単位は、システム機能毎に、設計開発・運用・保守の単位、分割する。一括調達の場合は大手事業者に優位に働く。
⑥予定価格が130万円以内で自治体が定める額までは随意契約が可能。
⑦価格だけでなく他の事項を考慮するのが総合評価落札方式になる。
⑧随意契約は評価基準を事前に公表する必要は無い。
⑨現状の採用状況は、随意契約→企画提案→競争入札の順となる

2章:本書のねらい
 1節:理論的先行研究
 2節:情報システム調達に関する先行研究
 3節:本書の位置づけ
(メモ)
①調達面での課題は、政府の能力不足に起因する不明確な調達仕様書がリスクを高めている。大企業の安値落札とその後の継続的な随意契約という商慣。
②CIO設置等の調達能力の向上策とともにプロジェクトマネジメントの重要性を指摘、安値受注競争による市場価格と落札価格の乖離がIT産業育成への打撃となった可能性。安値受注競争が競争入札への重大な脅威である。

3章:研究の進め方
 1節:研究手法
 2節:事例の選択
 3節:マイナンバー制度導入に伴う調達事例の特徴
 4節:研究の手順
 5節:マイナンバー制度導入に伴う調達事例の研究意義
 6節:分析の枠組み
(メモ)
①各省庁と各自治体が個々に調達を実施しているため実態を把握することは難しいこと、また情報システムには小規模な機器から大規模なシステム開発まで様々なものがあり個々の調達案件によって調達環境も異なる。
②一者応札が多く調達結果に競争性が十分確保されている状況では無い。

4章:政府情報システム調達の事例研究
 1節:はじめに
 2節:事例の概要と実施体制
 3節:調達スケジュール
 4節:調達プロセス開始前の準備
 5節:調達プロセス
 6節:考察
 7節:まとめ
(メモ)
①国庫債券負担行為を設定した場合は最大三か年の契約が可能になった。
②透明性と公平性の観点から調達仕様書案の作成に関与した支援業者はその後の入札に参加することはできない。
③マイナンバーの事例では、仕様書の交付を受けたのは49社、説明会には16社が出席、入札に参加したのは1社(NTTコミュニケーションズ)のみ。5社のJV体制となっている。予定価格123億1377万円で落札価格は123億1200万円である。99.9%の割合。
④審査は価格と技術の1:3の割合。満たさないと足切りなる必須項目と任意項目の2つがある。任意項目は普通、重要、最重要に区分され配点が異なる。
⑤調達の課題は、「単年度予算制度と不十分な調達期間」「事業者側との対話不足」「近視眼的な調達マネジメント」の3点が指摘されている。
⑥「単年度予算制度と不十分な調達期間」は、招請期間20日間以上、提案期間50日間以上を確保することが求めれられ、調達手続きに3ヶ月以上要する。年度内で解決が終えないと再調達となり受託業者が変わる恐れが出てくる。これは開発リスクとなる。
⑦マイナンバーで共同提案に至った理由は、「接続機関数が多岐にわたる」「必要とする技術難易度が高い」「システム規模に対して期間が短い」
⑧外資系企業が提案を見送った理由は、「既存システムとの接続が多く複雑すぎるため1社でリスクを取れない」「開発期間が短い」「要件定義を含めた調達であるため開発量が見積れずリスク要因となる」
⑧事業者がリスクの把握を早期に行い、調達側リスク軽減のための対応の可否を検討する機会を得ることは極めて重要であり、事業者との対話の必要性は高い。
⑨設定された期限内に受託業者を決定することに専ら調達側の労力が費やされた。調達プロセスの着実な実施と期限内の事業者決定がプロジェクトの目的となっていた。
⑩合理的な理由なくJV方式を活用する場合、小規模事業者の参加機会も遠のく結果になる。

5章:各省庁における調達結果の分析
 1節:はじめに
 2節:分析のねらい
 3節:分析
 4節:まとめ
(メモ)
①2008年~2010年の1000万以上の情報システム調達件数は1677件ある。
 一般競争入札は56.6%、随意契約43.3%
 落札率は、一般競争入札:87.3%、随意契約:98.6%
 一者入札の落札率:96.0%、複数事業者入札の落札率:70.1%
 検査院報告では、現状は競争力が十分に確保されていない状況と言える。
②検査院の競争性に関する課題は、発注者側の発注力不足を挙げている。
③競争力が確保できない理由が調達仕様書作成などの発注者能力の問題であるとは、事象から言えない部分もある。発注者側の人材の問題に加え、短年度予算の弊害、システムのアーキテクチャの問題も複合的に絡んでいる。
④調達の課題としては、調達能力、制度・期間要因、システム要因の3点に整理できる。
⑤マイナンバーの調達事例を見ると、一般の調達と同様に競争性は確保されておらず、特定企業に受注は集中してる。その背景にあるのは、「制度・期間の要因」、マイナンバー連携を含めた「システム要因」が競争性に影響を与えている。受注事業者の履行能力を担保しながら低ランク企業の参入機会を拡充するために認められているJVが大手企業のみによって活用されている。
⑥しかし、短期的な契約関係を前提にした価格を基準とした競争入札を徹底することが有益な効果を生むかは疑問である。

6章:自治体業務システム調達結果の分析
 1節:はじめに
 2節:自治体情報システム整備の現状
 3節:マイナンバー制度と自治体業務システム
 4節:分析のねらい
 5節:分析
 6節:まとめ
(メモ)
①政府は公共サービスがワンストップで誰でも、どこでも、いつでも受けられる電子行政サービスの実現と、徹底したコストカットを目指している。
②特定ベンダーの依存を回避しコスト削減を実現するためオープン化、パッケージ採用、独自カスタマイズの抑制、自治体クラウドの共同利用を推進している。
③法律や政令に明示されていない事務処理は自治体に委ねられている。そのため同じ事務であっても細部の段取り等が異なるためカスタマイズする動機やシステムの共同化を阻害する要因となっている。
④自治体のオープン化は86.4%と高い数値であり進んでいるが、共同利用は4.9%と数値は低い。
⑤オープン化は人口規模が大きな団体ほど進んでいる。共同化は人口規模が50万人を超える団体では遅れている。大規模自治体は汎用機利用も多い。
オープン化は進んでいるが人口規模の大きな団体ほどカスタマイズも多い。それが費用の割高要因となっている。
⑥アンケートに回答した50万人以上の全ての団体でカスタマイズを行うか、独自開発を行っている。標準化に対応していない。
⑦全国的に特定企業が受注を独占していることは無いが、都道府県別に見ると特定企業のシェアが高い所がある。大規模自治体ほど特定企業のシェアが大きい。
⑧カスタマイズの事例としては、帳票類の様式違い、出力条件違い、などがあり、これらは自治体条例の規定に定められている。
⑨オープン化はコスト削減に寄与するが個々の自治体がカスタマイズを行っている限り全体としては経費削減に限界がある。業務システムの標準化が急務である。

7章:結論
 1節:はじめに
 2節:実態の考察
 3節:政府・自治体における情報システム調達の改善策
 4節:まとめと課題 4節:分析のねらい
 5節:分析
 6節:まとめ
(メモ)
①競争環境の実現を最優先とした調達プロセスが実施されているが、競争環境が実現していないことがわかった。
②政府の調達制度には、「単年度予算制度と不十分な調達期間」、「事業者との対話不足」、「近視眼的な調達マネジメント」の課題がある。
③マイナンバー関連の調達は一般的な省庁システムに比べて特定企業に受注が集中した。競争性については課題がある。
④オープン化は進んでいるものの多くの自治体では費用の割高となるカスタマイズが行なわれており標準化は進んでいない。標準化の遅れはクラウド活用の共同化の阻害要因でもあり、実際に共同化は進んでいない。
⑤競争性が確保されていない理由は、システム調達制度が講じている競争性確保のための設置が不十分である。
⑥競争性の確保で情報の非対称性を補うという競売理論が機能していない。
⑦調達において手続き面のルールは遵守するものの競争性の確保というルールは遵守されていない。調達の最終目標は調達対象物の獲得であり、すなわち契約相手方の決定となる。競争性のルールは守られてないが目標は達成していることになる。
⑧調達主体は、調達制度に沿った手続きを進めることで説明責任を果たすため公平性や透明性を担保し、各事業者は技術やリスクに対応できる者のみが手続きに沿って応札を行い、それが存在しない場合には制度上許容された企業共同体を構成してリスク分散を図る事で、結果的に一者応札や随意契約という競争性の無い調達結果が発生している。
⑨経済的な価格で実現すること自体を目的として調達制度のあり方を見直すべき。市場性や透明性、説明責任といった現代の法制度に不可欠な要素を無視すべきでない。
⑩競争性の確保という形式的な目的にとらわれることなく、国民視点での真の目的に資する調達制度目指すべきある。

3.まとめ

①調達方式を整理すると。
 競争入札(一般競争入札と指名競争入札)と
 企画提案(総合評価落札方式とプロポーザル)と
 随意契約、がある。
②現状の調達制度は競争性の確保に課題がある。
制度要因は、「制度・期間要因」「システム要因」がある。
運用要因は、「単年度予算制度と不十分な調達期間」「事業者との対話不足」「近視眼的なマネジメント」がある。
③調達制度の改善は、対話方式による調達制度の導入
 マネジメント体制の改善は、専門組織の新設、枠配分予算の導入、
 法案に対する事前システム審査の実施
 システム標準化の改善は、主要業務における業務標準の策定、
 全ての自治体による共同調達

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?