読書感想文『スワン』

こんにちは。呉勝浩さんの「スワン」を読みました。表紙はこのような感じです。

画像1

青空が素敵ですね〜  あと帯の文章!

「無差別射殺事件」

 私はフィクション前提でテロものとかの犯罪小説が好きなので、この帯の「無差別射殺事件」の7文字だけですぐ本を開きました。脊髄反射です。落ち着いて欲しいですね。

普通によく見たら分かるんですけど、これ帯の7文字の下にも文章が続いているんですね。
お分かりのとおり、

この本の主題は無差別射殺事件ではなくその後のお話なのです。なるほど!私は途中まで読んで気がつきました。理性ある読書を心がけたいと思います。

主人公はバレエを習う女子高生の片岡いずみちゃん。時間の中で、犯人との接触がありながら生き延びた少女です。(ちなみにこの本では全体としてバレエの「白鳥の湖」がよく見られます。モチーフがあってお洒落な構成ですね)そして表紙見返しの文章、

「自分は被害者なのだと思っていた。
だけどそうじゃなかった。

次はわたしだ。
いつか、暴かれるー」  

エッ被害者じゃないの!?という感じですよね。

そう、いずみは事件の最中で、半ば無理やり次に撃つ人間を選ばされているのです。もちろん、犯人に、です。こわい

ここまでが帯の内容です。気になる方は是非読んでみてください。いずみ目線が多いこの本では、バレエをやっている彼女の世界の見え方を楽しむことができます。多く感じるバレエの専門用語も、その場の雰囲気や文脈で理解できて言葉の持つ躍動感そのままでいずみに感情移入することができました。決して軽くはないですが綺麗な本だと思います。ぜひ!

ここまであまり本編の話をしてないのにびっくりしたので、少しさわりの部分を。

舞台は埼玉県湖名川市、湖名川シティガーデン・スワンというショッピングモールです。とある4月の日曜日、犯人グループは無差別にスワンにいる人々を撃ち、そして自殺しました。死者は21人。その中で生き延びた者のうち、いずみを含めた5名が招待された「お茶会」の中の対話を通してとある人物の死の正体を探ります。そしてその中で明かされる事件の全貌、ひいては「悲劇の総括」とは!?   概要はこんな感じです。

また、この「お茶会」には参加費として一回一回で1万円ちょっとが支給されます。真実を話す者には3万円のボーナス 。なかなか太っ腹な話ですよね。でもボーナスを払われる者はいない。みんな嘘をついているからです。ワーイ面白い。
誰もが後ろ暗い思いをしながら生き延びた者、隠したいことだってあるけれどあの日あの場所の真実は知りたい……。そんな5人の駆け引きも見どころです。

ちなみにこの本の特徴の1つとして、監視カメラ映像とは別に「NO動画」なるものが出てきます。犯人たちの頭文字を取ったそれは、彼らの犯行の様子をサングラス横のカメラから撮影し、さらにはその後自動で動画サイトにアップロードされたものです。
もちろんすぐに警察に消されてしまうのですが、ネットに一度載ったものは決して消えません。この本においては、「お茶会」の主催者はこの動画も元に嘘真の判別をしていく、というのが中々面白いポイントだと思います。いずみが、この事件で彼女を弾劾した書き込みを見てショックを受ける場面もあります。なんだか現代的ですね。

それと、そもそも何故いずみはバッシングを受けているのか?ということです。だって、「NO動画」では犯人の謎の美意識により、問題のいずみが犠牲者を選ばされたスカイラウンジ(多分最上階のオシャレ空間のことです)のシーンは映っていないのです。それでは何故…?

答えは、いずみをこの日スワンに呼び出した、いずみが大嫌いな少女:小梢にあります。スカイラウンジでいずみと共にいた彼女は、犯人によって重傷を受けました。そして病院のベッドの上で、週刊誌に いずみの行いを告発したのです。いずみは、この日から一転してネットで叩かれるようになってしまいました。

このように泥沼の予感しかしない場面設定ではありますが、案外最後は綺麗に終わってくれます。解決する、というよりは解決への道が見える、という終わり方でした。最後の一文がムチャクチャにうつくしかったです。やはりモチーフが一貫しているところが強い。色々なところでそれを匂わせる文章があると、見つけるのも楽しいですよね!

私自身さいきん本を読めていなくて、スワンで久しぶりに一気読みなどしました。面白いので…  皆さんもぜひ読んでくださいね。それではさようなら!長々もお付き合いいただきありがとうございました。




この記事が参加している募集

読書感想文

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?