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熊野比丘尼の奄美紀行 しまっちゅ編  ~不羈の民の住む島へ~(前編)

年明けから1か月、奄美の加計呂麻島へ行ってきました。
「奄美には何があるの?」
「アマミノクロウサギが見たいの?」
など、親や知人から明後日な方向の質問ももらったけれど、なぜ行くのか、自分でもよくわからなかったのです。

2年前に初めて旅行で来た時の、実家以上にリラックスしてしまったあの不思議な空気、奄美大島の中をバスでずーっと南へおりてきて、さらに船で加計呂麻島へ渡ってきた時の、自分の中の時間感覚がぐっと引きさげられ、ただただゆったりする感覚。
そうしたものを確かめるために、少し長めに滞在しようというのが、強いて言えば旅の目的でした。

昨今の世の中は便利なもので、畑仕事や旅館の手伝い等の労働力を提供する代わりに、食べ物と寝る場所を提供してもらう、WWOOFという仕組みがあります。
これが、出費を抑えて長期滞在型の旅をしたい私のような人間には、大変ありがたいのです。
そんなわけで、私は、ゲストハウス『海宿5マイル』のお手伝いをしながら約1か月、加計呂麻島で過ごしました。

大切なのは「自立」すること

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まず初めに印象的だったのが、「おとう」こと、5マイルのオーナー。
お手伝いスタッフとして、朝ご飯の食器を洗っていた時、こんなことを言われました。
「子どもの分は洗わなくていい。それは親切じゃない。将来、自分のことも自分でできないようでは、あの子らが困る」
親切からした行動ではなかったので、私としてはちょっと複雑な気持ちでしたが、自立を何よりも尊ぶ姿勢の徹底ぶりに驚かされました。

そう思っていろいろと見ていると、おとうは本当に何でも自分でできる人に見えました。
毎日のように船を出して魚を獲って来ては、お客さん用のお刺身やフライを作り、餅つきの日に雨が降りそうなら、壁にくぎを打ち込んで即席でブルーシートの軒を張る。
ストーブで焚くための薪(奄美といえども冬はそれなりに寒いのです)は、おとうが周辺の木を伐って作ったものだし、それどころか、建物もベッドも、軒下のブランコやハンモックも、ゲストハウス全体がおとうの手作り。
別のゲストハウスのオーナーが増築の際のモルタルについて、おとうと相談しているのも聞こえてきました。
(ホントに0から作ったんだ…だからその経験をみんなが頼りにしてる)
活きた知識の話をしているのを聞きながら、私はそう思いました。

女将のりえさんもこれまた、料理上手で何でも手作りする人。
宿のお客さんは「女将の料理が美味しいって聞いて」と泊まる方も多くて、冷蔵庫には手作りのお漬物や常備菜のタッパーがぎっしり。
私が到着した1月上旬は、りんごとレモンの酵素ジュースが漬けられていて、宿泊客のない日には、麹づくり、味噌づくり、廃油せっけんづくり。
特に、りえさんの発酵食品への愛は並々ならぬものがあり、麹をつくっている間などは、生まれたての赤ちゃんをお世話するように、熱や湿気に気を配って麹菌を可愛がっていました。

タカテルポイントの夕日

滞在中に見聞きした物事の中で、一番素敵なストーリーが「タカテルポイント」です。
5マイルから車で15~20分ほどのところに、タカテルポイントという夕日の名所があります。
加計呂麻島の地図にも載っているので、名前だけは見ていたのですが、よくよく聞けば5マイルのおとうこそが「タカテル」さん、「タカテルポイント」はおとうが娘さんのお誕生日にプレゼントした夕日ポイントとのこと。
ちなみに、おとうは、パッと見は素朴な漁師さんです。
(なのに、お誕生日プレゼントが夕日ポイントだなんて、なんて浪漫思考な人だろう!!)
失礼ながらそう思って、そのギャップに益々感動したのでした。

そして実際に行ってみると…

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そこは本当に気持ちの良い風が通る場所でした。
湾を一望するために斜面の木を伐ったのか、周りと少し違った背の低い植物が生えていて、草木越しに海を見下ろせるようになっています。
かなりの高さから浜を見下ろす感じなのに、遠くても潮騒の響きがちゃんと聞こえてきます。
女将のりえさんのご厚意で、お夕飯のお手伝いを途中で抜けさせてもらって見に行った夕日。
夕映えのグラデーションと共に感じた、おとうから娘さんへ、りえさんから私たちへ、昼から夜へ、太陽から地球へ、いろんな時空間の好意と交歓がひたすらに心地よいひと時でした。

後編へ続く

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