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【思い出】サッカーの公式試合中、気絶したふりをした話

私が高校の時の話です。

小中高とサッカー部だった私は、一般人よりもまあ上手い程度の技術を持っていました。

離島の学校ということもあり、他のチームと試合をするという機会もあまりなく、基礎的な練習を無限に繰り返すのみでした。

その中で培われた、まあ上手い程度のスキル。

明確な敵のいない私たちの環境では、そのくらいの能力で十分でした。

そんな私たちですが、やはり大会には出場したいと思うものです。

ある春の日、私たちは公式試合に赴くべく、フェリーに乗って遠征に出かけました。

「勝ちたい!」というよりも「勝ってみたい」という気持ちが先行し、その堕落した態度に根ざした「旅行気分」が、私の緊張感を鈍くしてくれました。

相手のチームは見たことも聞いたこともない名前の学校でした。

まあ、基本的に島外の学校の名前なんて知るよしもありませんから、へえ。としか思いません。

分析? 敵を倒すだけなんで、必要ないのです。

そんなこんなで、試合開始。

相手がどんなチームなのか。

誰が驚異なのか。

どの程度強いのか。

全くの前情報無し。私たちは試合中に「あいつやばそう」と学んでいくしかありません。

みんなが学ぶ間、私は全力でディフェンスをしました。

沢山練習したであろう敵の息の合ったフォーメーションはまさに難攻不落。

一生懸命にパス練習をしただけの私たちでは、やはり歯が立ちません。

荒波の水面で息をしているような辛い展開の中、突然私に向かってボールが飛んできました。

絶好のチャンスです。

そのボールを前に飛ばそうとする私の隣には、がたいの良い敵のフォワードがいました。

ボールを取ろうと競り合う私たち。

しかし相手の身体の軸は一切ぶれず、その堅牢さは大木を思わせました。

私は驚愕に目を見開きつつ、ヘディングの構えを取りました。

頭を前に突き出した、そのときでした。

敵の足が、私の頭を蹴り上げたのです。

思わず倒れる私。

ピピー!!と審判が笛を鳴らしました。

試合が中断され、私の周りにぞろぞろと人が集まってきます。

ベンチにいた大会本部の人も、救急医療セットを持って私のところのかけてきました。

チームメンバーも集まり、「大丈夫か!?」と一同に投げかけてきます。
何と悲惨な状況か。

思わず天を仰ぎたくなるかもしれません。

しかし、私自身はめちゃくちゃ無傷でした。

痛みゼロ、傷ゼロ、めまいゼロ。

何も痛くなく、めちゃくちゃ元気でした。

単にバランスを崩して倒れただけなのに、まるで交通事故に遭ったかのような重く険しい雰囲気。

接触した敵のフォワードも本当に優しい人なのでしょう、「大丈夫ですか!大丈夫ですか!」と、顔をくしゃくしゃにしながら私を心配してくれています。

そんな状態で、「いや別に痛くないっすよ。」なんて言えるわけがありません。

なんせ、こっちは衝突事故のように派手に倒れたのですから。

もう演技をするしかありません。

私は、意識がもうろうとしているフリをし、「ぎりぎり試合に復帰できますよ感」を見事に演出しました。

大御所俳優にも引けを取らない演技により、無事誰にも悟られずに試合に復帰し、そしてちゃんと負けました。

めちゃくちゃ大敗北しました。


周囲の雰囲気に流されることは、大きな範囲で見ると効果的かもしれません。

しかし、無理して周りに合わせ過ぎると、こちらが辛いだけです。

合わせるときと、自分を通すとき。

しっかり分けられるようになると、より良いのかもしれません。

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