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おたがいさま

実をいえば、今、本当に困っている。
心臓が早鐘を打つとはこういうことか、と実感した。
自慢じゃないが、不整脈も持ち合わせているので、
時に、脈が一瞬飛んでしまう。


トクントクン トクン


ここ数日泊まり込みで缶詰状態だからかもしれない。
そうであって欲しい、気もしている。

ソファは私のことを柔らかく受け止めて、さらに鳴り響いて、五月蝿い心音も受け止めてくれている。


いやはやそんなことよりも本当に困っているのだ。
先程よりも強く胸が締め付けられている。
痛みが絶えない、それもここ数日のこと。
ただ、自分の部屋にいれば治るのかと思えば、
そうでないことも知っている。


(この病気は本当に厄介なもので、特効薬や新薬もなく、
一過性に過ぎないものであると医師から言われている。
初めてこんなに強い痛みを経験した時は思わず病院に行ってしまったものだ)





右肩に急に重みを感じる。
それと同時にまた心音が速まり、胸が締め付けられる。

痛い、痛い、いたい、いたい!
ドッドッドッドッ

数時間前からじんわり手に汗が滲んでいる。
拭きたいのだが拭けない。





映画を観ていたんだった、内容は全く覚えてないけど。
オススメというから、一緒に見ていたんだ。
そうだそうだ、お泊まりしにおいでと言ったのは恋人だった。

それを快諾したのは、独り占めしておきたかったから。
そんな貴方を縛るようなこと言わないけれど。
映画の最中に、横顔を盗み見ていたら、胸がどんどん苦しくなって……。
ふと右肩に視線をやるともたれかかっている恋人が目に入る。
どうしてこんなに、愛おしいのだろう。



いたい、いたい、いたい、いとしい



重ねたその手は熱を持ち、汗を滲ませている。
起こしたい。起こしてその瞳に自分を映して欲しい。

ただ重ねている手を、ぎゅっと握り込む。

いたい、いたい、いとしい、はなれたくない

恋人の目に自分が映らないのならつまらない。
そう思い同じように目を閉じソファに身体を任せる。


トクントクン トクン トクントクン









本当に困っているの好きすぎて、愛しすぎて。
好きな映画を一緒に観ていたけれど。
そっとゆっくり目を閉じ、心の中で「せーの」と意気込んで、
貴方の肩にもたれかかって、寝たふりをしていたら

ぎゅっと手を握りこまれたの。

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