大月市初狩町の「甲州八木節」


「甲州八木節」をご存知でしょうか。
ほとんどの人は知らないと思います。

当然です。「甲州八木節」は「甲州」という名をしているのに、活動は山梨県でも大月市(主に初狩町)に限定されているからです。

今回はそんな「甲州八木節」について紹介します。

八木節とは


そもそも八木節は、栃木県・群馬県の両毛地方発祥とされる民謡です。国定忠治や平井権八などの人物が繰り広げる物語を、タルを叩きながら唄う盆踊唄として知られています。

「甲州八木節」とは


「甲州八木節」は、大月市初狩町で誕生した八木節です。
八木節のメロディそのままに、歌詞を特定の人物の物語ではなく、初狩町を中心とした大月市の名所などを紹介するものに変えられた八木節です。

冒頭でも述べたとおり、「甲州」の名のわりに歌詞のほとんどは大月市内のことであるため、「大月八木節」とか「初狩八木節」のほうが良いのでは…と思ってしまいます。
でも、大月市もかつては「甲州」だったので間違ってはないです。

「甲州八木節」の由来は、大正期に群馬県から来た飴売りが、販売中に八木節を口ずさみ、それを聞いた地元の人が気に入り飴売りから教わった、といわれてます。

八木節は大正3年(1914年)にレコード化されているようなので、レコードの販売を通じて広まったのは…。とも思います。

現在の「甲州八木節」


ともあれ、国定忠治など特定の人物から離れ、大月市の名所などを紹介する歌詞は非常にユニークです。
現在は60~70代の方が中心となり、町の盆踊り大会などで披露されるほか、地元の初狩小学校の児童が運動会などで披露するようです。
機会がありましたら取材をしたいと思います。

「甲州八木節」の歌詞について


現在の歌詞は、平成4年に作詞されたものです。
平成10年(1998年)、岩殿山かがり火祭りで披露された時の資料をもとに以下に記します。

1 ハアー ご来場なる 皆様方に 
高座御免を被りまして 何か一席 
伺いまする 係る下題は何かと聞けば 
「町の今昔」 時代の移り 時間来るまで 
伺いまするは オーイサネ

2 ハアー 昭和二十と九年の夏に
三町五カ村 合併なりて 町の発展
礎つくり 富士の眺めも よき初狩は
人の情けと 「気っ風」の良さで
緑豊かに 栄えまするは オーイサネ

3 ハアー 日進月歩の歩みの中で
中央本線 開通当時 九十余年の
流れは遥か 今じゃリニアの
敷設が進む 町民期待の 一大事業
明日を 夢みて 心弾むは 
オーイサネ

4 ハアー 春夏秋冬 四季ある中で
秋の祭典「神楽」と「神輿」 
由緒正しく 伝統行事 
若手修行も年ごと増えて 文化伝承
保存に向けた 町を 創ろうと
誓いまするは オーイサネ

5 ハアー 下の初狩 道興の歌碑で
中の初狩 芭蕉の句碑よ 競べ石
やら 木の葉の石は 蚕種石やら
燃え石 などと 伝説 史跡も 
数々ありて 語り自慢が 力競べて
オーイサネ

6 ハアー 栄枯盛衰 
習いの世なれど 
甲斐絹産地のその名を残し
機音響いた初狩(はかり)の里に
栄え築くは われらがつとめ
一致協力 こぞりて人の 
音頭に合わせて 町を興すは
オーイサネ

7 ハアー 集う笑顔の皆々様よ
並ぶかがり火 岩殿山の 夏の夕闇
浴衣も香る 城主 小山田信茂 公の
遺徳偲びて 市民はうたう 燃えよ
かがり火 いきいき音頭で
オーイサネ

8 ハアー 
読めばこの先まだまだ続く
もっとこの先読みたいけれど
後の先生と交代いたす まずは
ここらで 段ぎりまして またの 
ご縁に 文句にかかるは オーイサネ
(平成10年8月1日、第15回岩殿山かがり火祭りでの配布資料より)

甲州八木節 まとめ

これまで見てきたとおり、「甲州八木節」は「八木節」にこの地域ならではの要素を組み込んでアレンジしたものです。
「大月桃太郎伝説」もそうですが、オリジナルのものを地域的要素を組み込んでアレンジするという活動に、この地域の一つの地域性が見いだせるような気がします。
機会があれば取り上げたいですが、大月市には「大月阿波踊り」という阿波踊りも存在します。これは大月で踊る阿波踊りって感じですが。

「伝統的な」あるいは「地域性をもつ」という言葉とともに地域が語られる時、その地域における歴史ある独自の文物にスポットが当たることがほとんどです。「甲州八木節」のようなアレンジされたものについて注目されることはほぼなかったと思います。
ただ、アレンジすることも人間の行為であり、こうしたオリジナルをアレンジし、地域の中でより楽しめるよう変化させることも一つの地域性なんじゃないかなと個人的には思っています。

「伝統的な」あるいは「地域性をもつ」と認識されることにこだわらず、アレンジした活動で楽しむことを目的に続けていっていただけたら、と思います。

ここまで読んでいただき、ありがとうございました。

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