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インフラ巡礼 in 北海道 持続可能な道路除雪に向けて 現場で働く人にインタビュー!<知床横断道路の春山除雪編>


にこちゃん

きらちゃん、北海道の知床に行ったことある?

きらちゃん

うん!行ったことあるよ!
知床は平成17年に世界自然遺産に登録された地域なんだよね。

げんきくん

そうそう。
知床は冬になると流氷が接岸するんだ!
これが非常にダイナミックで、流氷ツアーなども開催され、
多くの観光客が訪れる地域なんだよ。

きらちゃん

知床には知床横断道路という国道があって、そこはまさに豪雪エリア。
そのため、様々な工夫を凝らして道路の除雪作業が行われると聞いたことがある!

げんきくん

お~、よく知っているね。
産学官民が幅広く連携して工夫しながら除雪に取り組んでいるのだとか!

にこちゃん

へえ~、そうなんだ。
すごく気になるな!
今回のインフラ巡礼では、是非、知床横断道路の除雪作業を見てみたい!

げんきくん

では、今回は知床横断道路の除雪をメインに現地を取材し、
事業に取り組む皆さんにお話を伺いましょう!


ということで、にこちゃん、きらちゃん、げんきくんは北海道の知床まで現地取材に行くことに!今回は北海道開発局 網走開発建設部 特定道路事業対策官の井内彰宏さん、開発監理部 開発調整課 専門官の水野亮介さんにお話をお聞きしました。(所属は取材当時)

知床横断道路を背景に、左から北海道開発局の水野さん、井内さん

1.知床横断道路と除雪作業を取り巻く課題


では、まずは簡単に、「知床横断道路」について見ていきましょう。知床横断道路とは、知床半島の羅臼町温泉(らうすちょうおんせん)と斜里町字岩宇別(しゃりちょうあざいわうべつ)を結ぶ、全長が約27kmにもおよぶ国道334号の知床峠越え区間の呼称です。この知床横断道路は、知床の自然を楽しむ観光客や地域住民にとっては、とても大切な道路で、必要不可欠なものとなっています。しかしながら、この地域は、世界自然遺産区域のため、環境に配慮して凍結防止剤の使用を控えていることから、北海道内における国が管理する国道(直轄国道※)の中で、唯一11月から4月頃までの冬期間に通行止めとなります。

※北海道内の一般国道は国土交通省北海道開発局が管理します。

上述したように、観光客や地域住民の皆さんにとって必要不可欠なこの道路。春の訪れとともにいち早く開通させるべく、雪が自然に溶けるのを待たずに除雪を行う「春山除雪(はるやまじょせつ)」と呼ばれる除雪を毎年行っているのです。

井内さんによれば、「北海道における除雪作業については、様々な課題に直面しており、その中でも特に大きな課題が、除雪機械オペレーターの担い手不足です。」とのこと。以下がその課題を表すグラフになります。確かにオペレーターの減少と高齢化が顕著なものとなっています。

「ここでの除雪機械の操作に関しては熟練の技術や経験を要し、まさに職人技が必要なのです。」(井内さん)知床横断道路の春山除雪も同様に、職人技を受け継ぐ担い手が減少するとともに、高齢化が進んでいることが大きな課題となっているのです。

さらに、近年の異常気象も大きな課題となっています。北海道内の国道では、暴風雪等の冬期災害に伴う、通行止めが頻発しており、交通への大きな影響を及ぼしています。

通行止めの影響により、除雪機械や除雪作業者の出動が頻発しています。その結果、除雪に対する除雪機械や人手が一時的に足りなくなる、という課題も発生しています。

以上のような背景から、知床横断道路においても「持続可能な道路除雪」が喫緊の課題となっているのです。では、実際の春山除雪作業がどのような作業なのか、写真とともに具体的に見ていきましょう。

以下が、除雪前に知床横断道路を空から撮影した写真になります。

赤い点線部分が道路になるのですが、ここが道路だと分かる方はどの程度いらっしゃるでしょうか?この春山除雪では、この道路を除雪していかなければなりません。以下がバックホウと呼ばれるショベルカーで、まさに斜面の除雪を行っている写真になります。

読者の皆様におかれては、この写真からも、そう簡単には除雪ができないことは直感的に感じていただけるかと思います。

また、以下がロータリ除雪車を使った除雪のシーンです。

冬期は豪雪により、道路に加え、ガードレールやカーブミラーなどの道路の付属物等も雪に埋もれてしまい、外からは見えません。つまり、目印となるものが見えない中で作業をしなければならないのです。加えて、険しい地形から、投雪の方向を変えるなどの判断も必要になります。つまり、このような環境の中での機械操作には、まさに、“熟練の技術や経験”が必要になるのです。

では、これまではどうやって除雪作業をしていたのでしょうか。井内さんによれば、以下のイラストのように除雪開始前にGPSを使って、除雪ルートになんと“人力”でスノーポールと呼ばれる目印のポールを設置していたとのこと!その目印を頼りに、熟練のオペレーターがバックホウで除雪を行っていました。また、除雪車による投雪作業は、道路施設や沿道形状を熟知した熟練オペレーターによりなされ、まさに熟練の技術や経験に基づく除雪作業だったわけです。

以上から、除雪作業における担い手不足や担い手の高齢化は、特に大きな課題と言えるのです。

2.課題解決に向けた取組~i-Snow~


以上のような状況の中で、北海道開発局では新たに「i-Snow」を立ち上げました。「i-Snow」とは、除雪現場の省力化による生産性・安全性の向上に関する取組プラットフォームであり、北海道におけるi-Construction(調査・測量から設計・施工・維持管理までのあらゆるプロセスでICT等を活用して建設現場の生産性向上を図る施策)の取組として、産学官民が広く連携し除雪現場の省力化に関する様々な活動を行う場が形成されました。

i-Snowには、様々な知見を持った産学官民の構成員が参画し、その知見を結集させて、各者が一丸となって除雪現場の省力化に向けて取り組んでいます。ここでは、特に最新の技術を活用した「除雪作業の省力化の取組」にフォーカスを当てて、i-Snowの取組を具体的にご紹介したいと思います。

3.除雪作業の省力化に向けた具体的取組


北海道開発局は、先に述べたi-Snowに参画する構成員の知見を結集させて、除雪作業の省力化に向け、実証実験の実施など、様々な取組を行っています。では、その取組を具体的にご紹介していきます。

北海道開発局は、省力化に向けて、除雪車の自身の位置(自車位置)の把握や投雪方向の自動制御等を目指して、検討を続けてきました。具体的には、自車位置に関する情報を取得するために準天頂衛星「みちびき」による高精度位置情報を活用するとともに、道路施設位置や投雪禁止区域などを反映した3Dマップを構築しました。加えて、ロータリ除雪車にミリ波レーダ等を設置し、障害物を検知できるようにしました。これらから得られる情報を活用することで、例えば、除雪車の走行位置の精密なガイダンスや投雪方向の自動制御などが可能となります。以上により、これまで道路の状況を熟知したオペレーターが行ってきた作業を最新技術でフォローすることで、除雪作業の省力化を目指すことができるのです。

北海道開発局ではこれまで、上記の取組を社会実装につなげて除雪作業の省力化を実現するべく、実証実験等に取り組んできました。では、これまで取り組んできた実証実験等の事例を、より具体的に見ていきたいと思います。

北海道開発局では、省力化の実現に向けて、ロータリ除雪車におけるシュート(除雪する際に投雪する装置:以下の画像の赤枠部分)の自動制御の安定性試験を、知床横断道路の知床峠において平成30年度から行ってきました。

これまでは、知床峠において、シュート操作による左右の投雪動作や投雪距離の調節の自動化実験などを行ってきたとのこと。そして、シュート自動制御のさらなる高度化を目指し、より厳しい環境下での実証実験に取り組みました。

具体的には、令和2年度以降、国道38号(狩勝峠:かりかちとうげ)の一般道において実証実験を行いました。狩勝峠は、実証実験をする上では、知床峠に比べてより厳しい環境となります。その理由としては、狩勝峠には、知床峠において設置されている標識や防護柵に加え、知床峠に設置がない電線・電柱、道路照明、防雪柵、視線誘導柱などが設置されており、知床峠と比べて障害物が多くあります。さらに狩勝峠は、冬期通行止めを行う知床峠と異なり、対向車両や追い越し車両が存在するため、これらにも注意が必要となります。

つまり、知床峠は障害物がない分、除雪車による雪の左右への投げ分けなどは単純なシュート操作で可能となります。しかしながら、その一方で、障害物が多い狩勝峠では、より複雑なシュート操作が求められることになるのです。

通常、除雪作業においては、オペレーターと助手の2名乗車により作業を実施します。オペレーターは車両の運転を行い、助手が障害物等の状況などの安全確認をしながらレバーでシュートを操作する役割を担います。例えば、一般道では、以下のように、電線や付属物、一般車両、標識などの状況を助手が確認し、それらに注意しながらシュートを操作して投雪を行います。

本実験においては、走行中に助手が行ったシュートのレバー操作(投雪の方向・角度)を、高精度3Dマップを搭載したガイダンスシステムに学習させることで、同じ位置を走行した際に、助手を乗せずとも同様のレバー操作を再現可能か実験しました。その結果、複雑なシュート自動操作を再現できることが分かりました。

また、北海道開発局は上記の取組に加えて、吹雪などの視界不良時における車両の運転支援として、映像鮮明化技術の実働配備も開始しました。本技術は、以下の写真のように、車両のフロントガラスに取り付けられたカメラで撮影された映像に対して鮮明化処理を施し、車両内に設置されるモニターに鮮明化された映像を映し出すこと、AIを活用して車間距離等をガイダンスすることで、吹雪などの視界不良時におけるオペレーターの安全運転支援を行い、除雪作業の安全性向上等につなげる技術です。

井内さんによれば、「最新の技術を活用することで映像が鮮明化され(以下の写真ご参照)、吹雪等の視界不良時においても、約100m先までの視認が可能となり、除雪作業の安全性向上に寄与します。」とのこと。令和5年度までに全道で約220台の車両に実働配備されました。

さらに北海道開発局では、自動操作の対象機種の拡大に向けて、北陸地方整備局が開発した除雪トラックの自動化技術をベースに、北海道特有の雪質や沿道条件に適した作業装置の自動化を検討していくとのこと。例えば、道路上の雪を車道脇に寄せるフロントプラウと呼ばれる装置や、歩道の雪を路外へ押し出し歩道除雪を行うサイドウィングと呼ばれる装置などの自動化です。今後、高規格道路など除雪条件の良好な実現場に導入し、動作確認を行う予定です。

以上のように、北海道開発局では、冒頭で述べた担い手不足・担い手の高齢化という地域課題が発生している中で除雪作業の省力化に向けて、除雪作業の自動化精度をより高めるべく、実証実験の実施や最新技術の導入など、日々様々な取組を行い、持続可能な除雪作業を目指しているのです!

4.知床横断道路の除雪を観光資源として活用!


さて、担い手不足・担い手の高齢化という課題が発生し、あらゆる構成員による様々な取組で課題解決を図っている知床横断道路ですが、この道路はなんと!観光資源としても活用されています。

知床横断道路は先に述べたように、冬期は通行止めが余儀なくされるほどの豪雪地帯であるが故、先に写真でもお見せしましたが、雪は凄まじい量となります。そのため、その雪に対するロータリ除雪車による除雪の光景はまさに圧巻なのです!加えて、左右に積雪した大量の雪により、道路の左右両側には雪壁(ゆきかべ)と呼ばれる壁が出来上がります。この光景も普段ではなかなかお目にかかることができないものです。

知床横断道路では、これらの観光資源としての活用が検討されました。そして、現在、ロータリ除雪車によるダイナミックな除雪の様子や雪壁等を体感できるツアーや雪壁ウォークなどのイベントが開催され、実はこれらが非常に人気を博しているのです!

知床横断道路は、本来は車両が往来するための道路ですが、その道路を本来とは異なる目的、本事例で言えば「観光資源」として活用する、という多面的なインフラの利活用がなされています。

現在、このようにインフラを観光する「インフラツーリズム」が全国的な広がりを見せており、観光資源としてのインフラの活用が地域活性化にも寄与しています。このインフラツーリズムへの期待は、近年、非常に高まっているのです。


げんきくん

今回の現地取材も非常に勉強になったね!

きらちゃん

うん!
地域が抱える課題の解決に向けて、
様々な関係者が知恵を出して色んな取組を行っていることが分かったね!

にこちゃん

そうだね!
また今回は、インフラの多面的な利活用についても学べて良かった!

げんきくん

本来の目的とは異なる使い方でインフラを有効活用するという
“創意工夫”で、地域の活性化に繋げているんだね。

きらちゃん

今回のインフラ巡礼も本当に有意義だった!
取材に応じていただきました皆様、
ご協力いただき、本当にありがとうございました!