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ジャニオタはYouTubeコメント欄で何をするか〜スノ・トラ・Hi・美

突然自担がYouTuberになったとき、ジャニオタたちはコメント欄でどう生きるのか。スノストのデビュー発表があった2019年8月頃に執筆したレポートを掲載する。
バラエティ企画では笑顔で新規ファンを歓迎し、パフォーマンス動画では涙であの頃を懐古する様子が見られた。勢いのある関西ジャニーズJr.ユニット・なにわ男子のデビューが決定した今、彼女たちは2年前と同じ行動をとっているのかもしれない。

■はじめに

ジャニーズ事務所は2018年からデジタルメディアへの進出を始めた。その先駆けとなったのが公式YouTubeチャンネル「ジャニーズJr.チャンネル」である。ここは、ジャニーズタレントとそのファンにとっては初の事務所から公式的に提供されたデジタル空間である。

そこではどのような闘争が行われているのか。また従来のアナログメディアにおけるファン空間と違いはあるのか。

ライトなファンを取り入れ、今までとは異なる場がつくられていると仮説を立て、動画のコメント欄を調査して検証する。

主な研究対象を同チャンネルに設定するため、本研究ではジャニーズJr.を中心に研究を進めていく。ただし、研究を進める中でSixTONESとSnow Manが2020年1月にデビューしたが、本論文ではこの2組もジャニーズJr.として扱う。

■ジャニーズを取り巻くメディア

 

デジタル進出とYouTube

 

ジャニーズは肖像権の観点からデジタルメディアの利用にかなり慎重で、ウェブ上に写真を掲載することが禁止されていた。そのため所属タレントが雑誌の表紙を飾る場合、その雑誌の公式サイトやAmazonなどのショッピングサイトでは、タレント部分が黒く塗りつぶされた状態で掲載されていた。

しかし、2018年に大きな転機が起きる。1月にウェブサイトでの写真利用が一部解禁され、3月には公式YouTubeが開設された。これを機に翌年には独自のエンタメサイトISLAND TV開設と公演の一部生中継の開始、SHOWROOMでの生配信、Instagram、WeiboといったSNSの利用、さらにはグッズの通信販売と、次々にデジタルに進出を遂げている。

このことからジャニーズさえも無視できないほどのデジタルメディアの大規模化が感じられる。また、デジタルメディアを利用しているのは主にジャニーズJr.であり、ジャニー喜多川による独裁から、滝沢秀明 が彼らのプロデュースを担当することになったのも大きい。


デジタル進出以前、ジャニーズは大多数のアイドルや俳優のような個人SNSを開設しておらず、彼らと交流する手段としてはファンレターや雑誌の読者欄、ラジオへのお便り、そしてコンサートや舞台が主であった。そのためYouTubeジャニーズとファンが交流できる初のデジタル空間である。

さらに、YouTubeは初の「開けた空間」ともいえる。ジャニーズといえば今までは非常に「閉鎖的な空間 」であった。
ジャニーズのファンクラブ・ファミリークラブ に入っていなければコンサートや舞台のチケットを取る権利さえ与えられず、タレントのブログを読むにも月額制サイト会員でなくてはならない。
さらに、ジャニーズJr.がメインで歌やダンスを披露する番組『ザ少年俱楽部』が視聴できるのはBSプレミアムのみである。
公式グッズはコンサート会場か全国4か所のジャニーズショップの現地に行って長時間ならばなければ手に入らない。
特にジャニーズJr.はテレビ露出もあまりないため、最も手軽にできる情報入手方法は『Myojo』などアイドル雑誌を買うことだろうか。

このように、ジャニーズは少し気になる程度では手が出しづらい、反対に一度足を踏み入れればすべてが手に入る空間を作っていたのである。このような囲い込み戦略が行われていたジャニーズが、誰でも無料で楽しめる空間を完全にアウェイなYouTubeという外部のメディア内につくりだした。影響力の強い大きなメディアであるこの二つが混ざり合ったとき、そこでは何が起きるのだろうか。

 
「ジャニーズJr.チャンネル」概要

 YouTub内に作り出された「ジャニーズJr.チャンネル」では、その名の通りジャニーズJr.のみが出演している。ジャニーズJr.とは、CDデビューしていないタレントのことを指す用語である。

この「ジュニア」に年齢や芸歴などの概念は関係なく、30歳近いタレントや10年以上「ジュニア」であるタレントも多い。ただ、彼らが無名かというと全くそうではなく、先輩グループのバックダンサーを務めたり、単独コンサートや舞台を行ったりと、デビュー前とは思えないほど多くのファンがついている。2019年には19年ぶりとなるジャニーズJr.単独東京ドーム公演が行われ、「Jr.黄金期」と呼ばれている。


「ジャニーズJr.チャンネル」では、5つのグループが曜日ごとに動画を投稿しており、2018年3月の開設から2年近くが経過した今、チャンネル登録者数は90万人近く、投稿動画数は600本、総視聴回数は5.3億万回を超えている(2020年2月1日現在)。
投稿される動画はコンサートのダイジェスト映像やダンス動画などジャニーズらしいパフォーマンスから、身体を張った「やってみた」などYouTubeらしいバラエティ企画まで様々である。また、動画はほとんどタレント私物の洋服を着用しているため、プライベートの一面も見ることができる。なお、現在動画を投稿している5組の他に、デビューを果たして同チャンネルを卒業した2組の動画も掲載されているが、こちらも研究対象とする。


■コメント欄分析

 

バラエティ企画におけるコメント欄

 

「ジャニーズJr.チャンネル」におけるコメント欄は、ジャニーズタレントにデジタルメッセージが送れる初めての場である。また従来の主流メディアである雑誌やラジオと異なり、事前に選別されずに誰でも自由に書き込むことができ、誰でも閲覧できるという点でも初めての場である。

これはファンが直接メッセージをタレントに送ることができ、タレントや事務所もファンの反応が直接確認できる画期的なシステムである。時々、動画の中でもコメント欄について触れたり、コメント欄の質問に答える企画を行ったりしている。


田島悠来(2013)によれば、雑誌『Myojo』におけるジャニーズは読者の疑似恋愛の対象であると同時に、メンバー同士で同性愛的な親密さをもつ存在としても表現されている。つまり、ファンはジャニーズ場において、疑似恋愛要素やメンバーの絆や同性愛的要素を求めているのである。

これに従い、「ジャニーズJr.チャンネル」内のメンバーがファンに疑似恋愛を体験させるような「胸キュン企画」と、メンバー同士の絆を見せるような企画の動画であることがタイトルとサムネイルからわかるものを選択し、その動画の評価順上位100件のコメントを抽出して疑似恋愛やメンバーの関係性、「マウント」などいくつかのジャンルに分けてその内容を探っていく。複数グループを対象にすることで、より普遍的なジャニーズ場の特徴を掴むことを目的とする。

対象動画
奇数番号が胸キュン企画、偶数番号がメンバー同士の絆企画

Snow Man
【メンバー考案】超甘酸っぱい告白セリフ対決!
【最終回】ジャニーズJr.チャンネル卒業旅行で寝るの禁止!&重大発表


Travis Japan
【胸キュン選手権】遠距離になる彼女を安心させる一言
【ガチ検証】催眠術は本当にかかるのか?


HiHi Jets
 ⑤【添い寝】擬似体験!いい夢見てね。
【秘話激白】照れずに…本音を語ります!


美 少年
 ⑦【声フェチ】遠距離恋愛の彼女におやすみ前の一言
 ⑧【ラップ】に挑戦!ディスるの?いや…褒めます!

2020年1月31日取得

 ・Snow Man

Snow Manは9人組のアクロバットを得意とするグループで今年1月にデビューした。

動画①は、メンバーが別のメンバー考案のシチュエーションで胸キュン台詞を言うという企画である。
コメントの特徴として、ピアスや横顔など、「フェティシズム的な」コメントが多いことが挙げられる。告白セリフ対決であるにも関わらず、その台詞に触れたものは見当たらなかった。今回はメンバーがiPhoneで動画を撮っており、プロではないカメラマンによるメンバー同士ならではの近い角度からの撮影やカメラワークのおかげで、普段は見られないタレントのビジュアルが楽しめたことが要因だと考えられる。


続いて②は、卒業旅行と題し、メンバーの運転で温泉に向かいながらトークやゲームを繰り広げる企画である。
この動画ではたまたま岩本と深澤が同じ服を着ていて、メンバーに「カレカノ(彼氏彼女)感やばい」といじられているにも関わらず、カップルみたいと言ったコメントは1件しか見られなかった。

ここで多かったのはメンバー同士の関係性についてのコメント、特にメンバーの関係を家族(父、母、子、兄弟)として見るものである。Snow Manはメンバー間で最大11もの歳の差があることや、過去にメンバー本人がラジオ で岩本・深澤・ラウールの楽屋を「家族の楽屋」と呼んだことなどから、Snow Manの関係性はカップル的なものではなく家族的なものであるとファンの中で浸透しているのではないかと考えられる。この動画の9人ハイエースで旅行という企画も、それに合わせて家族らしさを狙ったものだと推測できる。


また、二つの動画を通して、はっきりとはわからないが、「マウント」のようなものが見られた。
このグループは2019年に新たに3人のメンバーを迎えている。その一人である向井はもともと関西ジャニーズJr.の第一線で活動していた。そのため、「今までは胸キュン企画は真面目にやってなかったのに今回はやっている」「Snow Manに慣れてきたかな?」など、関西時代から応援しているファンのコメントがあった。
一見普通の応援コメントだが、「私はこの子のことを昔から見ていて何でも知っているのだ」と、他者との差別化を図ろうとする意図が含まれているようにもとれる。あるいは、加入についてファンの中で肯定派と否定派が分かれているため、彼が新しい環境でも頑張っていることを、加入をよく思っていないファンに認めてもらおうと訴えているのかもしれない。

また、気になるコメントがあった。「YouTubeのおかげですの担になった人」というコメントに2200件を超えるいいねがついていた。動画によって多くの新規ファンがつき、元々のファンもそれを受け入れる風潮があった。

・Travis Japan

Travis Japanは7人組で、トラヴィス・ペインのレッスンを受けたダンスに定評があるグループである。

動画③は、留学してしまう彼女を安心させる一言という企画である。
ここでは相手の彼女役として外国人女性が出演しているのだが、「嫉妬はしない」「むしろ好き」といった肯定的な意見が評価されている。
対象にしたコメント以外にも遡ってみると「次は外部の女性は使わずメンバー内でやって欲しい」という声も一定数見られた。
しかし、この女性には嫉妬しないという類のコメントが何件も上位に表示され、ここではファンが独占欲をはたらかせることは許されないという無言の圧力がかかっているように感じる。
  
続いて④はメンバーが催眠術にかけられるというものである。
食べ物の味が変わるというものから、手をつないだ相手のことを好きになるものまで様々な催眠術を体験する。
ここではメンバーの関係性について触れるコメントが多く、「この二人付き合ってるの?」「見つめ合った後に照れてる」など特にカップルのように見立てたものが目立った。
この動画のサムネイルには「宮近と松田本気愛!?」と大きく書いてある。本気愛とは、ジャニーズ界隈で使われる用語であり、本気で恋愛感情として好きなことを指す。つまり公式が提供しているサムネイルが同性愛的な関係性を暗示しているのである。実際にメンバーもうよくそのような話題を出すことがある。よってファンもその供給を受容しているのではないかと考えられる。

・HiHi Jets

HiHi Jetsはローラースケートを用いたパフォーマンスを行う5人組グループである。

動画⑤は、布団で添い寝をしているかのようなアングルで甘い言葉をささやくという企画である。そのため、「彼女になった気分」と疑似恋愛を満喫しているコメントが見られた。しかし彼女と明記してあるものは1件のみで、「かっこいい」「かわいい」止まりのものが大半であった。


⑥は、天然キャラ、頼りになるなど、グループ内の〇〇No.1を決める企画である。ここでも関係性に関するコメントが多く見られた。
HiHi Jetsは何度もメンバー編成が行なわれ、今のメンバーに落ち着いた。本動画では、最後に作間が加入したことでグループに笑顔が増えたと触れられる場面がある。そこで作間に関して「入所当時はこうだった」と、自分が古くからのファンであることを暗示しているコメントがあった。Snow Manの動画分析時と同様、この発言も自分を他のファン、特に新規ファンと差別化しようとしていると考えられる。

この動画では、誰と誰がどうだといったものは見られず、「この5人で良かった」「空気感が素敵」など、メンバー同士の関係性を絆の強いアイドルグループとして見ているものが大半であった。

また、2019年9月にメンバーの2人が不祥事で謹慎処分になったことを受け、「またこの動画が見たくなった」「復帰を待っています」といったコメントも見られた。謹慎の間、公式グッズショップ・ISLAND STORE通販サイトからは該当メンバーの商品が削除され、ライブDVDの発売が延期されるという事態に陥ったが、YouTubeの動画は消されずに残っていた。ファンにとってこの動画は彼らの存在を肯定してくれる心の支えであり、コメント欄はタレントや事務所とファンを繋ぐ役割を果たしていたのである。

・美 少年

 美 少年は6人組で、過去にグループ名が東京B少年、Sexy美少年、美 少年と改名されているが、本論文では区別せずに美 少年として記載する。

動画⑦は、遠距離恋愛中の彼女に電話でおやすみ前の一言という企画である。
企画の意図通り、「リアコ」というコメントが確認できた。リアコというのは「女ヲタク界隈」で使われる、アイドルに対してリア恋、つまり本当に恋愛感情をもつことを表す比較的新しい語である。先述の本気愛よりも今の主流はリアコになっている。この言葉はタレント側もよく用いており、各グループの持ち曲である自己紹介ラップの歌詞に入るほどメジャーな言葉である。
だが、研究対象の他3組ではリアコ発言は見られなかった。逆に言えば、美 少年ファンらは彼らに対する恋愛感情を言葉にし、さらにそれを高評価して肯定しているのである。このことから、美 少年は自らをファンの疑似恋愛対象として日頃からプロデュースしていることがうかがえる。


⑧は、メンバーが1人を指名し、その相手を自作のラップで褒める企画である。
ここではコンビに関してのコメントと、グループへの応援メッセージが半々に寄せられていた。
ジャニーズ界隈では、コンビのことを二人の名前を2文字ずつ取って呼ぶことが多々ある。例えば、浮所と那須のことは「うきなす」と表す。
さらに、立ち位置やダンスが左右対称である二人のことをシンメという。美 少年の中では、例えば那須と(佐藤)龍我は「なすりゅ」と表し、コンサートでのダンスで「あの曲のシンメが良い」と使ったり、意見が被ったときに「さすがシンメ」のように使ったりする。

これらの呼び方はどちらもファンだけでなくタレントも頻繁に使う言葉である。コンビ名やシンメという単語とともに、その二人がお互いのことをよく見て褒め合っていることに対して「シンメ愛感動」「泣けた」などと述べられていた。

ここでの関係性は、同性愛的なものではなく、共に活動するグループの一員としての絆として受容されていることがわかる。また、ラップで「大人になったら(東京)ドームで歌おう」と歌われる場面がある。これに対して、「これからも頑張ろうね」「絶対見に行く」といったコメントが寄せられており、コメント欄はファンレターのような役割も担っていることがわかる。


全ての動画に共通して、要望コメントも一定数あった。今後やって欲しいYouTubeの企画案や答えて欲しい質問はもちろん、出して欲しいグッズ、コンサートで披露して欲しい曲など、幅広い内容である。今までタレントはもちろん事務所に直接要望を出す場がなかったため、コメント欄が事務所宛の掲示板のように扱われているのである。

 コンサート動画におけるコメント欄

 アメリカのショービジネスをルーツに持つジャニーズにとって、コンサートは極めて重要なものである 。デビュー前でもコンサートが行われ、ジャニーにとって楽曲はあくまでコンサートをするためのスタートであった。ジャニーズJr.はデビューしている先輩の曲のカバーを披露することが多いが、各グループのオリジナル曲も持っている。

「ジャニーズJr.チャンネル」には、後者が何本かアップロードされている。その再生回数は300万、400万回を超えるものもあり、バラエティ企画の何倍も再生されている。1動画あたり1曲のみで再生時間が短いことも要因の一つとして挙げられるが、YouTubeにおいてもジャニーズのコンサート映像の需要が高いことも考えられる。
また、従来はコンサートのDVDを購入しなければこれらの映像は見られず、特にジャニーズJr.の公演が映像化されることは滅多になかったため、無償でコンサートの一部を見せるというこの取り組みも大きな改革である。

そこで、続いて各グループのパフォーマンス動画のコメント欄を調査する。前節で分析したグループのパフォーマンス動画を無作為に抽出し(表2)、前回同様に高評価順上位100件を調査する。

対象動画

VI Guys Snow Man / Snow Man
夢のHollywood / Travis Japan
HiHi Jets 紹介ラップ / HiHi Jets
Cosmic Melody / 美 少年

2020年1月31日取得

 ・VI Guys Snow Man / Snow Man

Snow Manの動画は、6人時代の映像で、初の横浜アリーナ単独公演のものである。ここのコメント欄では、バラエティの時とはまったく違う、ファンの悲痛な叫び声が上がっていた。

Snow Manは7年間6人で活動していたが、突如3人の増員が発表されてから1年でデビューが決まった。ずっと応援してきたファンにとって、突然メンバーが増えること、ダンスのフォーメーションや歌割りが変わること、グループの色が変わることは受け入れ難いことである。

加入の3人を誹謗中傷するわけではなく、「6人が好きだった」「6人に戻して」「6人について行きたかった」といったコメントが多く、中には「幸せになってね」と好きだったグループをやむなく担降り(ファンを辞めること)していく様子も見られた。

バラエティ動画では増員問題について触れられていない、またはその他のコメントによって抑圧されていたが、パフォーマンス動画では今のグループを否定するような意見さえも高評価ボタンが押されているという特徴があった。バラエティ企画動画では古参らしいコメントは5件ほどしかなかったが、ここではその逆になっていた。


・夢のHollywood / Travis Japan

Travis Japanの動画も初の横浜アリーナ単独公演のものである。ここにもバラエティと違う特徴が見られた。

2019年8月、ジャニーズJr.単独東京ドーム公演の最中にSixTONESとSnow Manのデビューが発表された。その場でデビューを知ったTravis Japanのメンバーの中には悔し涙を流す者もおり、その様子は生配信され、会場内外のファンに届けられ、リアルタイムで悔しさを共有した。
この一件を踏まえてか、「幸せが訪れますように」「これからも一緒に夢追わせてね」といったグループの未来を応援するメッセージが見られた。これらはずっと彼らを応援しているファンによる投稿である。

一方、別のグループのファン、あるいはジャニーズに興味はないけど見にきたといったような人々のコメントも格段に多かった。新規ファンが増えるというのはアイドルが遠くに行ってしまうようで独占欲の強いファンからは嫌われる傾向があるが、ここではそれが認められている。ここでのコメント欄は新規ファン獲得の窓口としての役割をもっているのである。

・  HiHi Jets 紹介ラップ / HiHi Jets

HiHi Jetsの動画はメンバー作詞の紹介ラップである。
ここでは先述の不祥事と謹慎を受け、5人のHiHi Jetsが見られる日を待っているというコメントが見られた。

また、多くのコメントに共通して「伝説」という言葉が使われていた。これはメンバーが目標として「伝説に成る」ことを挙げており、会員サイトのHiHi Jetsブログタイトルも「伝記」であるきとからファンの間でも浸透しているものだと思われる。他のグループでは「デビューしようね」などの応援メッセージが主流なのに対し、ここでは「伝説になろうね」と寄せられていた。

・ Cosmic Melody / 美 少年

美 少年の動画は王道アイドルのようなかわいらしい曲である。
他のグループではデビューと年齢が関係づけられたコメントは見られなかったが、ここではこの曲の雰囲気やグループ名の「少年」からか、メンバーが10代のうちに、少年にうちにデビューさせたてあげたいといったコメントが多かった。また、デビューについての思いを現在ジャニーズJr.のプロデュースを担当している滝沢秀明に宛てたコメントも見られた。

 

また、全グループに共通して再生回数を意識したコメントがあった。
再生回数が多ければ、その動画はもちろん、そのグループの人気や影響力が数字として表れる。
CD販売を行なっていないジャニーズJr.の人気計測として、デジタル進出以前はコンサートグッズやジャニーズショップの写真の売り切れる早さが争われていた。しかしYouTubeを始めたことで、具体的な数字がリアルタイムで更新されて、ジャニーズ界隈内外問わず誰にでも見られる状態になった。
さらに再生回数の伸び率が高いと、急上昇ランキングに動画が掲載され、より多くの人の目に触れる機会が増えるきっかけとなる。

実際にタレントが再生回数について言及したり、良い意味で煽ったりすることも増えた。ファンは再生回数という数字を手に入れようと動画を再生するようになった。そのため、「100万回突破!」「もう少しでダブルミリオン!」などとその数字を意識したコメントが多く見られたのである。

中にはアイドルに対してではなく、ファンに向けて「頑張ろうね」と声を掛け合うものもあり、コメント欄はファン同士鼓舞しあう場としても存在している。


■まとめ

 ここまでの調査から、コメント欄における様々な特徴が発見できた。


まず、バラエティ企画動画におけるコメント欄からは、雑誌メディアで求められていた疑似恋愛対象としてのアイドル像や、同性愛的な絆は、YouTubeにおいても反響があったが、自己プロデュースの仕方により、その解釈の仕方はグループごとに異なっていることがわかった。

また、深読みすればマウントらしいコメントもあるが、基本的には平和な空間がつくられていた。今回はコメントを評価の高い順に100件を抽出したため、それ以外の多くのコメントは無視することになってしまったが、高評価され上位に表示されるコメントは他のファンから支持されており、コメント欄におけるジャニーズ場の見本コメントのようになっている。
逆に言えば、今回見られたコメントの特徴が正義であり、あまり見られなかったアンチや過激な愛情や独占欲、マウンティングは抑圧されているのである。


一方、パフォーマンス動画におけるコメント欄では特に熱心なファンがグループに思いをぶつけるようなコメントが多かった。
このことから、YouTube的な企画動画はライトなファンに好まれ、従来のファンにはジャニーズらしいコンサート動画が求められているにではないかと考えられる。

コンサートは会場でアイドルとファンが一緒に作り上げてきたものだからこそ、この動画のコメント欄でもグループについてのそれぞれの思いが語られているのかもしれない。また、コンサート会場のように歌やダンスを見て盛り上がっているコメントは少なく、ジャニーズファンにとっては会場でペンライトを振ったりファンサービスを貰ったりする楽しみ方がいまだ根付いているようである。現段階では、YouTubeはリアルなジャニーズのコンサートは越えられず、あくまで映像を届けるメディアでしかないのである。


さらに、ファンはコメント欄を通してアイドルだけでなく、YouTubeや事務所にも要望や思いを送っている。実際に運営側がコメントを見ているかはわからないが、ファンと運営の距離が近づいたと捉えられる。


■考察

 YouTube内に出現した新しいジャニーズ場「ジャニーズJr.チャンネル」のコメント欄では、古くからのファンとYouTubeから入ってきたライトなファンが入り乱れながらも、全体的には争いのない穏やかに動画を楽しむ空間がつくられていた。
そこでは、グループの自己プロデュースの仕方によって解釈は異なるものの、従来通りの疑似恋愛やメンバー同士の同性愛的な絆が楽しまれていた。

しかし、ジャニーズの重要な文化であるコンサートを前にすると、ファンはグループのことを熱く語る。かつてメディア露出の少ないジャニーズJr.とコミュニケーションを取れる唯一の場がコンサートであった。活動の場がデジタル上に移っても、ファンにとってはこの常識は変わることなく、無意識のうちにコンサートを特別な存在として感じ取っているのである。

これが初めてのデジタルメディアにおけるジャニーズ場の大きな特徴である。

バラエティ企画はYouTubeに親和しているが、コンサートなどのパフォーマンス動画においてはYouTubeのプラットフォームを借りているだけで、絶対的なジャニーズとそのファンが作り上げる空間として成り立っている。


今回取り上げたジャニーズJr.から2組がデビューし、彼らはそれぞれ単独のYouTubeアーティストチャンネルを開設した。デビュー曲が合算で初週ミリオンを達成し、初週売上枚数男性アーティスト歴代1位の記録を更新し、メディア露出も増えた今、彼らのYouTubeコメント欄におけるジャニーズ場はどのようなものになっているだろうか。今後は、デジタル世代初のデビュー組に注目した研究を行っていきたい。

また、今回の調査では上位100件と制限を設けてしまい、奥底に隠れているかもしれない闘争に気づくことができなかった可能性があるため、より質・量ともに素材を集めた研究にしたい。


そしてこの急速に進むジャニーズデジタル革命のきっかけとして、ジャニーズ事務所のゲームマスターがジャニーから滝沢秀明に移行したことが要因であることは間違いない。滝沢は何をたくらみ、どんな新しいジャニーズアイランドを創造していくのか。この革命はプラスに働くのか、マイナスに働くにか。大きな権力を手にし、今後のジャニーズを左右するキーパーソンである滝沢にも焦点をあて、ジャニーズのこれからを追っていきたい。


 【参考文献】

太田省一2016,『ジャニーズの正体』双葉社.

大谷能生 速水健朗 矢野利裕2012,『ジャニ研!』原書房.

田島悠来2013,「雑誌『Myojo』における「ジャニーズ」イメージの需要」『ジェンダー&セクシュアリティ』8: 53-81.

矢野利裕2016,『ジャニーズと日本』講談社.

本文は筆者が大学在学中に制作したレポートを一部編集して掲載しています。数値などのデータは執筆当時のまま修正していません。

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