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あの日、外側はなかった話

わたしが小学生になった頃、学校では集団での予防接種があった。強制。(法律的にはそんなわけないはずだけど、実質的にはそうだった)

わたしは注射が大嫌い。その匂いに暴力的侵食が感じられるから。鋭利な針で、知らん人に意図的に不自然な力をかけられ、意味不明な液体を、身体に入られたくはない。

「この世界に注射がある(しかもそれは避けられない)」と知った時のわたしの絶望を知っている?

世界がモノクロに、真っ暗になったんだ。本当だよ。比喩ではなく。あなたにもみせてあげたいくらい。今でもはっきり覚えている。そのことで世界から色が失われた。わたしの感受にとってみたら、それほどの迫害で侵食だった。

しかも一度だけではない。大人になってもあるというではないか。

なんだそれ。とても生きていかれない。なんのために大人になるの。自由とは?

なんとか逃れる方法はないのか?毎日フル回転で考え続けた。
会社員ならそうなんだろう。なんか知らんけどもそんな気はする。ならばお花屋さんは?自分でお店をすればいいの?それもダメ?じゃあどうやって生きていくの?なんでみんな、そんな普通でいられるの?

モノクロの世界になってもその日は来た。
世界は切り替わらなかった。

学年毎に廊下に一列に並ばされる。一歩一歩保健室に進みゆく子どもたち。この光景がクレイジー。こんなの頭おかしいわ。誰もそう思わないことがだよ。

意識段階をひとつ落として、わたしは周囲をサーチした。

目が合った。
合意した。

阿吽の呼吸。頷き合うと同時に、ひとりの男の子の手を取って、全速力で靴箱へと駆け出した。

外へ。
この世界の外側へ。

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外側はなかった。
追われ、捉えられ、抑えつけられ、戻された。


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