ファクトチェックは大切な営みです。 ただし、そのファクトチェックは科学的で公正なものでなければなりません。 非科学的で意図的なファクトチェックは有害でしかありません。
2023年12月に私は 接種後死亡に関する論文 を公表しました。 そして、この論文が AFPのファクトチェックの対象 となりました。 評価は"Misleading"でした。 ただ、その根拠はあまりにもひどいものでした。 今回の論考の目的は、このファクトチェックのレベルの低さを明らかにすることです。
まず、Kinoshita氏(コビナビ)のコメントを見てみます。
要約しますと、「報告バイアスがあるから、この研究はワクチン接種後の死亡率が後期(コントロール期間)と比較して初期(リスク期間)に高いことを示唆するものではない。」というコメントです。 したがって、この論文は'Negligible'だと評価しています。
次に、私の論文内で報告バイアスに関する記述を見てみます。
「報告バイアスがあるから、リスク期間(接種後10日以内)の死亡率がコントロール期間のそれより高いからと言って、 ワクチンと死亡とに関連性があると結論づけることは適切ではない」と書かれています。 つまり、論文では「リスク期間の死亡率が高い」ことを関連性の根拠としてはいません。 Kinoshita氏の批判は的外れと言えます。
論文より更に引用します。
考察では、「性比は報告バイアスの影響を受けにくいから、性比の比較は有用だろう」と続きます。 批判するなら、この部分を批判しないと意味がありません。 Kinoshita氏は本当に論文をきちんと読んだ上でコメントを書いているのでしょうか?
次に、Raina MacIntyre氏 (professor of global biosecurity) のコメントを見てみます。
「死亡のほとんどは心血管疾患に関連したもので、これは世界における死亡と病気の主要な原因であり、女性よりも男性、特に65歳未満で高い割合で発生しています。」とコメントしています。
何が言いたいのかよく分かりません。 「65歳未満での心血管疾患による死亡は女性より男性に多い」という事実だけで、 私の論文を批判することはできません。 論文では、「リスク期間においては、 64歳以下では死亡者の性比はコントロール期間のそれと比べて有意に高い(男性の割合が有意に高い)から、ワクチンが死亡発生に影響を与えた 可能性がある」と記述されています。 数値に意味を持たせるには、コントロールと比較することが必要です。 Raina MacIntyre氏のコメントは、疫学の基本を無視したコメントと言わざるを得ません。
「2021年初頭にCovid-19のワクチン接種を優先された人々は、高齢であったり、複数の慢性疾患を持っていたりして、ワクチン接種の有無にかかわらず死亡リスクが高かった。」とコメントしています。
これも何が言いたいのは不明です。当たり前のことを言っているだけで、批判になっていません。 Raina MacIntyre氏は論文をほとんど読まずにコメントしたとしか思えません。
次に、Chunhuei Chi氏 (professor and director of the Center for Global Health)のコメントを見てみます。
論文のlimitationsに言及しています。 しかしながら、limitationsは通常すべての論文において記述されています。 limitationsがあるから信用できないというのであれば、 すべての論文は信用できないという妙なことになってしまいます。
次に、William Schaffner氏 (professor of preventive medicine)のコメントを見てみます。
「コホート研究の方が研究の質が高く、それらの研究では接種群において死亡率は上昇していない。」 とコメントしています。
コホート研究の質が高いことは事実です。 しかし、コホート研究にも弱点があり、 私の論文ではその弱点について以下のように記述しています。
弱点を、 「コホート研究は接種後死亡者が一人もいないことを示しているわけではなく、 有意差が生じるほど死亡率が高くはないことを示しているにすぎない。」 と説明しています。
考察は更に続きます。
「ワクチンは健常者を含むすべての人に接種するので、ワクチンに関連した死亡率は非常に低いことが求められる。 しかし、コホート研究では死亡率が非常に低い場合には有意差を検出することができない。 したがって、ワクチンの安全性を検証する場合には、 死亡率が非常に低い場合でも有意差を検出できる統計手法で分析することが必要である。」 と論文には記述されています。
William Schaffner氏も論文をほとんど読まずにコメントしたと考えられます。
なお、死亡率が非常に低い場合でも有意差を検出できる統計手法として、 私はSCRIデザインや性比の比較の手法を論文内で推奨しています。 4億回以上接種すれば、死亡率が非常に低いとしても、2000人以上の死亡が発生したとしても 不思議ではありません。 ただし、その死亡が偶発的なのかワクチンに関連しているかの検証は必要なのです。
最後に、Kinoshita氏とMacIntyre氏のコメントを見てみます。
「世界保健機関(WHO)は、Covid-19ワクチンは安全で効果的であるとしている。」 とコメントしています。
WHOが言っていることが常に正しいという保証はどこにもありません。 疑問があれば、問題提起をすることが専門家としてあるべき姿です。 「コホート研究のみでワクチンの安全性を検証することには問題があるのではないか?」 というのが私の論文の主要テーマです。 批判するならば、この部分を批判しないと建設的な議論になりません。
なお、この論文のConclusionsでは次のように述べています。
「この方法は決定的なエビデンスを提供しないかもしれないが、 ワクチンの安全性を評価する上で価値のある見識をもたらすことができると筆者は考えている。」 と記述されています。
当研究により、 「ワクチンと死亡との関連性が決定的なものになった」などと主張しているわけではありません。 「現在のワクチン安全性の検証方法には不備がある疑いがあるため、 一度検証方法を見直す必要があるのではないか?」というのが私の論文の主張なのです。
当論文では4人の査読者のチェックを受けました。 細かい部分でいくつか修正を要求されましたが、 考察のロジックの大筋に関しては修正の要求はありませんでした。 「ワクチン安全性に関する研究は発展途上にあり、 この論文は現在進行中の議論に貢献するものである。」 というニュアンスの評価をしてくれた査読者もいました。 正当に評価してくれる査読者がいてちょっと嬉しくなりました。
今回ファクトチェックを行った4人の専門家は、きちんと論文を読まずに批判していると、 私は推測します。 査読をしてくれた4人の専門家とは雲泥の差があります。 私は陰謀論は信じていません。しかし、 今回のような非科学的で浅薄なファクトチェックがまかり通るようであれば、 何か得体の知れない巨大な組織がワクチン推進派の専門家に「ワクチンに疑問を呈する論文は問答無用で否定せよ!」と指示しているのではないかと疑わざるを得なくなってきます。
AFPは世界三大通信社の一つとされています。 その通信社がこの程度のファクトチェックしかできないことは大変に残念なことです。 有名なファクトチェックサイトであっても、ファクトチェックをする専門家の人選を間違えますと、 今回のような非科学的な残念なファクトチェックになってしまうことを理解しておく必要があります。
論文の批判は大歓迎です。 ただし、論文を丁寧に読んだ上での科学的で公正な批判に限ります。 建設的な議論でなければ時間の無駄でしかありません。