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身代金

誰かを誘拐する予定はないし、誘拐されて困る大切な人もいなければ、引き換えに要求されるような資産もない。この先も一生縁のない出来事なのは承知の上で人質交換について考えてみたい。

妄想とはいえ、人質として生身の人間を想定するのは心が痛む。そこで今回はAIロボットのペッパーくんにご登場いただく。もちろん実際には持っていない。テレビで見たことがある程度だ。

さて、ペッパーくんが誘拐犯の手中にあり、僕は身代金を用意する。犯人としてはお金を受け取れずにペッパーくんを失うわけにはいかない。僕もペッパーくんを取り戻せないままお金だけ奪われる事態は避けねばならない。

交換とは自分の持ち物を手放し、相手の持ち物を受け取ることである。ここにリスクがある。受け取ってから手放すのが最も安全なのだが、それが可能なのはどちらか一方のみだ。相手に許せば持ち逃げされる恐れがあるため、お互いに譲れない。

日常生活の買い物とは前提が違う。お金と商品を交換するという構図は同じでも、店と客の間には信頼関係がある。法治国家で不正を働くのは賢い選択ではないと相手は考えている、と両者は考えている。信頼し合っていれば先払いでも後払いでも大きな問題にはならない。

しかし、人質交換はペッパーくんを連れ去った時点で信頼関係が崩れている。だから難しくて面白い。


次回につづく