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■アメイジング・スパイダーマン:クレイヴンズ・ラストハント

■Amazing Spider-Man: Kraven's Last Hunt
■Writer:J. M. DeMatteis
■Penciler:Mike Zeck
■翻訳:田中敬邦 ■監修:idsam
■カラー/ハードカバー/1,999円 ■ASIN:B0B5KXB2N2

 「マーベル グラフィックノベル・コレクション」第13号は、1987年に、当時の『スパイダーマン』関連3誌(『ウェブ・オブ・スパイダーマン』#31–32(10-11/1987)、『アメイジング・スパイダーマン』#293-294(10-11/1987)、『ピーター・パーカー スペキュタクラー・スパイダーマン』#131–132(10-11/1987))で展開された、全6話の長編「クレイヴンズ・ラストハント」。

ハンターのクレイヴンは、自分の死が迫っていることを知る。彼は最後の挑戦として、スパイダーマンを捕らえることを誓った。しかし、クレイヴンは考える。「本当にスパイダーマンを倒すには、行動も精神もスパイダーマンになる必要がある」と。その時こそ、彼が究極のハンターであることを証明するときなのだ……。(第12号表4あらすじより抜粋)

 ライターのJ.M.デマティスは、元々「墓場から蘇る」シーンをクライマックスとする物語の構想を持っており、1980年代初頭に、マーベルの編集者トム・デファルコに、ワンダーマン(アベンジャーズの一員で、一度死んだ後にイオンエネルギーの化身として蘇った)を主人公にしたリミテッド・シリーズの企画を投げた(ワンダーマンが彼の兄のグリム・リーパーに殺され、半年後に墓の中から蘇り、兄との決着をつける……という話だったらしい)。

 が、デファルコはこのアイデアを気に入らず、企画は流れた(「仮に通っていたら、そこそこいい話にはなったろうが、傑作にはならなかっただろう」とは、後年のデマティスの述懐)。

 その後デマティスは、同様のシチュエーションを『バットマン』の物語で行うことを思いつき、DCコミックス社のレン・ウェインに企画を投げた。こちらは、「ジョーカーがバットマンを殺したと思い込んだ結果、正気に戻り、一般人としての生活を送る。しかしやがてバットマンが墓場から蘇り……」といった具合の話だった。

 が、この企画を聞かされたウェインは、当時彼が進めていた企画と、デマティスの企画に似たところがある、という理由でこの企画を却下した。

 ちなみに、その企画と言うのは、かのアラン・ムーアによる不朽の名作『バットマン:キリング・ジョーク』であったりする(バットマンの存在がジョーカーの発狂の契機となる『キリング・ジョーク』と、バットマンの存在の抹消でジョーカーの精神が回復するデマティスの話は、対称的である)。

 それから数年後(1985、6年頃)、デマティスは、今度はジョーカーの代わりにヒューゴー・ストレンジ(バットマンのヴィランの悪の心理学者)をメインに据えた「墓場から蘇る」話をデニス・オニール(レン・ウェインの後任の『バットマン』関連誌の編集者)に投げるが、やはり没にされる(当時流行していた、描き下ろしグラフィックノベルとしての刊行を目論んでいたが、描き下ろし単行本の刊行点数を抑えたいDCの営業判断により流れたらしい)。

 それでもこのモチーフを諦め切れなかったデマティスは、1986年頃、スパイダーマンで「墓から蘇る」シチュエーションの話を考えていたところ、『スパイダーマン』関連誌の編集者だったジム・オウズリー(後のクリストファー・プリースト)から『スペキュタクラー・スパイダーマン』誌のレギュラーライターの職を打診され、遂に長らく温めていた物語を語る機会を得るのだった。

 なお、オウズリーは、「クレイヴンズ・ラストハント」の物語が描かれる前に『スパイダーマン』誌の編集者を降り、後任のジム・サリクラップが「クレイヴン~」の物語を担当した。

 なお、「『スペキュタクラー・スパイダーマン』誌でスパイダーマンが2週間生き埋めにされている話と並行して、『ウェブ~』や『アメイジング~』で普通にヴィランと戦うスパイダーマンの話をするのはおかしい」という理由で、「クレイヴンズ・ラストハント」の物語を3誌を横断する形で展開しようと発案したのは、このサリクラップだった(これは当時としては画期的な発明であった)。

 一方のオウズリーは、編集部を去る前に、当時マーベルの大型クロスオーバー企画『シークレット・ウォーズ』のアーティストとして名を馳せていたマイク・ゼックを「クレイヴンズ・ラストハント」のアーティストに起用し、同作のクオリティを高めることに貢献している。

 ちなみに当初デマティスは、ヒューゴー・ストレンジ風の新ヴィランを物語の敵役にしようと考えていた。だがある日、マーベルの設定資料集に目を通していた彼は、クレイヴン・ザ・ハンターがロシア人であることを知る。……実はデマティスはロシア人作家ドストエフスキーの大ファンであり、その瞬間、「クレイヴンもまた、ドストエフスキーの小説の登場人物と同じ、ロシア人の魂を持っている」ことに気づいたのだという。

 で、それまで全くクレイヴンに興味のなかったデマティスだが、この気づきにより、突如として彼のアイデンティティを深く考察し始め、遂に「クレイヴンズ・ラストハント」の物語に結実するのだった。

 ちなみに、デマティスが初期に構想していた「ジョーカーがバットマンを殺したと思い、正気に戻る」という話は、後年、『バットマン:レジェンド・オブ・ダークナイト』誌にデマティスが書いた「ゴーイング・サーン」のストーリーとして昇華される。こちらもオススメ(というか、筆者はデマティスの大ファンなので、彼の作品は何でもオススメする)。

「ゴーイング・サーン」は、一応単行本化もされているのだが、増刷されていない・電子書籍化もされていないため、マーケットプレイスでのプレミア価格が偉いことになっている。おのれ。

 ただしKindleは『レジェンズ・オブ・ザ・ダークナイト』誌の単話版電子書籍を発売しているので、同誌の#65-68までの4冊を買えば、「ゴーイング・サーン」を読むことができる。有難い。
 
 以上、デマティスの話をできて満足したので今日はここまで。

 次回の「補足」では、この当時の『スパイダーマン』誌の状況や、本作のヴィラン、バーミンについての簡単な説明、「クレイヴンズ・ラストハント」の続編などの話をする。

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