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『Il Cantico del Sole』誕生秘話


第5話 阻む壁


2018年に「Il Cantico del Sole」の楽譜を受け取ったインフィニは、この10曲を仕上げるにはある程度の時間が必要と判断し、初演を2年後の2020年春に行う計画を立て、練習を開始した。

2019年の春、インフィニと混声合唱団 漣によるジョイントコンサート“Harmonija”が行われた。このコンサートの中で、再びインフィニはカルツァス氏とかかわることになった。当初は予定していなかったことであるが、コンサートの計画中、かねてから付き合いのあるICEC(国際文化交流センター)の招聘によりビッグゲストとしてカルツァス氏の来日が決定し、作曲者自身の指揮で「Magnificat(混声版・ピアノ伴奏・フルート、オーボエ付)」の日本初演を行ったのである。それだけでも喜ばしいことではあるが、来日期間中、インフィニは翌年に予定していた「Il Cantico del Sole」世界初演の実現に向け、カルツァス氏の指揮でリハーサルを行う機会に恵まれた。カルツァス氏の指揮で実際に歌うことで、メンバーの士気も高まっていった。

カルツァス氏帰国の日、空港へと向かう車の中で湯田は曲について話をしていた。「一部難しい曲があり、仕上げるのは大変そうだと思っているけれど、頑張ります」と言うと、カルツァス氏は「インフィニなら歌えると思って書いた。エクササイズだよ!」と答えた。それを聞いた湯田は、プレッシャーやその他諸々の感情で震えた。

年が明け、迎えた2020年。世界初演への道のりに暗雲が立ち込めた。新型コロナウイルスの影が私たちにも忍び寄ってきたのである。計画が怪しくなってきてからも何度も検討を重ねたが、世界中で猛威を振るっていたウイルスはインフィニがわずかにでも持ち続けていた希望を打ち砕いた。この状況でのカルツァス氏の来日は非常に厳しい。強行したとしても、この状況ではこの素晴らしい楽曲をたくさんのお客様に届けることはできないのではないか。お客様にも音楽を心から楽しんでもらえる状況で、皆が健康な万全の状態で届けたい。

予定していた日程が間近に迫った3月、さまざまな想いからインフィニは苦渋の決断をした。2020年のカルツァス氏の来日、世界初演は延期とする。一同は悲しみに沈んだ。この日のためにと練習を重ねてきた世界初演の日が空白になり、目に見える目標を失い、途方に暮れた。それでも、インフィニは挫けなかった。先の見えない日々の中でも、インフィニには届けたい10曲があった。「この作品はいつか必ずカルツァス氏と初演するんだ」その強い気持ちが足を先へと進ませた。

合唱界に厳しい風が吹きつける中でも、万全の対策を講じ、インフィニは歌い続けた。世界初演に向けた練習の他に、リモート合唱やオンラインで公演を行うなど新たな挑戦をし、自分たちの音を発信していった。コロナ禍に立ち向かうインフィニの姿もまた、「地上の星」の音楽に乗せたドキュメンタリーという形でyoutubeから発信された。延期を決断した後もカルツァス氏渡航の機会を窺い続け、3回ほど検討を行ったが、いずれも度重なる感染拡大の波のために断念せざるをえなかった。



そうして迎えた2022年。ようやく海外からの入国が再開、制限が緩和された。「今しかない!」インフィニはそう思った。待ち続けた世界初演を実現する、その時がやってきた。

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