マメ科植物と根粒菌の共生(備忘録)

 マメ科植物(legume;以下、「植物」と略記)は、窒素同化菌である根粒菌を根粒に住まわせることで蛋白質合成に必要な窒素化合物を獲得し、同時に後者は前者の光合成産物を得る。この共生関係の発生及び窒素同化は次のように進行する(主として「新植物栄養・肥料学」(朝倉書店)からの抄写、適宜Wikipediaで補足)。

相互のシグナル伝達、植物への根粒菌の感染

・植物は、根近傍における窒素化合物の欠乏を感知すると、フラボノイドを根から放出する
・根粒菌内のNodD蛋白質(転写調節因子;根粒形成($${nod}$$)遺伝子から形成される)は、根粒菌が取り込んだフラボノイドと複合体を形成する
・蛋白質複合体が$${nod}$$遺伝子群のプロモーターに結合することで、共通$${nod}$$遺伝子、宿主特異的$${nod}$$遺伝子が順に発現し、これらの$${nod}$$遺伝子が作る酵素によりNodファクター(根粒菌種特有(宿主特異性の原因)のリポキトオリゴサッカライド)が形成される
・Nodファクターを受容した植物は、根皮層細胞を再分化させ、感染糸経由で根粒菌を侵入させる
(土壌の窒素欠乏を感知した植物が、共生可能な窒素固定菌を選別し、自身の根皮層細胞内へ誘導する)

窒素同化に必要な遺伝子の発現、環境の形成

・感染糸先端からエンドサイトーシス(細胞が細胞外の物質を取り込むこと)により植物細胞内に放出された根粒菌は、植物細胞が形成する膜(ペリバクテロイド膜)により、細胞質(サイトソル)内で二重膜で囲われ、バクテロイドと呼ばれる窒素固定に特化した状態(根粒原基)をとる
・サイトソルにおいてレグヘモグロビン(leghaemoglobin(←legume))と呼ばれる酸素輸送蛋白質が生成される(発達中の根粒において、ヘムの生合成に関わる遺伝子の発現は強い活性を示し、その活性とレグヘモグロビン生成遺伝子の発現は強い相関がある)
・同時に、感染細胞の周りに形成される酸素拡散障壁により、バクテロイド周辺は嫌気的になる
・嫌気、低アンモニア条件下でバクテロイドのニトロゲナーゼ($${nif}$$)遺伝子が発現し、ジニトロゲナーゼ酵素と、これを還元するジニトロゲナーゼレダクターゼ酵素が生成される
・バクテロイド特有のチトクローム(電子伝達体)が、嫌気条件下でATPとNADHが各々生成され、窒素ガスがアンモニアに還元される
(植物細胞内に根粒菌が侵入すると、その周辺に嫌気的環境が形成されるが、この環境下で両者が必要な遺伝子を発現、物質を生成することで、窒素同化の第1段階が実行される(詳細は次項))

窒素同化過程

・根粒における窒素ガスの還元(酸素により容易に不可逆失活するニトロゲナーゼ(二量体)が触媒する)はバクテロイドで行われるが、この反応はATP及びNADHを大量に消費する:

$$
\mathrm{N_2}+8\mathrm{H^+}+8\mathrm{e^-}+16\mathrm{ATP}+16\mathrm{H_2O}
\longrightarrow 2\mathrm{NH_3}+\mathrm{H_2}+16\mathrm{ADP}+16\mathrm{P_i}
$$

・$${\mathrm{NH_3}}$$生成反応は以下の第1式であるが、ニトロゲナーゼは反応特異性が低いため、第2式(還元的ATPアーゼ活性と呼ばれる)に代表される副反応が起こる(この2式を合わせると、上述の式になる):

$$
\mathrm{N_2}+6\mathrm{H^+}+6\mathrm{e^-}+12\mathrm{ATP}+12\mathrm{H_2O}
\longrightarrow
2\mathrm{NH_3}+12\mathrm{ADP}+12\mathrm{P_i}
$$

$$
2\mathrm{H^+}+2\mathrm{e^-}+4\mathrm{ATP}+4\mathrm{H_2O}
\longrightarrow
\mathrm{H_2}+4\mathrm{ADP}+4\mathrm{P_i}
$$

・根粒自体は非感染根細胞の数倍の酸素を要求するが、レグヘモグロビンによる酸素の捕捉(捕捉された酸素は植物体の酸化的リン酸化(NADHの酸化に伴うATPの生成)に用いられる)や酸素拡散障壁によりニトロゲナーゼ周辺の嫌気環境が保持される

・反応に必要なATP及びNADHは、植物から供給される$${\mathrm{C_4}}$$ジカルボン酸(リンゴ酸、コハク酸など)やアミノ酸から、TCAサイクルや酸化的リン酸化により生成される

・$${\mathrm{N_2}}$$の還元により生じた$${\mathrm{NH_3}}$$は、バクテロイド膜上のアクアポリン(水チャネル。種類により水分子を通す細孔の大きさが異なり、水分子の他に、電荷を持たない小さな分子を通すことができる)及びペリバクテロイド膜上のアンモニウムトランスポーター(バクテロイド膜とペリバクテロイド膜の間は弱酸性であり、$${\mathrm{NH_3}}$$は$${\mathrm{NH_4^+}}$$に変化する)によりサイトソルへ移行し、グルタミン合成酵素により同化される

・生成したグルタミンは、多くの植物ではサイトソル内でアスパラギンへの変換を経て利用されるが、ダイズなど一部の植物ではプリン代謝(グルタミン、グリシン、アスパラギン酸からのプリン骨格の生合成及びプリン骨格の尿酸への分解)を経て一旦尿酸に変換され、更に非感染細胞のペルオキシソーム(真核生物の細胞小器官。酸化反応の場)でウレイド(アラントイン、アラントイン酸)にすることで利用される

(バクテロイドで生成された$${\mathrm{NH_3}}$$はサイトソルへ移行され、グルタミンを経て、植物体が利用可能なアスパラギン若しくはウレイドに変換される)

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