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広島に愛された画家 南薫造

広島県立美術館の南薫造展に行ってきました。

前後期合わせて総勢200点で南薫造の仕事を振り返る大回顧展です。

展覧会構成

第1章 初期 美校時代
第2章 留学時代
第3章 帰国後の活躍
第4章 晩年 郷里での活躍

絵の源泉

瀬戸内の郷里を描いた作品を高く評価された南薫造は、広島県呉市安浦町に生まれました。

薫造は広島市内の高校に進学し、そのときに安浦町を離れます。そのため瀬戸内で過ごした時間というのは、とても長い時間であるとは言えませんが、風景画の評価が高い薫造にとって、郷里の瀬戸内の風景は、大きな存在だったといえるでしょう。

薫造の絵に大きく影響を与えるものとして、瀬戸内の風景の他にもうひとつ、印象派との出会いがあります。薫造は高校生のときに、牧師になった従兄、廉平にもらった絵はがきによって印象派に出会いました。油彩画家を目指すきっかけはここにあったといわれます。

ただ、薫造は印象派を日本の風景で忠実に再現するかといったらそうではなく、自然や人をどのように捉えるかを印象派の眼差しから学ん思います。それが晩年の作品における、印象派表現に留まらない自由な表現として現れているのかもしれません。

また薫造のパリに滞在し、印象派を見ていますが、主な滞在先はイギリスでした。これは油絵だけでなく水彩画も描いていたことが大きな理由です。

展覧会ではエドワード・バーン・ジョーンズの「ミル」の模写が2点展示されていますが、イギリス絵画は薫造の絵、特に女性の絵に影響を与えているのだと感じました。

【広島に愛される】

東京の学校に行っていただけあって、重要な作品のいくつかは東京にありますが、重要な作品たちが県内の美術館が(しかも複数)持っているというのは、画家が広島に愛されているという証拠でしょう。

広島県内の美術館は私もよく訪れるので、この展覧会で「お久しぶりです」という作品も少なくありませんでした。日本洋画史において重要人物の作品が、地元に残っているというのは凄いことで、地元美術館の努力を感じます。

他にもこんなものも。

広島県立美術館など各配布場所で貰えるパンフレットには、薫造が描いた瀬戸内風景画とその地図が載っています。

絵を見たあとに画家が実際に見た風景を辿れるというのも、画家の地元で展覧会を開催する醍醐味ではないかと思います。

(画家の痕跡を辿るのが好きです)

【南薫造記念館】

日を改めて、南薫造記念館に行ってきました。生誕100周年を記念して生家とアトリエを改築したそうです。

江戸時代後期に建てられたということもあり、建築自体も貴重な資料です。

中では小企画も。
友人とのはがきのやりとり。 美校初の女学生、マリー・イーストレーキとのやり取りも見られました。

広島県下初の美校入学者となった薫造ですが、成績は常に首席、次席だったそうです。父は医者になってほしかったので、画家になることを認めて欲しいという気持ちからかも知れません。

『白樺』に『みづゑ』

『白樺』原稿。

使用画材。こういうのあるとうれしい。
パッケージに目がいきます。

奥に行くと、展示室が2部屋。

印象派のように風景を見つめて。

女性の人物画はバーン・ジョーンズのような神秘さがあります。

薫造が参照していた資料にロセッティ、バーン・ジョーンズを見つけてにまり。手前の絵もバーン・ジョーンズですね。他にもルネサンスなど散見されました。

夭折した息子、陽造。共にスケッチに出かけていたそう。陽造が亡くなってから薫造は制作に手がつかなかったといいます。

絵と下絵、関連資料がまとめて見られるのも、こういった記念館の醍醐味ですね。特に下絵との比較なんかは制作過程や完成までの変容に何があったのが想像するのが、私の趣味であったりします…

そして最後はアトリエへ。
外観はこんな感じ。

中に入ると作業場所と和室に分かれていました。

こちらは和室。

主題はちがってもバーン・ジョーンズみを感じます。人物画はホイッスラーの影響もあるのかな。薫造は西洋絵画の研究を広くしているようですが、イギリス絵画の影響は大きいのかも。

制作の際は必ず着た服。そのほか雑貨や画材も見られました。

広島県立美術館では日本洋画の巨匠としての南薫造の画業に余すところなく触れるのことができますが、ここでは薫造の父として、息子として、ひとりの学生としての姿が垣間見ることができ、南薫造という画家に深まりを感じることができます。展覧会と併せてぜひ訪れてみてください。

この後は呉市立美術館にお邪魔しました。

日本近代洋画を応挙の時代の洋画表現から、油彩画を確立させた高橋由一、明治美術会の分裂をコレクションで全て網羅という素晴らしいコレクションでした。

南薫造を見たあとに、近代日本洋画の全貌を見ると勉強になります。

美術館の横に地元のものをおいたカフェがあるのも素敵ですね。

ゴールデンウィークで人が増える前に何とか行けました。おかげで連休はのんびり過ごしています。

大きな展覧会は会期末になると人が増えるので、早めに行っておくのが良いですね。

広島県立美術館の南薫造展は6月13日まで。
南薫造記念館は年中、展示やイベントを行っているそうなのでHPをご確認ください。

世の中が落ち着いたら日本洋画ファンのみなさまはぜひ瀬戸内へ〜。

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