ミステリーツアーにご注意を

これは、ミステリーツアーなる名の旅行パッケージが存在するなんて知る前のお話。そして、今よりも若かったからこそ、笑い話にもなっているけど事前準備の大切さを知った旅のお話。


とにかくみんなと旅行に行きたかった。
みんなといる時間が楽しくて、そこに非日常を味わえる旅行が嬉しかった。観光地に行くより、旅行だからと少しいい宿に泊まって温泉を楽しむ。今の私のスタンプラリーのようなひとり旅からは考えられない時間を堪能する旅だった。ゆえに、時間がある。

突然、友人から送られてきた写真がある。

海と山の写真だ。

突然、写真だけで送られてきたのだ。添えてある文は「どっちに行きたい?」。メインとなる旅行先は宮城県。仙台だと言っていたが、仙台は初日のお昼ご飯を食べる場所というだけで、宿泊先の作並温泉がメインだった。
わりと大人数で行ったというのに、みんなで旅行に行くことがメインで、みんなと一緒ならどこでも楽しめると思っていた私たちは、写真を突然送りつけて来た友人以外に特に行きたい場所を提案しなかった。ゆえに、その友人が送ってきた写真の多数決で場所は決まった。

「場所は山寺になりました!」

旅行初日にミステリーツアーの如く発表されたその場所は、山形県である。ちなみに、私は写真が来たとき海の写真は松島だとわかったので、そちらに投票していた。しかし、ほとんどの友人は山の写真、つまりは山寺に投票したのだが、なんと山寺なんぞ写真を送りつけてきた友人以外知る由もなかった。

「宮城なんだから松島がよかったー。」
「あれ、松島に見えなかった。」
「そうそう。だから山だって分かるほうに投票した。」

などなど、よく分からない場所に関して、そして、松島という知っている地名に今更ながらにプレミアムを感じてあーだこーだ言ってはいたが、なんだかんだ今初めて知った場所だからか、きっと海より山のほうが寒くないだろうと思ったからか、そのまま山寺に行くことになった。

そう、私たちは冬に山寺に行ったのだ。

ここで、冬の東北だということを忘れていた若き私たちは言うまでもなく山寺登山の厳しさを体感することになる。大雪と聞いて真っ先に思いつくのが北海道しかなかったのか。そのくらい、東北の雪をなめていた。

そもそも、送られてきた写真の松島も山寺も雪の粒すら載っていなかったと記憶している。山寺に関しては緑が生い茂っていて晴れている。登頂部にある山寺からは絶景を約束されたような写真だった。
そして、新幹線で着いた仙台駅には雪が1つもなかった。最近知ったことなのだが、仙台は東北の中では雪が降らないほうだという。新幹線の中で「雪大丈夫かな?」と心配していたはずなのに、東北の地に足をつけた瞬間安堵をしていた。

そして、私たちの足元は完全に旅行に浮かれたものだった。私は確かスニーカーだったと思うが、登山に向いたものではない。ヒールのブーティーを履いていた友人もいた。
そんな足元で向かうのは、雪に覆い尽くされた山寺だ。雪は降っていなかったと思うが、残った雪で階段になっているはずの道は坂になっている。帰りの下山に関しては、滑り台だとわりきって滑っていく。みんなといるからか、とにかくそれがおかしいのに楽しくてキャッキャキャッキャ騒いでいた。
そんな陽気で登った私たちは、山寺で一面の雪景色に感嘆しながらもお互いによくぞ登ったと称え合った。だが、そこに驚きを隠せぬ人がいた。山寺に登山していた他の観光客か地元のカップルだった。

山寺がそんなに雪だらけになるのだから、登っている人はそんなにいなかった。先に登っていたカップルはまるで某番組の第一村人そのものだったが、むしろカップルにとって私たちが第一村人だった。

「え、その靴で登ってきたの?!」
「いや、凄いなー若いなー」

もはや呆れ通り越して驚きになっていただろう。彼らの服装は完全に登山仕様。リュックで空いた両手にはトレッキングのあのしっかりした杖が握られていた。そして、登山の記録を残すためのビデオカメラに私たちを収めていた。ヒールの足元から頭の先まで。もう悲鳴に似たような驚きの声とともに。

この冬の山寺、なぜか同時期に周りで行っている人がいた。同じく、シティスタイルで滑るように下山したとのこと。このとき世の中で山寺ブームがあったわけではないのだが、あの大きな震災があったあとで旅行会社でも東北キャンペーンを行っていたことは東北へ足を運んだ大きなきっかけになっただろう。
テーマパークではなく温泉を選んで少し大人になった気で楽しみつつ、大都市を見てみたい。仙台、作並温泉はとても適切な場所であった。そして、その付近で交通機関で行ける観光地に山寺はヒットしたのだろう、宮城県ではないのだけど。
同じような動機でこれから冬の東北、特に山寺はじめ山へ向かう若者よ、完全なる登山スタイルと防寒を忘れずに旅へ向かってくれ!行き先の選択に写真を使う場合は季節の考慮も忘れずに!

#わたしの旅行記


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