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009Re:CYBORG 雑考察 「彼の声」について

こんにちは、アニメ大好きライトオタク、エイです。

ついこの間アマプラでアニメ版デビルメイクライを観たのですが、面白すぎて余韻が抜けません……最後ちょっとうるっと来ちゃいましたし。

ところで今回は、『009:Re:CYBORG』の考察記事です。

『009Re:CYBORG』は2013年に公開された、「サイボーグ009」のリメイク映画の一つです。
(主役の島村ジョー役は宮野真守です)

この作品で度々登場した上、結局よくわからないままだったのが、「彼の声」というフレーズです。

最近、再び(つまり2回目)この映画を観る機会があったので、せっかくだから今回、軽めに考察してみたいと思います。

それでは楽しんでどうぞ!


劇中で語られる「彼の声」について

「彼の声」とは何かについて、一番深く掘り下げて解説してくれたのは、教会でのハインリヒのシーンでしょう。

まずは映画の最初にジョーの語りで登場した「はじめに声ありき、彼ありき」というフレーズに着目します。
教会のシーンでは、このフレーズによく似た言葉に、「彼と自分とは常にともにある、それぞれの人の中に彼はいる」というブッダの引用と似ている、と指摘が入ります。

さらに
「人類の思考そのものが神である」
「太古の昔、狩猟を通して死を学んだ人間は、死の恐怖を克服するために神や信仰を脳の中に作り上げた」
という説明がありました。

どうやら人間の頭の中に、神と呼ばれる存在がある、ということを言いたいようです。

そして「彼の声とは何か」という問いに対して、カリスマ脳を持つ人、シャーマン的な人が受け取るメッセージ、これが彼の声ではないか、なんて話もありました。

ギルモア博士の「自分の声を彼の声と勘違いしてもおかしくない」というセリフからは、「彼の声」が、内側から聞こえてくる存在であることが推測できます。

つまり、「彼の声」とは、外から発せられる、洗脳的な存在ではない、内側から聞こえてくる、原始的なもの・生物的なもの・観念的なものではないかと私は推測しました。

では、「彼の声」は何を言っていたのでしょう?

「彼の声」を聞いた人々は、一部が爆破テロに向かい、「人間をやり直す」ことに向かいました。
一方、後半の009は「彼の声も違った意味に聞こえる」と発言して地球を救うために立ち上がります。

一見して矛盾しているようでありながら、実はこの二つの行動は、同じ動機から生じていると思えば、全く矛盾しません。

彼の声とは、「(神様が)人類に最初から与えていた”正義(正しいこと)を成せ”という、無意識の思考」を指すのではないでしょうか。

最後のフランソワーズのセリフで「天使の化石は自らを犠牲に正義をなそうとした者たちのモニュメント」という言葉とも、この考えは矛盾しないように思います。


少女の幻影=「彼の声が聞こえた」という表現方法

ジェットが監視カメラを確認するシーンからも分かる通り、少女の幻影は本人にしか見えていません。

また、「彼の声」を誰かが聞いた、と思われるシーンにしか、少女は登場しません。

このため、少女の幻影は「彼の声を聞いている」ということの象徴ではないかと考えられます。

具体的に声を流すと、なかなかシュールな仕上がりになる上、神秘的な感じより、胡散臭い、俗物的な演出になってしまうからでしょう。

少女の幻影、という映像としてわかりやすい形で「彼の声」を表現したものではないかと思うのです。

島村ジョー(009)が聞いた「彼の声」が変化した理由

彼の声を聞いた一部の人が爆破テロに向かったのは、その人たちが「人間は間違っているからやり直すべき」もしくは、「現状が辛いから世界なんて壊れちまえ」と思っていた、強く願っていたからではないかと推測できます。

つまり、彼らにとって、爆破テロ=正義だったのです。

映画序盤のジョーは繰り返される高校生活により、辛い日々を送っていました。
このストレスから「世界なんて壊れちまえ」と考えていても不思議はありません。
(これは偏見ですが、思春期の高校生時代は、世界が憎らしくてしょうがなく思えるときがあるものです)


ジョーが記憶を取り戻し、仲間や恋人との再会を果たし、「繰り返しの高校生活」のストレスから脱却すると、途端にジョーの「正義」は変わります。

「世界なんて壊れてしまえ」から「世界を守りたい」という思想に変わったのです。

ジョーにとっての正義(正しいこと)が、「人類を守ること」に変わったのではないでしょうか。


だからこそ、「彼の声を聞いた”一部の”人々がテロに向かった」のです。

映画前半のジョーのように、人類をやり直す=正義、と考えた人々がテロに向かい、正義に対して別の解釈をした人々は、テロを起こさなかったのです。

ジョーが「彼の声」を最初に聞いたのは、「多くの人が彼の声を聞いている中、全員がテロには向かわなかった」理由を、主人公のジョーの変化を通して表現するためではないかと考えられます。

ジェットが「彼の声」を聞いて暴走したのは、
ジェットの中の正義が理由

一方、ジェットは「彼の声」にしたがって、ペンタゴンを破壊しました。

ジェットはジョーと異なり、記憶は失っていませんし、終わらない高校生活も送っていません。
正義感があり、芯のしっかりした人物です。

ではなぜ、暴走に至ってしまったのでしょう?


理由は、ジェットの置かれた状況と、ジェットにとっての「正義」のあり方です。

「彼の声」が聞こえる直前、ジェットは政府から裏切られ、今まさに、テロの犯人として吊し上げられる直前でした。
つまり、ストレスがかかり、追い詰められている状況です。
ここは終わらない高校生活を送っていたジョーと類似します。

そしてこれが最大の理由だと思われるのですが……ジェットの正義は、「自分の行手(行動)を邪魔する者を排除する」、というシンプルなものです。
これはジョーとの会話から読み取ることができます。

つまり、一時的とはいえ、このときのジェットにとっての正義は、「自分を裏切った、自分を拘束した、自分を悪者に仕立て上げようとしている政府」(=邪魔する者)を排除することだったのです。

これにより、ジェットは無意識とはいえ、ペンタゴン破壊を行ってしまったのではないかと推測されます。


ピュンマとグレートが消されたのは、「彼の声に逆らった」から? もしくは……

ピュンマとグレートが途中、行方不明になる描写は、結局最後まで理由が明かされませんでした。

しかし、内容から推測することはできます。

私はこれに2つの推測を立ててみました。


ひとつ目は、「彼の声」に逆らって消された、という推測です。

ピュンマとグレート、二人に共通しているのは、「彼の声を聞く前に彼の声に逆らった」ことではないかと考えられるためです。

ピュンマは、「彼の声」そのものの正体を探すため、発掘調査を行いました。
このとき、他の発掘員は声を聞いたのに、ピュンマは声を聞いていません。
なぜならピュンマ自身が「彼の声」を研究対象としており、言ってみれば、ちょっとした神への冒涜行為を行なっていたからです。

「彼の声」に導かれたピュンマは天使の化石のモニュメントを見つけ、「彼の声」の正体に気づき、少女(=彼の声)によって姿を消します。

言ってみれば、「神の域に到達しようとバベルの塔を建てた人間」みたいに、雷という名の神隠しに合ってしまった可能性があるのです。

ちなみに、教会でピュンマの残した資料を読み上げたハインリヒは、たびたび自分でも「さあな」「わからん」と言っていたように、「彼の声」について、理解していないため、冒涜行為に含まれなかったのではないかと考えられる。
(ただ目の前のピュンマの資料を読み上げただけですから)


一方グレートは、テロを止めるための調査を行う中で、死体サイボーグと思われる人物をやっつけた後、彼の声に導かれ、姿を消しています。

ここで注目したいのは、死体サイボーグがどのポジションの存在か、ということです。

死体サイボーグは、「彼の声」に従って動いている会社のものでした。
つまり、死体サイボーグたちは「彼の声」側の存在です。

「彼の声」に従っていた者に仇なす、つまり、「彼の声に逆らう」ことをした結果、消されたのではないか、と思われます。

ちなみに島村ジョー、ジェットが、テロを阻止するために動いている様は一見して「彼の声」に逆らっているように見えますが、ジョーは「人類を守りたい」ジェットは「邪魔者を排除する」という、それぞれの「彼の声」に従っているため、排除対象にはなりません。

また、財団のサイボーグたちを襲った死体サイボーグの襲撃は、描写により「彼の声」によるものではないことが暗示されています。

直前に教会の「天使」の絵が壊れる描写が、暗喩的なものではないかと私は考えています。

また、後々この襲撃はサイボーグたちに罪を被せるためのアメリカ政府の策略であったことが明かされます。
同じ死体サイボーグでも、「彼の声」の影響が認められないため、ここで戦った00ナンバーサイボーグたちは排除対象に加わりません。



もう一つの理由として考えられるのは、二人がそれぞれの「彼の声」に従った結果、正義=姿を消すだったから、ということ。

ピュンマが姿を消した場面は水辺でした。

残念ながら映画内での活躍はありませんでしたが、原作通りならピュンマは水中を自在に泳げる能力を持っています。

もし川に繋がる深い水場があれば、そこから姿を消したところで、大した不思議はありません。

帽子だけが落ちていたのも、帽子をかぶっていては泳ぐのに邪魔だったから、ということも考えられます。


グレートが姿を消したとき、車が目の前を通り、その後にグレートが消えていました。
実は作品内に、似たようなシーンが一箇所出てきます。

それが、チャンチャンコが一瞬で車に取り憑くシーンです。

絵としては、「車が目の前を通った後、チャンチャンコが消えている」というものです。
ただし、こちらの場面ではのちのカットででチャンチャンコが車にしがみついていたことがわかります。

わざわざ似たようなシーンを入れたのは、「車が目の前を通って人物が消えたら、その人物は車にとりついた可能性がある」ことを示唆するためかもしれません。

つまり、グレートは姿を消したのではなく、通り過ぎた車に取り憑いた可能性があるのです。

最初の推測と合わせると、「自分は「彼の声」の邪魔になる→姿を消そう」という思考から、自ら「彼の声」に従って姿を消したのかもしれません。


ジェットたちが生きていた理由

宇宙に飛び出したジェットは、その後バラバラになりながら、宇宙空間に消えていきます。

ところが、映画の終盤では生き残り、仲間たちとの再会を果たしています。
このとき、生死不明だったピュンマとグレートも合流し、全員が生存していたことがわかります。

どうして彼らは生きていたのでしょう?

私はこれは、「彼の声」に従った人々が招いた結果ではないか、と推測します。
実際このシーンでは、「これも彼の声か?」というセリフが挟まります。

具体的に誰が何をしたかはわからないものの、映画後半のジョーたちのように、「正義=人を守る・助けること」だと考えた人々が、落下したジェットやジョーを助けたのではないでしょうか。

つまり、「彼の声」に従った人たちによって助けられたのです。

ジョーの言葉「神よ!」という問いかけに、文字通り、「彼の声」を人間に吹き込んだ神が助けを出したのではないでしょうか。

もしくは、二人の中の「彼の声」、正義=生きること、つまり「生きろ」と命じた……なんてこともありそうです。


ピュンマとグレートが戻ってきたのは、おそらく「彼の声」に従って、姿を現したからではないか、と思います。

ペンタゴンを壊したジェットのように、無意識に姿をくらましていたのなら、二人が不思議そうな顔をしているのも頷けます。


ジョーの恋人(?)トモエちゃんは、「彼の声」?

窓ガラスに映らない、容姿や配色がフランスワーズと似ている、などの理由から、ジョーのイマジナリー・フレンドのような存在と思われる、トモエちゃん。

内なる声、という意味では、トモエちゃんも「彼の声」のように思えます。
しかし私は、フランソワーズの脳波通信と、ジョーの中のフランソワーズ像が混ざったものではないか、と考えました。

トモエちゃんの最初のセリフに、001が喋る時や、大気圏でジョーとジェットが会話している時に聞こえる、テレパシー(脳波通信)独特のエフェクトがかかっているので、フランソワーズの脳波通信がトモエちゃんを作っていることは、間違いないと思われます。

ギルモア博士のセリフから、フランソワーズがジョーを監視していたこともわかりますから、その際にフランソワーズが脳波通信を送っていたとしても、特に不思議はありません。

このため、少なくとも映画序盤のトモエちゃんは、フランソワーズが作り出した「ジョーを監視しつつ、支えるための仮想の存在」というのが有力ではないかと思います。


ただし、ジョーの夢の中に登場したトモエちゃんは、少し毛色が違います。

廃墟となったドバイで、ジョーに「神は越えられない試練は与えないと思うの」と語りかけるこのトモエちゃんは、明らかにフランソワーズの意図する場所とは違う場所で動いています。

そのヒントは、映画の終わりに現れます。
フランソワーズが、全く同じセリフを映画の終わりに語るのです。

このことから、夢の中に登場したトモエちゃんは、ジョーの中のフランソワーズ、言ってみれば、「彼女の声」とでも言えるようなものではないかと推測できます。

「フランソワーズだったらこう言うだろうな」という言葉を、ジョー自身がトモエちゃんに語らせたのでしょう。


まとめ:「彼の声」とは、人の中の正義の声(じゃないかな多分)

アニメの考察をするなんて、これが初めてで、どこまでちゃんとできたかはわかりません。

でも、とても楽しかったです。

私自身の考えの整理もできましたし、映画への理解も深まりました。


同時に、今こそこの映画を見て、考えて、多くの人に自分の中の「彼の声」を聞き直してほしい、そう思いました。

コロナ禍が始まってから、この映画を彷彿とさせるような、悲しい事件が起こることが多く、戦々恐々としています。
「彼の声」を聞いて、怪しいタンブラーを鞄に詰め出す人が増えている気がします。

本当に、「彼の声」はそう言っているのでしょうか。
今一度、耳を澄ませてください。
戦うべきは、世界なのでしょうか、救うべきは、自分なのでしょうか。


怪しいタンブラーを詰める前に、自分に何ができるか、改めて考えたいところです。
もしかしたら、自分も知らない、すっかり忘れてしまった「加速装置」が眠っているかもしれません。

ではどうしたら「加速装置」が見つかるのでしょう?

それはジョーがフランソワーズを助けたときと同じです。
仲間や家族を思ったとき、初めて自分の「加速装置」を見つけて、大空へと飛び立てるのです。


疲れた時は、海のきれいなリゾート地にでも行きましょう。
そこには、無くしたと思っていた誰かが、何かが、待っているかもしれません。


……それはそれとして、一回観てわかるくらいのわかりやすさは、もうちょいあってもいいのになぁ、とこの映画に対して思った、今日この頃でした。


あなたの中の「彼の声」はなんと言っていますか?

エイでした。

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