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なすび里世界を行くージャカルタ場所 【絵のない絵本】

野菜力士たちはすってんころりんあわてております。
海外巡業の予定が発表されたのです。
開かれるところはインドネシアという南の国のジャカルタという街です。
インドネシアはちょうど赤道の上に広がる日本が五つもすっぽり入る大きな島国でジャカルタはその中のジャワという名前の島にあります。
対戦相手は南国の果物力士たち。
力士たちがすってんころりんあわてているのはインドネシアにはあの果物の王様ドリアン力士「ドリ安」がいるからです。
大きい上にごつごつしたあの固いとげとげは取り組むと痛くてたまりません。

巡業力士として、横綱のすいか力士「すい海」、たまねぎ力士「たまね錦」、そして、なすび力士「なすび里」の三力士が選ばれました。
仲間の力士たちから、負けるな!でなく、すりつぶされるな!と見送られて、なすび里は暖かいジャカルタに到着してもまだぶるぶる震えていました。
さて、ホテルに到着してから3力士は番付を見ました。
インドネシアの出場力士は「ドリ安」、「ナン快」、「アボカ道」とあります。
「ドリ安」はドリアン、「アボカ道」はアボカド、で、「ナン快」はなんかいな、とたまね錦はピリッと冴えています。たまねぎだけに。
調べてみますと、「なんか」エライ相手のようです。
インドネシアの言葉でナンカ。世界の言葉ではジャックフルーツ。
世界最大の果物で大きいものは長さ70センチ、重さ50キロにもなるそうです。

「ヒエ~聞いてない~!」
さっそくなすび里はぶるぶる震えながら帰りしたくを始めております。
すい海が言いました。
「おいおいなすび里、僕たちは日本の野菜力士を代表してここに来たんだよ。とにかく力一杯闘おうではないか」
さて番付をさらに見ますと、勝ち抜き戦になっておりまして、

なすび里はそれを見てまたぶるぶる震えながら帰りしたくを始めております。

さて、大相撲ジャカルタ場所の日がやってまいりました。
インドネシアの子どもたちとの相撲教室でころころすってんころりんととても楽しいけいこ相撲をしたあと、いよいよ日本の野菜力士とインドネシアの果物力士の勝ち抜き戦の始まりとなりました。

【一回戦】 なすび里 対 ナン快

一回戦、最初は「なすび里」と「ナン快」の対戦です。

ひが~し~、なすび~さ~と~、に~し~、ナンか~い~。

なすび里はこんな大きな舞台は初めてでもう恥ずかしくってぽっぽ、ぽっぽっ。
これ以上ぽっぽが続くとマーボナスになりそうなくらいほっぺを赤くしております。
あんまりかわいいので会場またテレビを通じてインドネシア中の人たちから声援が飛びます。

ナン快は確かにとても大きくなすび山の三倍くらいの高さがあります。
皮がおろし金みたいにゴツゴツしているのですれるととても痛そうです。
ナン快から見たら自分は小さくてツルツルしていて柔らかいし、勝負にもならないなと少し悲しくなりました。

はっきよ~い、のこった~!

本気でぶつかったら客席の後ろの方まで飛ばされそうですし、がっぷり組んだらお漬物のように絞られそうですので(汗かいて塩吹いてます)、なすび里は真正面から当たらないようにするっとナン快の足元を抜けました。
急になすび里の姿が消えて、ナン快はあれ?あれ?となすび里を探します。

のこった!のこった!

ここで攻めたのはナン快のしっかり見えているなすび里でした。
なすび里は全身の力を集中してナン快の足元をぐいっと押し込みます。
押し込まれたナン快がなすびをとらえて大きな手ではたこうとします。
さて、どちらが早いか!
どすん!大きな音がして会場中のお客さんが天井近くまで飛びあがりました。
ナン快が土俵外に倒れています。

勝負あり!なすび里!決まり手、押し出し!

なすび里、勝ったことにまだ気づいてなくて、ほっぺをぽっぽ、ぽっぼさせていました。よくがんばったね。
ナン快!お疲れ様!ありがとう!

【一回戦】 たまね錦 対 アボカ道

続いては「たまね錦」と「アボカ道」の対戦です。

ひが~し~、たまねに~し~き~、に~し~、アボカ~どう~。

たまね錦はメキシコ出身のアボカド力士「アボ角」と対戦したことがありますが、アボ角は黒くてもっとゴツゴツしていました。
アボカ道も同じアボカド力士ですが、まだ熟してないのか色はみどり色でアボ角よりツルツルしていてとても取り組みにくそうでした。

はっきよ~い、のこった~!

固いアボカ道の身体に強く当たったのでたまね錦の皮がはらはらとはがれ落ちました。
同時にアボカ道の目にたまね錦のぴりぴりした汗のしぶきが入りました。
わあ!イタイ!イタイ!
アボカ道もこれまでインドネシアのいろいろなたまねぎ力士と対戦してきましたが、たまね錦はどの力士よりも大きく丸々としていて、汗がピリピリしています。
たまね錦もこの固くてツルツルしたアボカ道としっかりつかめないでいます。
あちこち手を回そうとしますが、ツルツルツルツルうまくつかめません。
両者ともなれない相手にとても苦労しているようです。
ツルツルぴりぴり、押して押されて、ツルツルぴりぴり、押して押されて、を繰り替えしています。
たまね錦がたっぷり汗をかいています。
アボカ道があーイタイイタイ!あーイタイイタイ!
ここで、たまね錦が覚悟を決めてえいや!と真正面から押し込みにいったところアボカ道の固いツルツルの身体でツルンと滑り、そのまま背をはたかれて手をついてしまいました。あ~おしい!

勝負あり!アボカ道!決まり手、つき落とし!

アボカ道が日本力士を負かしました!
たまね錦!お疲れ様!ありがとう!

【一回戦】すい海 対 ドリ安

続いては日本とインドネシアの両横綱対決「すい海」と「ドリ安」の対戦です。
まあとにかく両者大きいだけではありません。どーんとした横綱の風格があります。

ひが~し~、すいか~い~、に~し~、ドリあ~ん~。

インドネシアの人たちは、日本のすいか力士はまんまるの形をしているなあと思いました。インドネシアのすいか力士はラグビーボールみたいに長いのです。

はっきよ~い、のこった~!

会場がゆれるほどどんとぶつかってがっぷり組みました。
大きさ、重さは両者同じくらいですが、とにかくドリ安は全身大きなトゲトゲだらけで力を入れて押すほど痛くなり、すい海の力がついゆるんでしまうのです。
さすがのすい海も苦しい闘いとなっています。
しかし、ドリ安もけして楽ではありません。
ドリ安の中に大きなタネがごろんごろん入っているので筋肉の量はすい海の方があるのです。中から湧き上がる力はすい海の方が上です。
さあ、両者まったく譲りません。
土俵のど真ん中で押し合いを続けています。

のこった!のこった!

しかし、すい海は最初のぶつかり合いで怪我をしてしまったのでドリ安よりも早く疲れがきたようです。そこをとらえたドリ安がとげをうまく使い、すい海の重さを利用して投げました。
ゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロごろーん。
ボーリングの玉のように土俵から客席の通路をまっすぐ転がりました。
客席のお客さんたちや力士さんたちが大勢で追いかけてなんとかそれ以上転がるのを止めました。

勝負あり!ドリ安!決まり手、すくい投げ!

さすが横綱対決。とてもずっしり見応えがありました。
すい海!お疲れ様!ありがとう!

【二回戦】 なすび里 対 アボカ道

さて勝ち抜き戦の二回戦は「なすび里」と「アボカ道」の対戦です。
こちらの勝者が後にドリ安と対戦いたします。

ひが~し~、なすび~さ~と~、に~し~、アボカ~どう~。

なすびはさっきアボカ道と対戦したたまね錦からツルツル滑るから注意しろ、と教えてもらいましたがどうやって注意したらいいのかさっぱり判りません。
自分の身体をみたら自分もけっこうなツルツルさです。
これは日本とインドネシアのツルツル対決だ、と思うとまた恥ずかしくなって、ぽっぽ、ぽっぽとほっぺが赤くなりました。。

はっきよ~い、のこった~!

どんとぶつかってがっぷり組みました。
同じようにツルツルしていますが、アボカ道は固くて、なすび里は柔らかい身体をしています。
アボカ道はぐいぐいと押しましたが、なすび里のお腹はそれにあわせてぐいぐいとへこむだけです。さらにぐいぐいと押し込むとまたぐいぐいとへこむだけです。
これを二回続けただけでアボカ道はすっかり疲れてしまいました。

のこった!のこった!

アボカ道はインドネシアのなすび力士「ナスヶ万々」と対戦したことがありますが、明らかになすび里の方がどっしりと安定した形をしていて、ぐいぐい押してもけっこう粘ります。
また、アボカ道はタネが大きいので筋肉量もなすび里に負けています。
そのため、長い勝負になるとたちまち力を失ってまいります。
「えいや!」
なすび里の大きな声が響きました。

ゴロゴロ、どーん!

アボカ道が土俵の下でツルツル転がっております。
勝負あり!なすび里!決まり手、おしたおし!

凄い!なすび里!大舞台で二勝目だよ!
アボカ道!お疲れ様!ありがとう!

【優勝決勝戦】 なすび里 対 ドリ安

さて日本の野菜力士とインドネシアの果物力士の勝ち抜き戦はいよいよ優勝戦まで進み、
「なすび里」と「ドリ安」の対戦となりました。
ドリ安はフルーツの王様、まさに世界の横綱。ここはなすび里、全力でどんとぶつかるしかありません。

ひが~し~、なすび~や~ま~、に~し~、ドリあ~ん~。

会場はこれまでとは違い、しーんと静かになりました。
世界最大果物力士ナン海まで倒したなすび里。小さくてかわいいのに粘りがあって確かに強いです。
しかし、相手はドリ安。なすび里が勝つか負けるかよりあのトゲトゲに傷だらけにされて観客席の後ろの壁にぽよ~んと投げられないように祈るばかりでした。
なすび里は緊張と大舞台に立っていることの興奮とでぽっぽ、ぽっぽとほっぺを赤くしていました。

はっきよ~い、のこった~!

どんとぶつかり始まりました。
これまでに感じたことのない、重さ、固さ、痛さ、力強さ、です。
部屋の特訓でいろんな大きな野菜力士たちと組んできましたが、この感じは初めてです。
ずるずるずるずる押されますが、身体をしならせ粘ります。
なすび里はドリ安になにかで勝てる、なにかで勝てる、と心の中でもずっと粘り続けていました。
何度も負けて泣いてきたなすび里だから知っているのです。

負けていないうちはまだ勝つことができるのだ。。

自分が持っているのはなんだ。
この固い固いドリ安の身体。
そうだ!自分には柔らかくて強い筋肉がある。
そして仲間たち。がんばれと応援してくれる野菜力士の仲間たち。
みんな本当は自分がここで闘いたいのだぞ!

なすびはぐんぐんぐんぐん押し切られました。もう土俵の端のぎりぎりのところです。
そして、最後に残った力を振り絞って、それまでの力の方向と反対の向きに一気に背中をぐにゃっと反らせたのです。
ドリ安はそんな形をとる力士と対戦したことがないので、勢いあまってそのまますっ飛んで転がるしかありませんでした。

ゴロゴロゴローン。もひとつおまけにゴローン。

目の前でなにが起こったのか誰もよくわかりませんでした。
ドリ安もこれまで一度も負けたことがないので今自分がどうなっているのかもわかりません。

勝負あり!なすび里!決まり手、うっちゃり!

インドネシア中からいっせいに大きな拍手と歓声。
日本の野菜力士たちもいっせいに飛び上がって喜びます。
ドリ安はゆっくり起き上がってぽんぽんと土を払い、トゲとトゲの間にざぶとんを敷いてその上になすび里をひょいと座らせて彼が一番だ!と讃えながら広い会場中を練り歩きました。
なすび里はドリ安の頭の上でゆらりゆらりゆられながら、とにかく恥ずかしくてたまりませんでした。
だから、今、彼のほっぺはね、
ぽっぽ、ぽっぽ、マーボナスになりそうなくらい真っ赤っか。
いつもの通りですよ。

お~し~まい。

「なすび里世界を行くージャカルタ場所」は、
かがくいひろし氏の著作「はっきよい畑場所」より想像を広げて創作しました。
本作品をご紹介くださったあかね様どうも有難うございました。(三木)