二次創作短歌を詠むときの手順



はじめに

Twitter上で複数のフォロワーさんが短歌の作り方を公開してくれていて、とても興味深いうえ参考になる部分も多かったため、私も自分が二次創作短歌を詠むときの手順を書き起こしてみようと思いました。自分の思考を辿っていくうち、当初の予想より長文になってしまったため、せっかくなのでnoteにまとめて残しておくことにしました。念のために自己紹介しておくと、2022年秋頃に短歌を始め、にるぎり(@indo_no_oka)というTwitterアカウントで刀剣乱舞を中心に二次創作短歌を上げています。二次創作ではない短歌も詠んでいますが、自分の体験や感情をもとに詠む短歌は、ファンアートとして詠む短歌とは全く別の方法で作っているため、今回は二次創作短歌、それもあらかじめお題が決まっている場合に限った作り方を書いていこうと思います。例として、 #刀剣短歌俳句深夜の60分一本勝負 で2/17に詠んだ

二番ではいけない理由が吹き付けて主、お召し物が汚れます/お題「春一番」へし切長谷部

の作り方を書いていきます。刀剣短歌のワンライはだいたいこんな感じで作っています。


1.お題から連想する言葉を書き出す

まずはお題から連想する言葉をどんどん書き出していきます。手書きでマインドマップにしていくこともあれば、画面にひたすら思いついた言葉を打ち込んでいくこともあります。「春一番」の場合は春の一番初めに吹く・初春・強い風・砂埃・花が散る・季語・吹き付ける・気象庁の発表・キャンディーズ などのワードが出ました。


2.お題の語義を調べる

手順1で出てきた言葉たちは自分の限られた語彙や主観的なイメージによって連想されたものなので、誤りを含んでいたり、多面的な見方ができていない可能性があります。その言葉についての客観的な情報や視点を得るために、お題となっている言葉を検索します。デジタル大辞泉などで辞書的な語義を調べたあと、複数のサイトの解説にざっと目を通します。なるべく信頼の置けそうなサイト中心にアクセスするようにしていますが、Wikipediaなどやソースの明示されていない雑学サイトのようなものも言葉のイメージを広げていくのに活用しています。「春一番」では気象庁、NHK、気象関係の会社のサイトなどをはしごしました。活字中毒なのでこれが楽しい。うっかりここで時間を溶かしすぎてしまうことがあります。


3.歌の核となる要素を決める

手順1と2で言葉を主観・客観の両面から見ていく過程で印象に残った要素や情報を拾い、その中から歌の核とする要素を選び出します。ここで気になった情報を更に深堀りしていくことも多いです。

「春二番はないのか?」(検索)「あるらしいけど気象庁は正式な用語として認めておらず、一部のメディアや季語でしか使われていないらしい」「確かにほとんど聞いたことがない」「一番であることがきっと重要なのだろう」

春一番というワードに関して自分の心に引っ掛かった要素「一番であることの意味の大きさ」をまずひとつの核とし、その第一の核と刀剣乱舞のキャラ・世界観との関係性を探していきます。思いつかないときは刀帳をスクロールしたり、ゲームのスクショを見返したりします。今回は比較的すぐに「そういえば長谷部は主の一番になりたがっていたな」と思いついたので、長谷部について詠むことにしました。「一番であることの意味の大きさ」「主の一番であることを希求するへし切長谷部」「いちばん初めに吹く風ゆえに知られている春一番」これらを歌の核とし、短歌の定型に落とし込んでいきます。


4.定型にする

歌の核となる要素を定型に落とし込んでいきます。ここからはだいぶ直感的になっていきます。ここまでの手順でお題である言葉について考え続けてきたので、意識的に言葉を選ぶというよりは、思索の結果が無意識に結実して言葉になるのを待つ、という方が近いです(なんて抽象的な…)。論理的に考えを詰めて作ることもありますが、ここまでの過程でたいてい57577のどこかは思いついているため、それをベースに歌を作っていきます。このときは、

二番ではいけない理由が吹き付けて

という577が比較的すんなり生まれた気がします。思いついた言葉をなるべく活かしながら、核となる要素を表現できるように定型にしていきます。ここでは、「二番ではいけない理由=春一番が」「吹き付けている」という状況が描けました。先程決めた歌の核のうち、「主」「その一番になりたい長谷部」という要素が足りないので、それを77に持ってくることにします。

「強い風が吹き付けるとどうなる?→砂埃が立つ→服が汚れる」

お召し物が汚れます、主

核として定めた要素が全部詰め込んで定型にできたぞ!となります。この辺がテンション最高潮です。


5.推敲

推敲していきます。

二番ではいけない理由が吹き付けてお召し物が汚れます、主

推敲のときはざっくりと①短歌としての完成度 ②キャラの解釈 ③歌の核の要素の表現、という視点から考えていきます。

①短歌としての完成度では、文字として見たときと音として読み上げたときの印象を考えます。ここでは特に直す必要性を感じなかったのでそのまま。

②キャラの解釈では、自分のキャラの解釈と矛盾していないか・ゲームの刀帳やボイス、台詞などから原作キャラと矛盾が生じないか、という点から考えていきます。ここで「長谷部は主に何かを言うとき先に主に呼びかけるのではないか?」と考えたので77を

主、お召し物が汚れます

と直しました。

③歌の核の要素の表現は先の2つと比べると優先順位が低いです。決めておいた歌の核から外れたり、要素を表現しきれなかったとしても、お題から外れていなければいいかなくらいに考えています。あまり核の部分に固執しすぎると行き詰まってしまうし、当初の歌の骨組みとは違っても、それはそれで面白い短歌になることも多いからです。

6.完成

こんな感じで所要時間1時間ほどで詠んだのが

二番ではいけない理由が吹き付けて主、お召し物が汚れます

という短歌です。後は画像化し、Twitterにアップしてワンライ終了です。


終わりに

フォロワーさんの短歌の作り方を読んでいて驚いたのが、脳内で映像や画像をイメージして言語化している方が複数いらっしゃることでした。わたしが短歌を作るときには映像や画像としてのイメージを持つことはほとんどなく、ひたすら言葉と向き合って作っているので、そのような短歌の作り方があるとは!と目から鱗が落ちた気分でした。その驚きをきっかけに自分が二次創作短歌を作るときの手順を書き起こしてみようと思いこの文章を書き始めました。自分の思考を辿ってみて思うのは、わたしは言葉について言葉を用いて考えるのが好きなのだな、ということです。たった三十一文字という限られた文字数の表現においても、その過程は様々で、だからこそ多様な短歌が生まれて面白いのだろうと思います。できることならもっと多くの方の短歌の作り方を知りたいと思います。ここまで読んでくださりありがとうございました!

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