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白痴

映画「白痴」の冒頭に、次のような
ナレーションがある。

「原作者ドストエフスキーは、この作品の執筆にあたって、真に善良な人間が描きたいのだと言っている。そして、その主人公に白痴の青年を選んだ。皮肉な話しだが、この世の中で、真に善良であることは、白痴(バカ)に等しい。この物語は、一つの純で清浄な魂が、世の不信、懐疑の中で、無残に滅びてゆく痛ましい記録である」

主人公の亀田は、戦時中、銃殺刑に処せれる寸前で助命されたという経験があり、この時のトラウマが原因で白痴という病にかかったのである。

亀田は、銃殺される直前の自らの心境を次のように語っている。

「世の中の人が急にめちゃくちゃに懐かしくなって。僕の知っている人全部。誰も彼も。ただ往来ですれ違った人も。いいえ、人ばかりじゃないんです。子どもの時、石をぶつけた子犬のことも。僕何でもっと親切にしなかったんだろう。みんな、みんな、誰にでも。もし助かったら、死なずにすんだら、今度こそは、誰にでも親切に優しく、そう思った。」と。

先日、老母が高熱により意識もうろうとなったのである。
いわゆる「せんもう」という状態で
ある。すべての記憶が一時的に
無くなり、母の人格が崩壊したような感覚があった。

その時に主人公亀田のような
気持ちになったのである。
意識が戻ったら、「どんな時も、
優しくしよう」と決めたのである。

しかし、意識が戻ったその翌日の、母の何気ない一言にカチンと来てしまった。そのような自分なのである。

映画のラストシーン、亀田の周囲の
人間が、生前の亀田について、
語る場面がある。

「あの人は、人を憎まず、ただ愛してたの。私は、なんてバカだったの。
白痴だったのは私だわ。」

まさに真理である。

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