Gregory And The Hawkというアーティストが好きすぎるから、ちょっと話を聞いてくれないか

こんにちは。藍と申します。
今回は「好きなものマジプレゼン企画」の一環として、私が欽慕して止まないGregory And The Hawkというアーティストの話をしたいと思います。
本記事の最終目標は、皆さんに一曲でもいいのでちゃんと最後まで聴いてもらうことです。あわよくばそこからハマって頂ければ望外の僥倖ですが、そこから先は皆さんの課題なので任せます。人は内発的動機がなければ動かないといいますからね。
なお、Gregory And The Hawkというアーティスト名は長くて打つのが疲れるので以降GATHと略します。早速愛情のほどが疑わしくなるムーブをかましてしまいましたがご了承ください。だって疲れるんだもん。

GATHとはなんぞや

そもそもGATHって何?誰?という疑問からお答えしたいと思います。
Gregory And The HawkはMeredith Godreauという女性シンガーソングライターのアーティスト名のようなものです。やくしまるえつことティカ・α、あるいはロリィタノイロォゼと麻観りみゆのようなものと思って頂ければ幸いです。どちらも分からない場合はチェンソーマンとデンジみたいなものと思って下さい。
彼女はアメリカ出身で、今も確かアメリカに在住しています。つまりGATHは洋楽です。バリバリ英語です。この時点でエアスラッシュを喰らったポケモンの如く怯んでしまった方もいるかも知れませんが、ご安心下さい。洋楽なんて基本雰囲気で聴くものです。というと流石に過言ですが、GATHは例に漏れず「そういう聴き方」もできます。それでも十分楽しめます。無論歌詞を考察することもできます。GATHはすべてのパラメータが軒並み高いので、作詞能力も超人的です。何の問題もありません。

音楽性について

百聞は一見に如かず、もとい百見は一聴に如かずということで聴いて頂いた方が早いのですが、一応はじめにGATHの音楽の方向性をざっくらばんに概説したいと思います。
まず、「誰に似てる」でいえば、邦楽であれば相対性理論が一番近いです。というより、かなり近いです。方向性・声色諸々含めて「洋楽版相対性理論」と言ってしまっても大きくは外れないと思います。即ち、相対性理論のファンの方であれば100%ハマると断言できます。というわけで該当する方はこんな所で酔生していないで今すぐYouTubeなりSpotifyなりで聴き漁って下さい。
さて、相対性理論に明るくない人のために、今度は比較を伴わない形でGATHの音楽について説明します。
まず、GATHはそもそも国内外問わずポップシーンで大活躍しているとは言い難いです。弾き語り形式が主なので音圧なんてまるでありませんし、半数以上の曲はベースはおろかドラムさえありません。また曲調もスローテンポなものが多く、「盛り上がり」とはかけ離れています。クラブでGATHを流そうものなら(一部の例外を除き)ほとんどの客が寝静まるでしょう。
GATHは己が声とアコギ(たまにウクレレやピアノ)のみで勝負する、むしろ硬派側の音楽と云えます。これだけ聴くと如何にも逆張りオタクが好みそうなインディーズといった様相ですが、GATHの本質はそこにはありません。
GATHは、相対性理論がそうであるように、徹底的にニュートラルです。無色です。2001年から2022年現在までコンスタントに活動している、インディーズとしては息の長い部類のアーティストですが、その音楽性は開始当初から一切ブレていません。最新の曲と一番古い曲を比較して聴いても年代など分からないほどに形を保っています。
目的はひとつ。英語で云うところのsoothing、即ち「心地よさ」の提供です。音を楽しむと書いて音楽……GATHはある意味では音楽の最も原初の形を保っていると云えるのではないでしょうか。
力技ではなく、優しく撫で付けるような形で「快」を与える。そういう音楽を20年以上、そして100曲以上やってきたのがGATHです。そして完全にニュートラルであるが故にこれといった対象を取りません。老若男女、広く受け入れられるポテンシャルを持っていると言えます。

より深い音楽性の考察

しかし、先程の説明までで考えると、そのような目的でやっているアーティストは星の数ほどいます。では一体GATHの何が他の有象無象と一線を画すのか?
それは彼女の音楽にひそやかに秘められた、一欠片の「絶望」です。
GATHの曲は常に穏やかですが、同時に幽かな「絶望」あるいは「悲哀」「諦観」の気配を遺すことを忘れません。この点も相対性理論と少し類似しているといえます。
例えばWhirlpoolという曲を例にとってみましょう。

(はじめに書いておきますが、この記事を読みながら聴いてもいいですが絶対にスキップしないでください。聴くなら0:00から終了まで等速で最後まで聴いてください。喧しいラーメン屋みたいなまえがきですが、絶対に必要なことなので)
この曲は、序盤および中盤にかけてはとても静かに、そして穏やかに、子供の頃の思い出や今どういう生活になっているか、どんな夢を抱いているかを振り返るように歌いあげます。これがいわばGATHの基盤(ベース)です。これは彼女の音楽の本質であると同時に、本当の本質を支える黒子でもあります。Whirlpoolの終盤、少しずつ音楽に厚みが増していき、曲調が徐々に徐々に深刻に、荘厳になっていきます。そしてCメロに入ります。その歌詞はこれです。

I’m sorry, I feel you
When life gets rough and you’re confused
What you say, what you do,
A whirlpool

「I'm sorry」とは一般的に「ごめん」と訳されますが、sorryという単語の本質は「共感」にあります。
辞書をひくと、sorryには「すまない、気の毒で、残念に思って、遺憾で」等の意味が書かれています。一つ一つはバラバラでも、言葉を並べて見るとなんとなくそのコアが見えてくると思います。ここでのsorryは、共感や同情の念を強く表現するものとなっています。
そしてこの後の「I feel you」。I feel youというのは直訳すると「君のことを感じる」という意味です。これで大凡合っていますが、君の気持ちがわかる、君に共感する、諸々含めて「わかる」ということを意味します。つまり、わかり手です。あえて突っ込んだ意訳をするなら、「君の痛みを理解する」ということです。
では、「I'm sorry, I feel you」とは何を意味するでしょうか?言葉で説明するより、実際に聴いてもらった方が早いと思います。これだけ十分にコンテクストを説明すれば、たとえ英語を解さずとも音楽によって言語の壁を超えて感情がはっきりと伝わってくるはずです

(2回目)

Whirlpoolは2020年に公開された比較的新しい曲ですが、私これを最初に聴いた時……泣いちゃったんですよね……(永田face)。こんなにも、unobtrusiveに人に寄り添ってくれる音楽があるでしょうか?
「共感する」。ただそれだけのことが、人を救う。人生に係る苦痛に必要なのは解決法ではなく、互いの背に寄り添い合うことなのだと、GATHはとても自然なやり方で教えてくれるのです。かつてオスカー・ワイルドという詩人が「Women are meant to be loved, not to be understood(女性とは愛されるために在るのであって、理解されるために在るのではない)」という言葉を残しましたが、人生においても同じことが云えると思います。

ちなみに「When life gets rough and you’re confused /What you say, what you do」とは、雑に訳せば「人生が苦しい事になって、どうすればいいのかわからなくなった時、君なら何を言う?君なら何をする?」という問い掛けです。それはwhirlpool(渦潮)に向けられています。つまり渦潮に擬人法を使っているのです。
これもある種GATHの特徴で、GATHは自然をとてもとても大事にします。どれくらい大事にするかというと、山奥で収録した曲のみで構築されたアルバムを公開するくらいです。

さて、私は他のすべてのGATH曲を同等以上の熱量で語ることが出来ますが、そんな悠長な事をしていたら日が493回くらい暮れるのでさっさと次に行きます。

じゃあどの曲を聴けばいいの?

「GATHが良いってのはわかったけど、具体的にどれを聴けばいいの?」という疑問があると思います。大変よい質問です。
GATHに外れ曲はないのでどれから聴いてもOK、と言いたいところですが、初心者向けのものとそうでないものというものはあります。その辺も踏まえてニーズ別にご紹介します。

完全に知らん人

GATHも知らなければ相対性理論も知らんし、インディーズもそもそもあんまり聴かんし、洋楽とか知らんし、普段髭男とか米津玄師とかしか聴いてません、みたいな人。安心して下さい、まったく問題ありません。あなたのような方に投げつけるアルバムは決まっています。『Moenie and Kitchi』です。間違いありません。

このアルバムは、GATHの全アルバム中最も人気であるのと同時に、最も異色なものでもあります。というのは、このアルバムに限って全曲に渡りバンドサウンドになっているのです。ドラムがあり、ベースがあり、時にはエレキギターすら入ります。むしろこれが本来普通なんですが、GATHは殆どのアルバムでギターと歌声以外の楽器を使わないので異色といえるのです。
しかし、それ故に最も入りやすいです。比較的慣れ親しんだ、むしろポップス寄りのサウンドに包まれつつも、GATHとしてのエッセンスは落とさず大変綺麗にまとまっています。
ということで、本盤はジェネラルにお勧めできるものとなっています。ぶっちゃけ「GATHって何から聴けばいいの?」と言われたら脳死でこれを投げつけてもだいたい問題ありません。入り口としてこれ以上ないほど取っつきやすいです。

ある程度造詣が深い人

「イヤフォンで鳴る割ったmp3 知る人ぞ知る新人インディーズ」的な音楽ライフを送っている方々は、既にある程度の土壌は調っていることでしょう。もうチャートの音楽では満足できなくなった、音楽版玄宗みたいな人にお勧めのアルバムを紹介します。
といっても、ぶっちゃけMoenie and Kitchiから入るのが一番丸いです。それくらい汎用性があります。ロキソニンみたいなものです。ただもっと深くまで潜りたければ、『In Your Dreams』がオススメです。私が個人的に一番好きなアルバムです。


これは前述のMoenie and Kitchiの一つ前のアルバムで、GATHが有識者の間で人気になる礎のひとつとなった作品と云われています[要出典]。
サウンドはギター+歌声のみ&すべて一発録りというザ・GATHという具合の構成。弦のびびる音なんかも敢えてそのまま入れてるとか。
しかし何より、このアルバムに入ってる曲群自体がシンプルにめちゃくちゃいいです。全13曲ですが、全部良い。異常に良い。また、1曲目の第一フレーズからいきなり「kill」という単語が飛び出すという攻めの姿勢も持ち合わせています。個人的にはKill The Turkey, Sweet Winter Hello, Neither Freer, Blame-Quiあたりが特に好きです。全部好きなんですけどね。
特に今は初冬ということで絶好のSweet Winter Hello日和(?)なので、本曲をおすすめしたいですね。


アルバム単位ではないお勧めの仕方

今度はアルバム単位ではなく、バラバラの曲単位で「これだ」という推し曲を上げてみます。結構量があるので、さわりの文で気になったものだけでもいいので聴いて見てほしいです。

Slow Vines

いきなりから超変化球で恐縮なのですが、結局これなんです。
子守唄のような優しさと、不思議な切なさ。ごたくはいらない。聴いて下さい。

My job to put you to sleep
Slip into your breathing on the cusp of a dream
All lives are mysteries
(君を寝かしつけるつもりが
夢の先端に触れて、君の呼吸にいざなわれていく
命って不思議だね)

Sleeping States

初心者には一番オオオッ!となるかもしれません。シンプルにとんでもなく良いです。GATH曲としては割と楽器多めですが、まとまり方がすごい。天才の編曲です。メロディも独特で、この世のどんな曲にも似ていない(大言壮語)と思えるような不思議な動き方をします。何よりコーラスがとても心地よく、本当に寝かしつけられるようです。
この曲に関しては有志が作成したミニMVがあるんですが、めちゃくちゃ出来がいいので一見の価値ありです。

No one ever tries to stay up
Later than they want to
(誰も自分が起きていたいより長く
夜更かししたいとは思わない)

For The Best

これは、すごいですよ。聴いてみてすぐに伝わるかはわかりませんが……すごいっす。形容しがたい。うっすらと聴こえるハーモニカのような音色が不思議な懐かしさと胸を裂くような切なさを呼び起こさせます。
YouTubeにこの曲をカバーしてた方がいて、その動画の概要欄に「I hate the fact Meredith can sing this song while she still smiling.(Meredithがこの曲を微笑みながら歌えることが信じられん)」みたいなことが書いてあって、それがこの曲のすべてだと思います。

If I love you
Like I loved you from a far
(昔のように
あなたを愛すことができたなら)

Stone Wall, Stone Fence(moenie ver)

初聴で一番ガツンときた曲です。これは相対性理論っぽくはないかもしれない。どちらかというとACOっぽい。不気味なんですよね。これこそザ・インディーズって感じ。あえていうならThe Microphonesのかの名盤「the Glow pt. 2」に入ってそうな曲です。

You’ve got a secret but you won’t share it
(あなたは秘密を持っていて それを教えてはくれない)

Get U

比較的新しめの曲ですが、めちゃくちゃいい。五本の指に入るくらい聴いてると思います。とにかく穏やか、穏やか穏やかアンド穏やか。散歩中に聴きたい曲1位です。

I get you and so
I don't hesitate to let you go
(君の気持ちはわかるよ
だから行かせてあげる)

Dream Machine

GATHにしては大変珍しいピアノ曲です。「夢みる機械」が語り部となった奇妙な歌詞ですが、不思議と心地よいです。存在しないはずの子供の頃の記憶を呼び起こされるような感覚に陥ります。

I am a weird machine
Which I'd rather be
(私はへんてこな機械だ
だが そうである方がいい)

Trace Chain

2022年正式公開のホヤホヤな曲です。とにかく中毒性が高い。サビで英単語のスペリングを読み上げる部分があるんですが、そこがもうこの頭から離れない。That the P A S T past so heavy~♪(歌うな)

It’s not the strength I need to keep going
(前に進むために必要なのは強さじゃない)

How To Thank A Friend

「どうやって友達に感謝を伝える?」という不思議なタイトルですが、めっちゃくちゃいいです。(これしか言わん)聴いていてすごく落ち着きます。そして決して優しいだけの歌詞ではないです。この温かさと切なさのバランスがGATHの真髄。

And soft words you weren’t sure you’d say
Never get spoken
(言うべきかわからずにいた優しい言葉は
二度と発せられることはない)

Bearer

GATHにしては異色と云えるほど激しめ(当社比)の曲調です。中盤から曲調が大きく変わるので、そこまでは聴いてみて欲しいです。

I know that nothing is forever
But watch me
I will see if I can try
Don’t stop me
(永遠に続くものなんてないって知ってるけど
どうか見ていて
できるだけのことをやってみるよ
どうか止めないで)

Doubtful

おそらく一番最初にハマったGATH曲です。何と言ってもカッコいい。特に2番コーラス前の伴奏の変容の仕方が最高にクールです。崎山蒼志の「五月雨」のアウトロのsus4の如く会場が沸くでしょう。静かに盛り上がっていく感じがもう……快そのものですよね。

Leave me nothing now
Back on the old road
(もう何も要らないよ
昔の道に戻ろう)

おわりに

GATHの曲の殆どはYouTubeにauto-generatedされたものがあるので、無料で聴くことができます。もちろんSpotifyにもあります。
プレイリストもあるし、作業しながら流し聴くだけでもいいんで、頼むわほんま。
ただ、GATHを聴くのに最も適した環境というのは実はアウトドアです。ここまで聴いてもイマイチ刺さらなかったという人は、騙されたと思って天気の良い日にできるだけ自然あふれた場所を散歩しながら聴いてみてください。世界が変わります。これマジだから。ワザップなんで本当に騙されたと思ってやってみてほしい。

それでは、よい音楽ライフを。

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