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ラジニムルガン 作品トリヴィア/ インディアンムービーウィーク2021

インディアンムービーウィーク2021パート2にて上映のタミル語映画『ラジニムルガン』。予備知識なしでも楽しめる作品ですが、作品理解が深まるトリヴィアを紹介します。

本作の舞台は、インド南部、タミルナードゥ州マドゥライ。

タミル語映画界で、2000年代の後半に起こり、2010年代前半を席巻したニューウェーブ映画。その初期にはタミルナードゥ州南部の都市マドゥライを中心とした地域を舞台に、むき出しの暴力を描いた作品が多くあらわれた。そのことにより、「マドゥライは流血沙汰の絶えない土地」というメージが流布するようになってしまった。

しかし州都チェンナイとは比べ物にならない悠久の歴史を誇る街マドゥライが、暴力が席巻する荒んだだけの土地である訳もなく、2010年代中盤からは、「修羅の国」イメージをひっくり返す楽しい雰囲気の作品も現れるようになった。2016年現地公開の『ラジニムルガン』もそうした作品群の一つ。 参考:現地公開日は2016年1月、センサー通過は2015年末。

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作品タイトルは「ラジニカーント」と「ムルガン」の造語。ラジニカーントは説明するまでもなく、タミル映画界のスーパースター俳優。ムルガン神は古代から崇められてきたタミル地方固有の神。タミル地方がヒンドゥー教化されたのちに、ヒンドゥー教のカールティケーヤという武神と習合し、カールティケーヤ=ムルガンはシヴァ神の次男ということになった(長男はガネーシャ)。シヴァカールティケーヤンの芸名自体がこの父子神の名前を繋げたおめでたいもの。

本作は、カラフルなマドゥライ讃歌を画面いっぱいに繰り広げるだけでなく、題名が示唆する通りラジニカーントの、またそれ以外のスターの人気作品から多数の引用がされている。引用する歌の歌詞によって、その場面のインパクトを高めたり、笑いを誘ったりするのは、インド映画では珍しくない手法であるが、本作の凝り方には執念とさえ思えるものも。以下に元ネタを簡単に紹介していく。

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壺割り競技のシーンに流れるのは、初期のラジニカーントの代表作の一つ『16 Vayathinile』(1977年/ 未)から、♪Autokutti Muthe Ithe。引用元動画の画面に映るのはカマルハーサンとシュリーデーヴィー。

主人公ラジニムルガンとその母とのやり取りのシーンでは、ダヌシュ主演の『無職の大卒』(2014)から♪Amma Amma。

ラジニムルガンと親友のトータートリが占い師に見てもらうシーンでは、『ムトゥ 踊るマハラジャ』(1995年/ 日本公開は1998年)の「偉大なる先代」イメージを拝借。

お茶屋の開店テープカットにやって来るのは、タミル語映画界の大物俳優、ラジニカーント、MGR、カマルハーサンのそっくりさん。ラジニは『バーシャ! 踊る夕陽のビッグボス』(1995年/ 日本公開は2001年)の有名な台詞、MGRは選挙演説での名文句を口にする。こうしたそっくりさん芸人(外見の相似よりも、声帯模写能力が重視される)はタミルではかなりの数が活躍しているという。

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ラジニムルガンが、お茶屋でヒロインの父ニーラカンダンを挑発するシーンでは、ラジニカーント主演の『Rajadhi Raja』(1989年/ 未)から、♪Maamaa Un Ponna Kodu。本作中の別の個所では、この『Rajadhi Raja』の封切りに沸くファンたちの姿も回想に現れる。

続けてシランバラサン(STR)主演の『Vaanam』(2011年/ 未)から、♪Evandi Unna Pethan。

ヒロインのカールティカが夜に一人で思いにふけるシーンでは、『Mella Thirandhadhu Kadhavu』(1986年/ 未)から♪Ooru Sanam。引用元動画の画面に映るのはラーダー。

お茶屋のでの商い開始のお勤めシーンに流れるのは、オムニバス神様映画『Deivam』(1972年/ 未)から、ムルガン神を讃える♪Maruthamalai Mamaniye Murugaiyya。引用元動画の画面に映るのは著名な古典声楽家マドゥライ・ソーマスンダラム。

同じくお茶屋で、ラブソングをかけようとして、うっかり間違えて流れてしまうのは、シヴァージ・ガネーサン主演の『Aalayamani』(1962年/ 未)から、♪Satti Suttathada。「焼きあがった陶器は(焼く前と違い)手にベタベタとくっつくこともない(=我執を捨てた境地)」という哲学的な歌詞。

相棒トータートリの恋のシーンその1では、『シャー・ルク・カーンのDDLJラブゲット大作戦〜花嫁は僕の胸に』(1995年/ 日本公開は1999年)から超有名な♪Tujhe Dekha Toh。

劇中歌「♪湯気がたつ お茶屋の店内」(Aavi Parakkum Teakadai)に挿入されるラジニカーント風の声は、「ニジャームパーック」(Nizam Pakku)というアレカ・ナッツの会社の昔のCMの模倣。同じ歌の後半に挿入される老婦人の声は、「ウッドワーズ・シロップ」(Woodward's Gripe Water)のCMのパロディー。

カールティカに父のニーラカンダンが話をするシーンでテレビに映っているのは、ラジニカーント主演の『Annamalai』(1992年/ 未)。

再びお茶屋のシーンで、ラーマラージャン主演の『Namma Ooru Nayagan』(1988年/ 未)から♪Jannalukku Pakkathula。

ラジニムルガンとトータートリが不動産業に手を染めるシーンでは、ヴィジャイ主演の『Kaththi』(2014年/ 未)の有名な青写真の立体化ネタ。

ラジニムルガンが実の兄弟からつれない仕打ちを受けるシーンでは、シヴァージ・ガネーサン主演の『Pazhani』(1965年/ 未)から、♪Annan Ennada。

カールティカが、ラジニムルガンの祖父アイヤンガライの屋敷で行われる祭事にやってくるシーンでラジオから聞こえてくるのは、ラジニカーント主演の『ダルマドゥライ 踊る!鋼の男』(1991年 ※)から♪Santhaikku Vantha Kili。
※劇場未公開だが、レンタル版DVDが2007年にリリースされている。

相棒トータートリの恋のシーンその2では、アーリヤーとエイミー・ジャクソン主演の『Madrasapattinam』(2010年/ 未)から♪Pookkal Pookkum。インド独立前のマドラス(チェンナイ)で、下層のタミル人青年と英国人令嬢との間に芽ばえた恋の物語。

悪役ムーカンがアイヤンガライの屋敷で行われる祭事に参加しようと大勢を引き連れてやって来るシーンでは、『Kizhakku Cheemayile』(1993年/ 未)から、♪Manoothu Manthayila。引用元動画の画面に映るのはヴィジャヤクマール(アルン・ヴィジャイの父)。初期のA・R・ラフマーンの有名曲のひとつ。

祖父のアイヤンガライが大暴れの最中にふと我に返るシーンでは、『En Rasavin Manasile』(1991年/ 未)から♪Kuyil Paattu。引用元動画の画面に映るのはミーナ。同作の主演は、祖父アイヤンガライを演じているラージキラン。

衝撃のクライマックスに大々的にフィーチャーされるのは、シヴァカールティケーヤン主演の『Varuthapadatha Valibar Sangam』(2013年/ 未)から、♪Varuthapadatha Valibar Sangam。同作は、『ラジニムルガン』主演のシヴァカールティケーヤン、コメディアンのスーリ(トータートリ役)、ポンラーム監督の3人が初めて手を組んでヒットしたコメディー作品。

【作品情報】

ラジニムルガン(原題:Rajinimurugan)

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極楽トンボのハッピー・マドゥライ
南インド、マドゥライの街で毎日を遊び暮らす、のんきな無職青年ラジニムルガンは、大きな屋敷に一人住む祖父アイヤンガライに可愛がられていた。彼には幼少時から決められていた婚約者カールティカがいたが、婚約を取り消したくなった父親によって、彼女は遠い町に送り出されていた。成人してマドゥライに帰郷した彼女を見て惚れ直したラジニムルガンは、あの手この手の求愛を試みる。一方、孫が身を立てるのを助けようと、祖父は屋敷の売却を試みるが、そこに法定相続人を名乗る未知の男が現れて、一族に波紋が広がる。人気俳優シヴァカールティケーヤンとキールティ・スレーシュ(伝説の女優 サーヴィトリ)による、カラフルなロマンチック・コメディ。

監督:ポンラーム
出演 :シヴァカールティケーヤン、キールティ・スレーシュ、ラージキラン、スーリ、サムドラカニ、アチュート・クマール
音楽:D・イマーン
ジャンル:ロマンス / コメディ
映倫区分:G
2016年/タミル語/155分

▼上映情報は、IMW公式サイトにてご確認ください。

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