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高級時計の"品質"とは?

こんにちは!エディです。

時計の精度って誰がどのように定めるのでしょうか?誰がその品質を担保するのでしょうか?
実は時計には「品質規格」が存在して、これらの厳格なものをクリアした数少ない認定機は、大きな付加価値を得られるようになります。

公的機関による品質規格と、各ブランドが自社で行っている規格とあるのでそれぞれ見ていきましょう!

公的機関による品質規格

時計製造において、時代を経るにつれ時刻の正確さはより重要度を増し、それを測る中立的な基準が求められるようになります。公的機関がそれぞれ基準を作成し、製品の精度を検定するという形で発展してきました。そして1965年に国際標準化機構(ISO)でクロノメーター規格が議論され、1976年、ついに現クロノメーター規格が制定。この規格は、認定機が“高精度”であることの認証であり、今なお国際基準として最も大きく、信頼性高いものと認識されています。他にも有名な規格があるので、詳しく下表にまとめてみました。

公的機関による品質規格

各メーカーは公的機関に個体の認証を依頼し、証明を受けて製品の完成を目指します。個人的に面白いなぁと思ったのは、各認定の目的や背景の違いです。クロノメーターはISOが定める”精度基準”に則っていて淡々としている印象ですよね。他規格は精度に加え伝統技術の保護なども目的で、技術継承や審美性などの観点も含まれているのが素晴らしいと思ました。
ただ、いずれもごく一部を対象とした、最高峰の時計を示す品質規格であるのは変わりません。

スイスCOCSによる検査の様子(出典

実際の検査内容ですが、例えば、クロノメーター認定では「時計をこの姿勢に置いて、この温度で何日間放置したときの時間のずれ」を測ります。15日間に渡り、5姿勢を3つの違う温度で設定し、平均日差を-4~+6秒以内に収めることが求められます。このような諸々の基準をクリアすると、認定書が付与され「クロノメーター」と名乗れることが許されるのです。

15日間5姿勢3温度のクロノメーター検定基準(日本時計輸入協会より)
精度の高さを示す認定書(出典

ここでは、主要な規格だけ取り上げましたが、他の規定も存在しますので、興味のある方はぜひ調べてみてください。
・フランスのブザンソン天文台による、フランス唯一のクロノメーター規格
・ドイツのグラスヒュッテ天文台による、ドイツのクロノメーター規格

クロノメーター規格

クロノメーターについてもう少し詳しく見ていきましょう。文字盤に「chronometer」という表記を見たことはありませんか?

出典

これこそが「ムーブメントの精度、即ち時刻の正確性が信頼に足るもの」だと太鼓判を押された個体にのみ許された称号です。ISOによって定められたテストの厳格さゆえ、認定機はきわめて高い精度を誇り、クロノメーター認定は大きな付加価値。では、どういったメーカーがこの認定を取得しているのでしょう?

各ブランドの規格認定数(公式統計より作成、出典

しばらく上記3ブランドが認定機が多いという構図が続いており、例えば、ロレックスやブライトリングは、現行モデル全てをスイスCOCSによるクロノメーター認定機とし、その徹底っぷりがわかります。

数字だけ見ると、大きい数字なので「こんなにも認定機があるのか!」と思うかもしれないですが、実はクロノメーターとして証明される数は、スイス時計生産全体の5%にすぎません。ごく一部の時計に許される、ステータスなのです。

余談ですが、クォーツ時計の認定もあります。ISO規格には機械式の基準しか定められていないものの、COCSは独自にクォーツの検定基準を設けています(通常のクォーツの10倍の精度が求められ、極めて限られたムーブメントだけが対象)。それが故に、年間認定機数も、機械式が約160万個に対し、クォーツは約6万個に留まっています。最も、クォーツの売りはその値段と、そもそもの精度なので、あえてコストのかかる認定をやるメリットが薄いのでしょう。


各メーカーによる品質規格

これまで公的機関による認定をみてきました。

ただ高い技術力を誇るブランドは、外部査定を受けておらず、「自社の品質への目はスイス公認以上だ」と言わんばかりに、独自の試験を設けています。特徴のある3ブランドから見ていきましょう。

各メーカーによる品質規格

クロノメーター認定との違いとしては、①クロノメーター認定はムーブメントのみに対する検査に対し、これらは組み立て後の完成品に対する検査であること、②検査項目の数、そして③検査基準の厳格さがあります。各メーカーが自社でやるようになった経緯、味があって面白いですよね。

読者の方でお詳しい方は、ロレックスやオメガ、他ブランドも独自の基準を設けているのをご存じかと思いますが、また別の機会に。

マスター1000コントロール

一つ深堀りしていきましょう。
ジャガー・ルクルトは「時計メーカーのための時計メーカー」と知られ、その技術力は業界屈指です。時計工程の工具を発明したことや、パテックフィリップや他老舗ブランドにムーブメントを提供していたことはよく知られています。

精度に対する姿勢は、同社の言葉をそのままお借りしたほうが伝わりやすいと思います:

ジャガー・ルクルトのすべてのモデルが厳格な「1000 時間の管理」テストを受けていることで、当社の品質へのこだわりはよく知られています。 この独自のプログラムは、公式のクロノメトリー テストをはるかに上回る社内認定テストを提供します。

このプログラムにはケーシング前後のムーブメントの検査が含まれるほか、時計の組み立て行程、および実際の着用時の諸条件に準じています。品質認証は厳格な基準を満たした後に、各時計の裏側に刻印されます。

JLC公式HPより

元々の始まりは1992年。同社の技術者たちは、当時最も信頼性が高かった、自社製Cal.889を搭載した新型時計の性能を証明するために、厳しい1000時間コントロールテストを導入しました。かつてない厳格な検査に合格した時計は「マスター・コントロール」と名付けられ、その後、ムーンフェイズやクロノグラフなどの機能を追加しても同様のテストを実施。今は全モデルに対して同等の基準を設けて、その技術力を示しています。

ジャガールクルトのムーブメント(出典

おわりに

いかがでしょうか。時計という小さな機械の中に詰め込まれた技術者の熱い想いに、少し近づけたような気がしませんか?

繰り返しになりますが、今回紹介した基準はいずれも非常に厳格で、生産されているごく一部の時計にしか許されない、由緒正しい称号です。ジェネーブシールを例にとっても、1つの時計に1200以上の手作業と1200時間にわたるテスト、600時間の品質検査が行われています。称号が許されるのも一握りの高級メゾンだからこそ、味があるのです。

ぜひ、お持ちの時計の裏を除いてみてください。そこには当時の技術者の高い情熱の証明が、刻まれているかもしれません…



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