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『インクルーシブ教育ハンドブック』刊行から約1年

倉石一郎さん、佐藤貴宣さん、渋谷亮さん、伊藤駿さんと一緒に監訳にたずさわりました『インクルーシブ教育ハンドブック』(ラニ・フロリアン監修)が北大路書房より刊行されて約1年となります。国内の30人以上のインクルーシブ教育に関わる研究者がこの翻訳にたずさわった、まさに大著です。多くの図書館や専門機関に置かれるようになり、普及しつつあると思われます。改めて内容を紹介したいと思います。

黄色く明るいカバーデザインの「ハンドブック」ですが、全然ハンディーではなく、864ページというまさに辞書のような本で、全35章ものインクルーシブ教育に関係のある海外の主要研究者の論考(章)がつまっています。私自身は、5部構成の1部の監訳を担当しましたが、それだけでも非常に勉強になりました。全体として、社会学や障害学、教育学の視点に立った論考が多く、障害のある子どもやマイノリティの子どもの権利保障や教育の状況を批判的に分析し、教育の制度や実践をよりインクルーシブにしていくための示唆をさまざまな観点からもたらしています。

翻訳に関わった章のいろいろな部分が印象に残っていますが、私自身、特に印象に残ったのは、2章の「差異に立ち向かう:特別教育小史」という章です(鈴木伸尚さん翻訳)。19世紀~20世紀まで排除・分離されてきた障害のある子どもの教育の場は、慈善団体による施設のケアから学校教育へ、そして、20世紀の末から今世紀にかけては、インクルージョンという言葉の拡がりとともに、地域の通常学校の内部へと向かっていきました。そうした変化は、通常学校・通常学級というかつては排除的であった場をより「人間化」していくものであったと指摘されていました。

そうした歴史では、優生学など非人間的な思想に阻まれる側面が多くありましたが、歴史を大きな流れでみると、独創的な教育思想や実践、公民権運動などの市民運動の貢献により、一歩ずつ、インクルーシブ教育にいたる道筋が築かれてきたと言えます。

そのほか、社会学的な分析だけではなく、障害者の権利に関する法的な研究、インクルーシブな教育方法や学校づくりに関する実践的な研究も多く含まれています。例えば、第22章「限界なき学び:能力に関する決定論的信念から解放された教授学の構築」とあり(担当外で、全然、読んでいませんが)インクルーシブ教育とはまさに「限界なき学び」であると思っており、このタイトルを見るだけで本当にワクワクします。

高価な本のため個人ではなかなか手に届きにくいかと存じますが、研究室や図書館、団体などでお買い求めいただき、さらに多くの方に読んでいただきたく思います。

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