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プライド?こだわり?厄介な「一番病」 その傾向と対策、そして親の願い





一番病(いちばんびょう) 努力や成長といった曖昧なものより、順位や点数など具体的な事実にこだわる。一位以外ではパニックになることも。学校での試験や部活動などにも影響してしまう。子ども自身がこだわりを自覚していない場合もある。(参照:自閉症スペクトラムの子のソーシャルスキルを育てる本 著:本田秀夫)


現在、4歳5ヶ月の息子。基本的には穏やかで優しい性格であるが、4歳を過ぎた頃から上述したような部分が目立ってきた。息子の中には、「一番=先に、早く、最初に=善、正」といったスピードや順番に重きを置いた認識があるようだった。


その兆候に気付いたきっかけは、暑い夏の登園時だった。同じ園に通う年下の子が前を歩いている息子を見つけて、走って追いかけて来た。お友達は必死に「待って、待って」と走ってくる。私は立ち止まったが、息子はその子から逃げるように先に先に行こうとする。決して、そのお友達が嫌いなわけではない。おそらく、必死に走って追いかけて来るその様子を見て、(とにかく抜かされてはいけない)という順序に対するこだわりと焦りが生まれたのだと思う。当然、お友達は何で先に行っちゃうの?何で手を繋いでくれないの?と混乱してしまう。私はその親子に謝り、息子に競争ではないことを説明し、まずはちゃんと挨拶しなさいと促した。息子は、お友達が自分を抜かす気がない(当然、相手は一緒に登園したくて追いかけて来ただけなのだから、そんな事は露ほども考えてもいなかっただろう)事が分かると、一緒に歩き出した。


あぁ…これは厄介な問題が出てきそうだな、と黄色い通園カバンを背負ったまだ小さな息子の背中を見ながら、さらに小さい娘の手を引いて、私は一人暗澹たる気持ちだった。


そして、その予感はすぐに的中。

「お友達より先に階段を上がりたい」「妹より先に歯磨きをしたい」「ジュースを一番最初に注がれたい」と、競争するような場面でない時にも息子は順序、順番にこだわった。それが叶わなくても癇癪を起こすほどではないが、息子の気持ちは崩れる。(いや、他の誰も競争なんてしてないのよ…ちょっと落ち着いて考えて、その変なこだわりを捨ててくれ…)と私のメンタルも削られる。


子どもならよくあることじゃないの?負けず嫌いも必要な事でしょ?という意見もあるかもしれない。確かに、世の中には勝ち負けにこだわる子はいるし、卓球の福原愛選手や将棋の藤井聡太棋士にしても、幼少期の並外れた負けず嫌いは有名だ。負ければ大粒の涙を流し嗚咽を上げ、周りの人がたじろぐほどに悔しがってきた。彼らのように抜きん出た才能と努力に、勝ちたいという強烈な欲求が掛け合わされば、それはその分野の天才が生まれるだろう。そして、それはおそらく己の不足を自覚する人一倍の謙虚さと共に発せられたものであったはずだ。だからこそ、彼らは誰も追いつけない高みへ駆け上がっていけた。もし息子がそういう意味での執着を見せたのであれば、私もここまで悩まなかっただろう。


でも、一番近くで見てきた母親だからこそ分かる。これはそういう類のものとは違う。そして、放置していれば必ず息子自身を苦しめる大きな要因になり得ると。そこで調べて思い至ったのが、この「一番病」だ。


2歳の頃から数字が大好きだった息子は、数の概念に強いこだわりがある。縛られているといってもいい。対象が何であれ、好きな事があるのは良い事だ。そこを止めるつもりはない。でも、着替えのスピードだの歯磨きの順番だの日常の些細な事でいちいちこだわられてはこちらの身が持たない。そして何より、本人が生き辛い。


当たり前だ。周りの人はなぜ息子がそんな事にこだわるのかたぶん一生理解出来ないだろう。私だって、分からない。これから先、本人がそのギャップを緩和するか、客観視してコントロール出来るようにならなければ、一人で空回りし続けて傷付き、いずれ周囲からは厄介者と見なされ遠ざけられてしまうだろう。そういう未来を、私は防ぎたい。


どれだけ数字が好きでもいい。周囲の状況や相手の気持ちよりもまず先に数の概念が頭に浮かんでしまって、こだわりになりやすいのも仕方ない。だってそういう脳みそなんだもの。ママには全然理解出来ないけれど。でもどうか、好きなら縛られて生きないで欲しい。数にコントロールされるのではなく、もっと自由に仲良くその世界と戯れて欲しい。今の息子を見ていると、好きと依存が混じりに混じって、にっちもさっちもいかなくなってしまった恋人同士を見ているような気分になってくる…(どんな例えだ)


ではこのように一番病の傾向が見られた場合、どうすればいいのか?具体的には、「多様な価値観を、早いうちから教える」ということに尽きるようだ。繰り返し、何度でも、根気強く。


私は、この一番病をとても厄介なものであると考えている。だからこそ、この夏休みの間に療育先に対応を判断してもらい、問題なければ園の先生にも共有しようと考えている。幼稚園には本当にお世話になっているが、やはり集団生活の中では、「早くお着替えが出来た」「一番にお片付けが出来た」など、早さを褒められる場面がかなり多いと推測する。勿論大事なスキルではあるが、息子のような特性を持つ子は経験則から、それが唯一の解であると思い込みやすい。だから親だけでなく、周囲の大人も巻き込んで、「価値観の多様性」というものを幼いうちから教えておく必要がある。


口で言うほど簡単な事ではないだろう。定型児が周囲との関わりや経験の中で自然と身に付けていく(であろう)ものを、本人にしか分からないこだわりをほぐしながら、一から十まで、手取り足取り教えていかなくてはならないのだから。親も長期戦を覚悟して臨まなければならない。頼れるのは己の根気とリポ○タンDだけ。もしかしたら、命の○もデビューすることになるかもしれない。


でも多様性を知り、獲得出来たソーシャルスキルは、いずれ必ず、息子の生き辛さを和らげてくれるはずだ。私はそう信じている。


そして、何よりそれを願っている。

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