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⑥トレーサビリティ

 日産自動車、神戸製鋼所等製造メーカーの相次ぐ品質管理のトラブルで、日本のもの造りの信頼が揺らいでいます。そこで脚光を浴びているのがトレーサビリティ(traceability)です。「追跡可能性」、「すでにある物をなぞり(トレースする)こと」と言われています。
 今回は製造現場での些細(ささい)な過ちが、深刻な問題に発展してしまった。その最たる要因が「製品一つひとつ(個体)を識別できるトレーサビリティ」の不備にあった。
 出荷した製品に何か不具合が生じたとき、製造過程のどこでどんな問題があったのかを遡(さかのぼ)ることができる仕組みで、具体的には「処理の履歴」「材料および部品の源」など追跡可能な状態を言います。現在は、ネジを始めとする部品一つごとに、個体管理してトレースすることが可能と言われています。
 トヨタは、「かんばん方式」という独創的な生産管理方式が、品質管理、生産性の向上につながったと言われています。生産管理の工程にツール(道具)として、製品名、品番など、製品に関する情報が記載されている管理用のボードを使用、これをトヨタでは「かんばん」と称したことから、「かんばん方式」と呼ばれるようになりました。その「かんばん」を誰が見ても分かるように(可視化)することにより、トラブルが発生した時には、どこで不具合があったのか検証でき、対策を講じることが出来ます。各工程での改善にも繋がったことは言うまでもありません。また、どの工程で何が必要なのかがクリアになるため、無駄な在庫を無くすことにもつながり、海外では「Just in Time」方式とも言われています。
 現在我々が取り組んでいる業務も、請求書を受け取ってから納品、支払完了までの工程はパターン化しています。各人が、時間がある時に自分が行うプロセスをまず棚卸して、整理、体系化してみたらいかがでしょうか。
例えば、
〇現在は請求書を受領する前に、パソコン画面上でPDFデータで内容を見て請求内容を把握した上で、作業を進めているかと思います。
・チェックリストを先に取り掛かるのか、明細詳細一覧表の作成に取り掛かるのか?
・チェックリストの「Ⅰご請求さまの情報」「Ⅱご請求金額」まで進めてから、明細詳細一覧表とか「簡単くん」作成に取り掛かる方もいるでしょう。
・チェックリストもページ順に作業する方法もあれば、その方法だとシステム確認が基礎情報画面、審査画面を行ったり来たりするのでチェックリストの順に敢えてしない作業方法も考えられます。
 また、審査ツールもその都度、ダウンロードするのか、使用するツールは予め分かっているので最初にまとめてダウンロードしておき、センターファイル化しておくのか?
 例えば、文字化け判定ツール、地公体コード一覧、エリア判定ツール、ADRお支払NGリスト、ネガポジリスト、基準値一覧・・・
・問歴のチェックのタイミングはいつ?その内容が輻輳し多い場合、コピーしてデスクトップ上に一時保管しておくのか?手書きメモを作成するのか?
・過去請求内容の把握は、いつのタイミングでどう把握し、情報整理しておくのか?
・「N1」の場合、申し送り事項に目を通し情報整理するのはいつのタイミングか?
・「A9」の場合、過去請求でも同じ担当者だったとしたら、請求書の内容からどういった性格、性分なのか推測し分析してみる。
・また、地公体としての特徴、傾向があるのか分析してみる。
〇上記の情報を、いかに整理するのか?
 ノートに手書きでまとめるのか、デスクトップ上にメモとしてまとめ残しておくのか?
〇次に、作業手順でポイントとなるのは
①受領時に請求書の枚数をカウントして受付当初の枚数と相違ないか確認する。
②請求書に破損等が無いか確認、次に内容を大まかに把握する。
③請求内容によっては、基準DB等により基本的事項を把握チェックする必要がありますが、基準DBと照合した方が良いとどう判断しアクセスしているのでしょうか?
④審コメ記述内容を、どのようにまとめるのか?その都度、書き込んでいく方法、チェックリストに付箋を貼っておき最後にまとめて書き込む方法、テキストメモやword等に書き込んでおき最後に審コメにコピペする方法等、多々あるかと思います。

以上のような業務プロセスを洗い出し、そのプロセスをパターン化しルーティン化して進めたいものです。その都度、思いつきのように取り組むと前述のようにトレース出来ないことが多々あるはずです。それぞれ自分に合った方法、手順で進める方法で良いと思っています。また周囲の人と方法等意見交換して最善の方法を見出そうとするのも問題ありません。全てにおいて、周囲の人と情報交換し照らし合わせるにしても自分の考えや手法がないと擦り合わせもできません。品質管理、生産性の向上に向けて、業務管理方式やトレーサビリティを意識したいものです。
 私の臨席は、以前在籍していた平山(仮称)さんでした。ご存知の通り、少し個性的な方でしたが、隣で私が感じたのは素晴らしく潜在能力の高い方ではあるが、仕事の進め方、仕方を知らないなあということでした。
 手元に請求書が届くと一心不乱に作業に取り掛かろうとします。どうして急いで作業を進めるの?と聞くと、答えは「そうするように言われ指示があったから」
 騙されたと思って、ざあっとで良いから請求内容を最後まで見てみませんかとお願いしたら、彼は「言われればやりますけど、ざあっと見たって意味ないじゃないですか、何の意味があるんですか?作業が遅くなっていいんですね?」と、いぶかし気です。私からは「自分のビジネス経験上、全体像を把握して大局観を養うことが、細かい事象を判断するときに役立つと思っている」と話しをしました。
 それからは彼は急いで作業に取り掛からず、まず全体的に見ていましたが、何か口ごもっていたので本音は、しばらく納得していなかったようです。毎回、請求概要をざあっと見た頃合いに声をかけ、「今回の請求ポイントは何で、どういった作業手順が良いですか?」と聞くようにしました。私の狙いは、彼のこれまでの作業手順が思いつきのように取り掛かっていると思ったからです。本人は決まった手順通りに進めていると認識していますが、私には内容を把握した上での戦略的な思考が無いように感じられたからです。作業手順を考え、効率の良い方法を考えてもらうためでした。何故なら、その請求内容を分析し対応を考えまとめるのは、誰か別の人に交代しない限り彼しかいないわけですから。
 繰り返し、請求内容のポイントや作業手順を聞くようにしました。彼が黙々と作業している途中で時々「今どのあたりをやっていますか?」と聞くと「急に聞かれても答えられません。必要なら答えます。」というので、お願いしますと伝えたら30分から1時間くらいかかることがありました。
 また、私が「これどうしてこんな判断したんですか?」と聞くと、即答できず時間がかかりました。わざと聞いてみることも何回もありました。「自分が担当した業務は、説明できるようにしておきましょう」と彼には失礼ながら繰り返しコメントしました。
 ある時を境に、ガラッと変わりました。上記の質問をしても、サッと答えます。聞いてもいないのに、ポイントはココとココで、自分はこう判断したが、別の判断をするとしたら、こんな理屈づけができると思うと説明してくれるんです。
 思わず「凄いよ!パーフェクトだよ!」と彼には伝えました。
 既にお判りだと思いますが、彼自身で工程管理ができ、トレーサビリティが可能なレベルになっていると言えます。

トレーサビリティを行うメリットは、3つあると思います。
(1)業務の一気通貫の仕組みを作ることができる。
   ・・・仕事の全体像を把握することが可能になる。
(2)仕事の優先順位をつけることができる。
   ・・・突発的なトラブルに対処できるようになる。
(3)業務改善のポイントが明確になる。
   ・・・改善により効率性、生産性の向上につながる。
また、自分が勘違いやミスが多いポイントも把握できるはずです。該当するチェックリストのページに、そのポイントを書き込みファイリングしておく方法もあるかと思います。ノートに、ポイントをメモっておく方法等、それぞれ工夫は出来ると思います。

コミットメント&アカウンタビリティ
さらに彼は、コミットメント(commitment)やアカウンタビリティ(accountability)も出来ています。
コミットメント(commitment):関わった事には責任をもつ。
アカウンタビリティ(accountability):関わったからには説明できるように。
この2つの言葉は、経営者や経営幹部に通常求められることですが、カルロス・ゴーンが日産自動車社長に就任して社員にも求め、意識改革を図ったと言われています。確かに仕事をするからには、求められてもおかしくありません。彼がステップアップしたプロセスを、逆に彼の頭の中をトレースしたら、他の人にも応用できるはずだと考えましたが、残念ながらもう在籍していません。
 組織的に事故、ミスが発生する時は、組織・個人のリズムが整っていない状況が多いと言われます。私自身、日頃より痛感しており重要なポイントと思っています。

仕事のリズム
 朝起きてから、仕事のスタート時点からリズムが狂っていると感じた時は、やはり警戒しますし、そうならないよう心掛けます。目には見えないリズムですが、感じるものあり、感じなければいけないと認識し行動しているつもりです。
 イチローを見ても、ルーティン・ワークを大切にしリズムを整えているようにも感じています。私は、以前より肝に銘じて仕事に取り組んでいる言葉があります。
『素人は本番で頑張ろうとするが、プロは準備に余念がない』