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趣味は「映画と読書と音楽」と言っても良いですか? vol.262 映画 ターセム・シン「セルフレス 覚醒した記憶」

こんにちは、カメラマンの稲垣です。

今日は映画 ターセム・シンの「セルフレス 覚醒した記憶」(2015/米)についてです。


あの「ザ・セル」や「落下の王国」などの作品を作った映像の魔術師のターセム・シン監督の作品。

彼の作品だから、それはマジックのような凄い映像だろうと思って観たら、意外に普通のSFでした。

まあSFとしてはよくある話なんですが、多分普通の監督ならなかなか頑張ったかなと思ってしまいます。

でもあの天才ターセム・シンです!

例えばフィンチャーやスピルバーグや宮崎駿やイーストウッドやコーエンやタランティーノやラースフォントリアーやクリストファーノーランやテレンスマリックやリドリースコットが普通の映画を作ったらおかしいです!

天才は天才的な作品を作らなくてはいけない、それは義務のようなものです。

もちろん天才なので失敗作はありますが、

凡庸な作品はちょっといただけません。

インタビューを読むと世界的なデザイナー石岡瑛子さんが衣装を担当しており、彼女が亡くなったので、現実的な話を選んだと言っている。

まああの石岡さんの衣装がなければ不思議で美しい世界観を作るのは難しいかもしれませんね。

だからSFだけどちょっと現実に近い話。

その気持ちはわかるけど、ビジュアルや衣装がなくても、もう少し突飛な物語が作れたのではと思ってしまいます。

お金持ちで病気で余命間もない老人が、研究者が提案したクローン人間に自分の意識を移植する手術をする。
若い体を手にしたが、何やら変な記憶が頭の中にある。果たしてあの移植はちゃんと行われたのだろうかという話。

脳移植やクローン人間ってSFではあまりにも普通でベタな話です。

そして現実に近い話なので、映像までも普通になってしまっている。

天才は”普通”な作品を作るのは罪ですよ。



物語は、主人公はニューヨークを作ったと言われる大富豪で著名な建築家、だがガンで余命半年と言われてしまう。

そこで遺伝子操作で作ったクローンの若い体に自分の脳の記憶を移す技術を持った会社に全財産をかけて頼み込む。

そして寿命が尽きた時、その転送手術は無事に終わり、若い肉体を手に入れる。

記憶は大富豪の時のまま。彼は人生をもう一度謳歌する。

だがたまに記憶の障害現れ、変な記憶を思い出すようになる。

調べていくと、彼の肉体はクローンではなく妻と子供のいる特殊部隊の兵士だった。

真実を知ると、その手術をした会社から命を狙われるようになる。

大富豪で建築家の時の頭脳と、特殊部隊の兵士だった肉体を使って一人戦いを始める。



あまりにもSFでよく見る展開。

現実路線で映画を作っていこうというのはわかりますが、なぜここまでベタなんですか!

そしてあの映像まで普通になってしまった。

確かに普通の監督がこの作品を作ったら、まあまあ面白いねまあまあ映像良いねで終わってしまう。

お金持ちの建築家が(若い男に脳移植されている)、仲が悪くなっている娘と関係性を修復していくシーンは、家族の問題を入れていくのはアメリカ映画ではこれもベーシックだ。

もしかして今まで幻想的な魔法のような映像美を作ってきたが、

インド人であるターセム・シン監督は、あえてベーシックなアメリカ映画を作りたかったのでしょうか。

普通の映画を作ってみせるというターセム・シンの挑戦なのでしょうか。

ビジュアルを担ってきた石岡瑛子さんがいなくなったことからの、監督の独り立ち。

リドリースコットがギーガーの不気味なデザインがあったからこそ「エイリアン」をより良い作品にできたように。

デザイナーからビジュアルや世界観を作ってもらえるのはすごく大事なのですね。

ターセム・シンにとって石岡瑛子さんはビジュアルにおいてものすごく重要だったのですね。
デビューからずっと、「ザ・セル」 、「落下の王国」 、「インモータルズ -神々の戦い-」、「白雪姫と鏡の女王」 、四作も一緒だ。

デザイナーがいなくなっても、あの世界観は出せないかもしれませんが、リドリースコットのようにまた良い映画は作れます。

ターセム・シンの今後に期待します。

普通の映画は作れる。次こそはぜひ傑作を作ってください。

今日はここまで。


「彼女の死で選ぶ題材が変わったと思う。完璧に独創的なデザインが求められる題材は、今は探していないんだ。将来的にはやるかもしれないけど……。ちょうど今、ファンタジー的なドラマ(「オズの魔法使い」を題材にしたテレビドラマ「エメラルド・シティ(原題) / Emerald City」)を撮影しているし、それを楽しんではいるけど、瑛子の代わりになる人はいない。だから選ぶプロジェクトが変わったよ。今回もすごくファンタスティカルな見た目の作品は選ばなかった」
/ターセム・シン