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趣味は「映画と読書と音楽」と言っても良いですか? vol.266 読書 飴村行「粘膜兄弟」

こんにちは、カメラマンの稲垣です。

今日は読書 飴村行さんの「粘膜兄弟」についてです。


粘膜シリーズの第三弾。このシリーズエログロな過激な描写が売りの本だが、段々慣れてきて好きになってきた自分に驚く。絶対子供には読ませたくないが、自分は密かにw

第一弾は「粘着人間」巨漢の弟と河童の話。第二弾は「粘着蜥蜴」戦場に行った男と医者の息子と蜥蜴人間の話

今作は兄弟の話。世界観は今までと同じ戦中の不穏な感じ。今まで以上に戦場の話がクローズアップされている。あまりにも理不尽でひどい日本陸軍の戦場の描写。
ある意味戦争小説や反戦小説とも言える。
そしてもう一つのテーマは愛です。
エログロの粘着シリーズで愛なんて驚きですが、エロじゃなくて純愛なんです。

驚きと衝撃は粘着人間、ストーリー展開と蜥蜴人間の妙は粘着蜥蜴。

今回は戦争と純愛がテーマ。

いや〜もう完全に粘着シリーズの世界にハマっております。



物語は、時代は戦時中の日本、不穏な空気が漂っている世の中。

人里離れた場所に二人の双子の兄弟は住んでいた。

麿太吉と矢太吉。

フグリ豚という特殊な豚を飼う養豚業者。

豚の飼育はヘモやんという豚しか愛せない変人の老人がやっていた。

毎晩豚と◯◯している本物の変態だが、その豚のエキスからすごい薬まで作る
豚の天才だった。

麿太吉と矢太吉の二人は駅前のカフェで働くゆず子が好きで何回もカフェに通っているが、全く相手にされない。

ゆず子は美人で愛嬌があり、お店でも人気の女中だった。

何度も振られ続けていたある日、なぜか食事デートに行けることになった。

最初は弟の矢太吉がデートするが大失敗をしてしまう、

その後をつけていた兄の麿太吉はヤクザからゆず子を助け、仲良くなる。

ただ矢太吉には二人が愛し合っていることは内緒にしていた。

その矢太吉はなぜか肝心の時、金縛りに遭い、時空から黒い男が出てきて暴力を振るわれる体質だった。

この変わった現象はこの物語の中で何度かある。

ヤクザとの戦いの後、二人に召集令状が届く。
麿太吉はどんなことがあっても必ず生きて帰ってくると誓う。

話は太平洋戦争の真っ只中、二人は日本軍に召集され輸送船に乗って東南アジアへ。

途中でその船も魚雷で沈没するが、兄弟たちは仲間を見殺ししながら救命艇で脱出する。

他の軍隊に組み込まれナムールに到着すると、軍事基地内で上官からあまりにも酷いいじめや折檻にあう。人間扱いされず動物以下の扱い。

二人は上官の泥だらけの靴を舐めながら復讐を誓う。

ある日ゲリラが襲撃してきて、基地が全滅する寸前に二人は敵前逃亡をする。

逃亡しながら道で大破したトラックに基地の司令官とその愛人が乗っていて司令官が死んでいて愛人は瀕死の状態。

その死ぬ寸前の愛人を◯◯して、司令官の服を奪い港へ向かう。

途中、軍曹に見つかり処刑されそうな瞬間、ジャングルの蠍が軍曹たちを殺したり、

ゲリラに捕まり、残酷な拷問(目玉をくり抜かれる)をされ寸前で逆襲して脱出する。

ジャングルを蜥蜴人間の子供に案内させ無事に港まで辿り着く。

蜥蜴人間の子供も連れて病院船に乗って脱出する。

日本へ無事に帰ってきて、ゆず子とヘモやんと再会する。

矢太吉はここで初めて麿太吉とゆず子が愛し合っていることを知りショックを受けて家を出る。

麿太吉とゆず子の幸せな生活が始まるが、また矢太吉が帰ってくる。

ある日戦場で一緒だったヤクザの子分が、自分のたちが逃亡兵ということをバラされなかったなら決闘しろと申し込んできる。

ヤクザの子分との戦いも、蜥蜴人間の子供のお陰で二人は助かる。

ほんの僅かな平穏の日、新聞に二人の父親を騙した人間が近くまできていることを知るが、兄の麿太吉は自分達が逃亡兵ということがバレたら大変なことになると、復讐に燃える弟の矢太吉を止める。

しかし弟はその詐欺の男を殺し、新聞沙汰になり、どうしようもなくなり
麿太吉とゆず子の家に来る。

二人を縄で縛り、ゆず子のことが好きだったと、死ぬ前に好きなことをさせろと脅してくる。

二人の決着はどうなるのでしょうか。

矢太吉を襲う謎の黒い男の正体は・・・。



結構冒険談でもあります。特に第二章の太平洋戦争の話は。

飴村行さんの粘着シリーズは結構この太平洋戦争の日本軍の戦争の様子を
徹底的に描くのが一つのベースになっていますね。

日本の戦争小説って、もう悲惨で、理不尽で、二度と戦争は犯してはならないと言う反戦のメッセージがもちろん大事ですがあまり読みたくなく避けていました。

このようなホラー小説というエンターテインメントの世界で読めば、この酷い状態の世界こそ、物語が生まれるような気がします。

そしてなんでもありの世界が!

今回は戦争シーンが重厚で凄かったですが、それでもやはりブラックなジョークとして、豚しか愛せない変態老人ヘモやんのキャラクターが最高でした。

粘着シリーズには毎回こういうキャラクターが出てきて楽しませてくれます。
河童や蜥蜴人間や豚を愛する老人。

この異界の者たちが、物語を破壊し、また主人公たちを助けてくれる存在にもなります。

飴村さんはそういう異質なものにとても興味があるのでしょうか。

ある意味、それは悪魔でもあり神でもありますが。

今日はここまで。



ゆず子は麿太吉に「戦地で絶対生き抜け」と書いていた。そしてその為には、帝国軍人の最大タブーである「敵前逃亡」も「捕虜」になることも決して厭うなと断言していた。この愛する者を必ず生還させたいという執念の裏には、戦争などどうでもいいというゆず子の本音が露呈していた。今は戦時下だった。それも米英蘭を相手にしての世界大戦を行っていた。戦争とは歴史そのものだった。戦争によって歴史が動き、その都度世界地図が塗り替えられてきた。そして今この瞬間日本の歴史が巨大な地響きを立てて大きく動いていた。その国家の存亡に直結する戦争より一個人の恋愛感情を優先するゆず子の価値観に対し、呆れるのを通り越して空恐ろしいものを感じた。同時にこれが「女」なのか、とも麿太吉は思った。
/P.156 「粘膜兄弟」より











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