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教えない先生による中学理科クラス③ 「真冬にテラリウムを作る - その2」

(1) まずは植物探し。

時は如月、外には生命の息吹きを感じさせない白銀の世界が広がっています。「そこらへんに生えてる植物で大丈夫よぉん。」と先生は無責任におっしゃていたらしいけれど、どこらへんを見回しても葉を落とした樹木が静かに佇んでいるだけ、生命活動の気配が感じられない氷点下の街。

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どう考えてもこんな季節にやるべき課題ではない。敢えて季節外れに出されたこの課題は先生からの挑戦状なのか、はたまた彼の単なる無計画性ゆえなのか、120%後者だと確信しつつも、全力で取り組むのでした。

一応近所をウロウロしてみるも、積もっている雪の丈がイメージしている植物の丈を圧倒的に凌駕、雪面から顔を出している段階でその植物はサイズオーバー。さりとて雪を掘り起こそうにも、どこもかしこも雪なので狙い所がよくわからない。

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自然の摂理と対峙し為す術もなく、人工的環境で育てられた植物と暖を求め、近くの韓国系スーパーへ移動。

そこには緑々とした植物達の姿が。いや、厳密には「野菜」と呼ぶべきであろう生命達。ニラ、青梗菜、中国菜心、カイラン(中国ブロッコリー)などが山済みになっている。でも植物達に期待するのは味でなく、小さなテラリウム内で生き続けてもらうこと。庭に家庭菜園が作りたい訳ですらない。

そこで、とりえずは根の付いている植物(野菜)探し。野菜の下半身ばかりに注目する親子。「このワケギ、根っこが付いてる!」「玉ねぎのお尻にも根みたいなヒゲがある!」葉付き大根を持ち出して「これって根っこだよね?」etc.  根にとらわれ過ぎて視野狭窄に陥る。ちょっと引きで見回して見ると、やはりスーパー野菜売り場にはテラリウム不適合植物しかいない。

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(2) 一旦植物は保留にして、容器探し。

雪道を学校まで子供が運ぶことを考えると、水槽的サイズ感では厳しく、小ぶり過ぎると入れられる植物が限られる。また、ある程度クチが広い瓶を選ばないと、ボトルシップ職人のような超絶技術が必要となりそう。

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そこでイメージしたのは、自宅で梅酒を作るときに使う瓶くらいの容器。「青梅と角砂糖とあの入れ物、梅の季節になるとスーパーにいっぱい並んでたよねぇ。」と日本の情景を懐かしみながら、とりあえずスーパーを進む。
野菜売り場のコーナーを曲がったところで、
いきなりキターーー!! 
イメージに限りなく近い容器。でも、中身がギュウギュウに詰まってた状態で売られている。。。

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キムチ炒飯、豚キムチ、キムチチゲ、キムチ鍋でヘビロテを組んだとしても、舌が痺れるほど酸っぱくなるまで頑張り続けても、食べ切る気がしない量のキムチ。そして「テラリウム内を循環する水がキムチ臭になって、植物が死んじゃうと思う」と言う娘。確かに、洗っても洗っても容器に匂いが残りそうな爆量キムチ。これは断念。

(3) ついに初出費。

日を改めて大型スーパーWalmart(ウォールマート)へ。ここで結局大きめのクッキージャーを購入。

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「網」もここで調達しようと、網戸用のスクリーンの切り売りを狙うも、今は厳冬、取り扱いなし。調理具コーナーで料理用ザル、油はねガードなどを手に取るも、金属カッターがないと加工が難しい。
そこで、裁縫コーナーで見つけたクロスステッチ用プラスチックキャンバスに決定。

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(4) 翌日は石探し。

寸胴鍋を持ってオンタリオ湖畔へ向かう。湖面の薄氷を大きな石で砕き割り、水辺の小石を手早く収集。屋外の水仕事は厳しい。

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テキパキと終え、鍋を抱えて急いで帰宅。綺麗に洗う。

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(5) 活性炭は手に入れにくいらしい。

先生曰く、高価でもあるとのこと。「彼が『まとめ買いをして配布できるかも』とは言ってた」と言う娘。教材購入予算は基本ほとんどない先生方、もちろん先生が自腹で購入するという意味。
「あの先生、言っていることアテにならないの。」「活性炭代わりに苔を土に敷きつめられれば、水の浄化効果はあるらしい。」と、低予算と納期厳守をKPIとする娘は自分で苔を探すことに。

「もし活性炭が買えなかったら、アタシが校舎の屋根に登って苔を採ってくるわ!」と唐突な男気発言も飛び出したとか。舎屋に苔があるかどうかも確認せず、ツララの垂れる凍った屋根に登る危険も省みず、テキトーな口約束を生徒にしたらしいオネエ先生。「彼はそう言ってるだけで、絶対生徒の苔ために校舎になんて登らないから。」と、娘ははなから期待値ゼロ。

(6) そして苔を探す。

雪深い冬にこれまた厳しい。苔生す神社仏閣がある訳でもない北米の街の、どこへ行けば苔が生息しているのか、パッとイメージすることができない。

「あっ、サリーのおうちならありそうじゃない?!」と娘。お隣りに住む92歳一人暮らしの粋なお婆ちゃん、サリー。90年前にイタリアから移住して以来、ずっとここにお住まいとのこと。垣根越しに多めに作ったパスタを下さったり、「ジャムの蓋が開けられないの」と電話をもらえば、繋がっている裏庭から開けに行きと、持ちつ持たれつ仲良くさせていただいているお隣さん。そしてかなり年期の入ったご自宅にはツタも這い、確かに全体的に苔生した印象。

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早速スノーブーツに履き替え、サリー邸裏庭を物色する娘。しばらくすると外から「獲ったどーーー!!」という歓声が。我が家との垣根の下に、雪まみれの苔が生息していました。多めに採取、綺麗に洗ってジップロック保管。

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(7) 最後に植物、結局買う。

闇雲に街を彷徨いてもスーパーへ行っても見つからなかった植物。真冬だから止むを得んと、女店主の趣味が観葉植物栽培だと思われる、独特なカオス感を放つ独立系コンビニへ。様々な種類のラン、サボテン、多肉植物など、おばちゃんが手塩にかけて育てている感じの植物と売り物の植物が、明確な線引きなく所狭しと混在しています。

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行く前に調べておいた、テラリウムに適した植物をその中から見繕い、低温に強くない多肉植物が凍死しないよう、大事に抱き抱えて足早に帰宅。

(8) 役者は揃った。

あとはこれらをクッキージャーへ順番に詰めていくだけ。このクチの広さでも意外と手こずる。菜箸マスト。全体のバランスを見て植物を配置し、完成!

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直径20cm程度のクッキージャーに必要な苔や植物を見つけるだけでも、かなりの苦労と経費が発生したことを実感した娘。同時に、グループで水槽に挑むやる気のないクラスメート達には無理ゲーだろうと察した様子。何やら余った苔や網、石を個別に袋詰めし、2−3ドルの値札をそれぞれに付けている。

(9) 収支を合わせようとする。

完成したテラリウムを持って登校してみると、案の定ほぼ手付かずのまま休みを過ごしていた子ばかり。そして想定通り、先生は活性炭も苔も手に入れておらず。
活性炭も苔もなく、切羽詰まるクラスメート達に余った材料を見せたところ、「飛ぶようにサリー苔が売れた」とご満悦で帰宅。収支トントンとは行きませんでしたが、結果、総額10ドルくらいでこのプロジェクトを終えることができました。

(10) 納期に完成品を提出する。

こうして極寒のスト休校中もあちこち動き回り、労働集約的にテラリウムを製作した娘。容器内の水分量も自宅で安定させてから密閉し、バシッと提出。水槽グループの作品よりもコンパクトで動かしやすいことも手伝い、これは理科室の棚の上に祀られているそうです。
Mission Accomplished(ミッション完了)!!

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