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大人になれば 28『季節・肉球・自己責任』

冬です。
でも日が長くなりました。
今日は夕方の空がとてもきれいで。

藍や紺や茜や白や鼠や夜があわあわといくつもの層になって。黒々とした山のシルエットが空にきりりと線を引いて。
とてもきれいだった。
季節が巡りますね。

ぼく あ、ねこ先生。
ねこ にゃんだ。
ぼく どしたの。きょろきょろして。
ねこ 肉球しらんか。
ぼく え。どしたの。
ねこ 落とした。
ぼく え!落ちるの!あれ!
ねこ たまにな。
ぼく えー、ぜんぜん知らなかった。
ねこ 外して遊んでたらぽろっとな。その辺にないか。
ぼく えー、ちょっとほしいな。
ねこ 取るなよ。
ぼく 見つけたら一割ちょうだいね。
ねこ 八代先まで祟ってやる。
ぼく こわいなー。
ねこ ねこなめんな。
ぼく なめてないけどさあ。(きょろきょろ探す)
ねこ (顔をあらう)
ぼく ちょっと自分も探してよ。
ねこ (顔をあらう)
ぼく あ。
ねこ あったか。
ぼく ないけど。
ねこ フーッ!
ぼく いやいや、あのね。
ねこ なんだ。
ぼく 自己責任って言葉があるじゃん。
ねこ 最近よく聞くな。
ぼく これも自己責任かしら。
ねこ 肉球のことか。
ぼく そうそう。
ねこ 知らん。
ぼく ぼく、あの言葉を聞く度に気持ち悪いんですよ。なんか、裸の王様の取り巻きみたいで。
ねこ 聞かなきゃいいじゃないか。
ぼく そうだけど耳に入るじゃん。なんかいつの間にかコンセンサス取れたかのように使うしさ。
ねこ 相変わらずうだうだとめんどくさいな。
ぼく だってさー。
ねこ まあ、肉球おとしたのは自分だからな。
ぼく 自己責任ね。
ねこ と、お前が言うのか。
ぼく え。言わないよ。そんなこと。
ねこ なんでだ。
ぼく え。なんでだろう。ねこ先生だから…かな?たぶん。
ねこ 家族だったら言うのか。
ぼく え。言うわけないじゃん。
ねこ じゃあ、なんでニュースで毎日言ってるんだ。
ぼく え。家族じゃない、から?社会、だから?
ねこ 社会だったら言うのに、家族だったら何で言わないんだ。
ぼく えー。だってそんなの言うわけないじゃん。助けたいじゃん。
ねこ ふん。
ぼく あ、そういうこと。
ねこ 知らん。肉球あったか。
ぼく 自分で探せばいいじゃんー。
ねこ (顔をあらう)
ぼく 自分が落としたんじゃんー。(きょろきょろ探す)
ねこ あ。
ぼく なに。
ねこ なんでもない。
ぼく ちょっと。いま隠したでしょ!
ねこ そんなことしない。
ぼく ちょっと!
ねこ (こたつにもぐる)


執筆:2015年1月30日

『大人になれば』について
このコラムは長野市ライブハウス『ネオンホール』のWebサイトで連載された『大人になれば』を再掲載しています。


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