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書皮を死守したのは

たまたま中学生時代のことを思い出したその続き。

休み時間は仲良しの友達とおしゃべりしていたか、寸暇を惜しんで読書していたかだ。読みたい本は友達と全く違っていたけれど、彼女も読書好きだったので、本を読んでいる時間が多かった思い出がある。私が寸暇を惜しんだ理由、それは主人公がピンチに陥っているケースが多々あり、一刻も早く救出したかったのだ。

中学2年の時、ホームルームで、本を読む時「書皮を付けずに本を読め」的なことが議題にあがった。書皮は本を買った時に本屋さんが掛けてくれる紙カバーのこと。実は校内で若年向けのポルノ小説が流行していたらしい。らしいというのは、私がその実物を見ていないから。本を読むときは、読んでいる本を明らかにせよ、というのだ。

冗談じゃない! 書皮をかけてない本なんて、裸で学校に来るのと同じくらい恥ずかしい感覚。図書室で借りた本ならまだしも、自分所有の本が汚れるのは絶対に嫌だったので、書皮をかけない本には断固反対だった。ホームルームで、本を読みそうにない勝手なことを言う奴ら(男子も女子も)とメチャメチャ闘いまくって、なんとか書皮を死守した。

その翌日、休み時間に本を読んでいると、グループになっていた男子の一人がニヤニヤしながら近づいて来て、何を読んでいるのか尋ねて来た。その日読んでいた本の書皮が近所の本屋さんのものではなく、隣町の大型書店の書皮だった。実は流行していたポルノというのが、この大型書店で購入されていたらしいから、ひょっとしたらと興味を示したのかもしれない。生憎、その男子の期待に添えなかった。プロの殺し屋が大統領暗殺を謀る話、と言って文字ビッシリのページを開いて見せると、その男子は「なぁ〜んだ」と言って、つまらなそうに集団に戻って行った。

男子はつまらなさそうにしたけれど、実はそれは、スパイを言うも憚られる酷い方法で拷問したり、パスポートを偽造したり、懇ろになった人妻をいとも簡単に殺したり……、ある意味、(多分)若年向けポルノよりも不健全そうなことがいっぱい書いてある『ジャッカルの日』だった。書皮を死守しておいてよかった、とひとりほくそ笑んだ。前日までだったら、エドモンド・ハミルトンの『キャプテン・フューチャー』(健全な?SF)だったのにね。

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