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ミナトシリーズ

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地上種、惑星種、天使たち。ミナトが住んでいる不思議な世界の日々を短編、掌編、詩で。(主人公ミナトは名前と自称「ぼく」以外、性別も年齢も不明です。読み手が考える人数分のミナトが存在…
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#掌編小説

しろい森

木も草も鳥も虫も白く、夜も来ない
‘しろい森’のまんなかで
ミナトは同行者と上を見上げた
そろそろだね
はじまったかな
隣に立つ賢者シャスはうなずいた

しろい森は祝福の森
葉ずれの音が
さまざまな色の 音の雨になる
かるく おもく ふかく ひびく

鈴のような
笛のような
鼓のような
鳥のような
虫のような
声のような

さまざまな音が重なる
その和音 和音 和音

音が重なると
音の色がうまれ

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旅立ち

 雲の断崖から下を見おろすと、数時間前まで歩いていた緑のジオラマが広がっていた。
 七夕(しちゆう)は何度目かの確認を、旅の相棒にする。
「いいんだな、織姫?」
 相棒は返事のかわりに虹色のヒレを大きくそよがせた。
 空を泳ぐ魚、リューグーノツカイ。虹色にかがやく全長十メートルの長い身体と長いヒレを持ち、空を泳ぐ姿はオーロラのようだ。滅多に姿を見せない稀少な魚で、今は縁あって七夕のかたわらにいる。

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灼熱夏ーー逃げ水

 その日は特に暑かった。草原の中をどこまでものびるコンクリは焼けつき、容赦なく熱を照り返してくる。立ちのぼる陽炎で景色はゆがみ、逃げ水が現れては地面に染みていった。絶妙なタイミングで逃げる水が、まるで喉の乾きを見透かしているように思えて、舌打ちする。手を伸ばしても絶対にさわらせようとしない。 
 踏みだした足が水音を立てた。 
 見ると、肩幅くらいの逃げ水がいた。足底から逃げようともがいている。暑

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