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家庭教師のアルバイト

2023年の4月末、知り合いのおばさんが高校受験に向けて中学3年生の家庭教師をする人を探していた。僕は高校受験を本気でやって進学校に入ることができ、個別指導塾のアルバイト経験もあったため引き受けた。時給は1500円。とても良い仕事で、性に合っていた。問題を解かせている間は座っているだけだし、飲み物とお菓子を出してもらえる。
最初の頃、生徒は全く勉強ができない状態だった。そんな中僕はひとつひとつ丁寧に教えていき定期テストの成績も上がって行った。しかし、不満に思う点であったり、生徒家族への疑問な点などもあった。急に授業がなくなることが多々あった。理由はよく分からないが今日はなしでと言われることが多かった。また生徒の母親については過保護気味であった。例えば学校のプリントやノート、テキストの置き場所の管理を母親がしていた。勉強量が増えるに伴い宿題を丸写ししたり、宿題が終わってないという理由で授業をなしにするなど見え透いた嘘をつくことも増えた。中学3年生にもなってこんな単純な嘘をつき、大学生を騙すことができると考えていたことを僕は正直信じられなかった。宿題が終わっていないなら言えばいいし、そもそも何のために宿題があるかなど中3なら分かっていると思っていた。僕は個別指導の塾に通っていたがそれくらいのことは理解できていた。
そしてある日、生徒の母親に話があると言われ呼び出された。僕は何か嫌な予感がした。それは見事的中。それまでの公立高校への一般受験から、よく分からない通信制の私立高校への私立単願へ変更するとのことだった。その瞬間僕のクビが確定した。詳しい話を聞くと、母親が全て話した。息子が心配でならないのだろう。息子は一言も話さなかった。話を聞くとどうやらユーチューバーになるための高校で公立の低偏差値の高校に進学して悪い人と関わるのも不安だし、勉強をするのももう嫌そうだし、やりたいことをしてもらいたいとのこと。僕はため息が漏れてしまいそうになった。生徒とは将来について何回か話していたが料理人か家を引き継いで建築系の職につきたいと聞いていた。全くやりたいこととは違うし、通信制って。高校は友達を作るためにいくようなもので、心の病などの特別な理由なく通信制に通うことによる人生の損失をこの母親は何も理解できていなかった。挙げ句の果てに説明会で人気がすごくて早めに入学を決めるよう言われ、すぐに入学手続きを進めていた。ありえない。何も考えられていない。家族揃って馬鹿であった。
僕は1万円札が入った封筒と全く好きではないクッキーの詰め合わせが入った紙袋を片手に、あの家族が不幸になることを祈ると共に、無職になったことに腹をたてながら家に帰った。

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