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「和風総本家」が終わる

先日、「二代目和風総本家」の終了が発表された。

わたしは前身の「和風総本家」からの視聴者だ。たぶん10年以上は見続けている。
日頃からあまり能動的にテレビを見るほうではない。好きな番組だけ録画してあとで視聴するという「見たいものだけ見る」生き方をしているが、そんなわたしの数少ない録画必須リストの中にもこの番組は入っていた(他は「アメトーーク」「タモリ倶楽部」「マツコの知らない世界」。おっさんか?)。
地井武夫さんがご健在のときから見ていたので、残念だ。

とはいえ「二代目」にリニューアルしてから、出演者のみならず番組の企画なども明らかに様変わりしていたし、その新しい内容がわたしにとって面白かったかというと…………。
正直、そのままでよかったのになあ…と思う。それじゃリニューアルの意味がないのかもしれないが。

前身の「和風総本家」(便宜上「初代」とする)は、とあるまちに生きる職人さんたちを一日の時系列で追う「〇〇密着24時」や、海外で聞いた日本製の愛用品を取材する「世界で見つけたMade in Japan」、海外のテレビ局に日本を取材してもらう「日本という名の惑星」、単に参考になるし見ていて楽しい「〇〇の手土産ベスト〇」など、好きな企画はいくらでも思いつく。
「京都」や「銀座」「浅草」などは何度も取り上げられていたが、四季のうつろいに合わせて着眼点を変えることで、同じテーマでも飽きなかった。カメラに映る四季折々の風景がまた、うつくしかった。

リニューアル後も「〇〇24時」をはじめ既存の企画に類似した内容は放送されているのだが、なんか、ちがうのだ。

初代では取材を行うのは基本的に番組スタッフで、画面に映るのも取材対象のみ、そしてナレーションやスタッフとの会話によってその魅力などを紹介するスタイルだったのが、「二代目」になるとレポーターが登場するようになった。なぜか元NHKのアナウンサーが多い。
持ち前の取材力を生かして食レポやらインタビューやらをするのだが、いやまあ、それもいいんだけど、なんか、「和風総本家らしさ」からは離れたな、という気がする。

変わってしまったなあという部分でいうと、番組10周年の節目で増田アナが自ら志願し巣立ってから、「二代目」に入ってもしばらく司会者のいない構成が続いた。
(いちおう)クイズ番組である(気がする)「和風総本家」のクイズ要素は、冒頭のVTRによる「高いのはどっち?」(※一見同じにみえる工芸品AとBのどちらかが高級)のみとなり、その後はほとんどVTRを眺める番組となった。

(まあ、初代でも、①出題されるのは多くても2問②ヒントが乱暴③解答途中でも司会者が「違います」とはっきり言う、かなり独特なクイズではあった。当てさせようとする気がはなから感じられないが、そんなことはわりとどうでもよく、むしろ司会の増田アナと解答者――地井さん、萬田さん、東MAXさんとのとんちんかんなやりとりがおもしろかったのだ。あのやりとりは出演者どうしの長年の気安さや信頼からなるもので、あえて増田アナの後任を立てようとはしなかった心意気は理解できる)

(ところが「二代目」ではその後軌道修正をはかろうとしたのか、それ以前から番組ナレーションをたびたび務めていた前田吟さんが昨年から司会に就任し、「司会者が問題を出して解答者が答える」という初代のスタイルに戻った。「正解・不正解を先に言う」例のやつは吟さんのうっかりした感じによって違和感なく踏襲されており、そのゆるい司会はとっても大好きだ)


わたしの思う「和風総本家」の好きなところは、押しつけがましさのないところだ。
日本の魅力をテーマとする番組は各局で放送されているが、外国人を連れてきて文化やら産業やらを褒めさせたり、海外に行って「間違った日本文化」を訂正させたり、そういうのって”仕込み”とか”台本”とかも当然あるのかもしれないけれど、その手の番組をわたしは好まない。

もちろん、自国の文化や産業に誇りを持つことを悪いとは思わない。
しかし、画面では「誇れる文化や産業」を見せながら「ニッポンのここがすごい!」みたいに対象を大きくした言い方にすり替えることで、その文化や産業に関わっていなくても「日本人」というアイデンティティの部分で満足できるつくりにしている番組は、なんだか、あけすけにすぎませんか。と言いたくなる。
「日本人」であればなんとなく自尊心が満たされたような気になれるのだから、視聴率も取りやすいのかもしれない。実際にえらいのは自分でもなんでもないのに。こういう番組って若い人も見てるのかなあ。

その点、「和風総本家」は「にっぽんっていいなあ」というキャッチフレーズを使いながらも、その多くを語りすぎない番組だった。と、思う。

前述の「日本という名の惑星」。これは海外の撮影クルーが日本を取材するのを取材する、という入れ子構造的な企画だったが、海外クルーの番組づくりや着目点に「和風総本家」側は口出しをしていなかった。「ニッポンの望むニッポンの姿」を外野から演出するのではなく、あくまで彼らが持つ興味に沿って番組づくりを手伝っていたのだ。

「世界で見つけたMade in Japan」もそう。
スポットライトが当たるのは「日本の誇る大手企業が売り込みたい何か」ではなく、伝統的な手法にこだわってつくられる知る人ぞ知る逸品ばかり。海外の愛用者もたまたま街などで見つけて知ったというもので、「日本製はすごい」と話す言葉には実感がこもっている。
後継者が減り、ほそぼそと、しかし絶やすことなく製品をつくり続ける職人さんのひたむきな姿は愛用者へと映像で届けられ、その様子を見た愛用者はなおさら製品への愛着を増し、感謝と励ましのメッセージが職人さんのもとに届けられる。

「和風総本家」とは、”そういう”番組だったのだ。
こちらから言葉を引き出さない。
相手に語らせる。
画面には職人さんの硬くなった指先や節くれだった手を映す。
機械よりも正確な手作業から、そのものに携わってきた年月の長さと重みを感じさせる。
「発展し洗練されたニッポン」をうたうよりも、あまり目を向けてはこられなかったが粛々と伝統を守り仕事を続けてきた人々をリスペクトしてやまない姿勢があった。

思えば、そういう番組のつくりかたも、「二代目」になってからはあんまり見なくなっていた気がする。
ちょっと枠組みが広がったというか、「グルメ」とか「高額な製品」のように今までと違う方面に目を向けようとした結果、「和風総本家」らしさみたいなものが薄れ、わりとどこにでもあるような番組になってしまっていたと感じる。

最終回ではこれまで登場した職人さんのその後を追うということで、かつての「和風総本家」の面影を見られたらいいなと思っている。


ところでわたしが「和風総本家」を大好きだった理由のひとつにBGMの選曲が抜群にいいというのがあるのだが、サントラを出してほしい…いや、たぶんほとんどがオリジナルではなくどこかから借りているBGMだっただろうから、せめてそのリストを公開していただければ…。無理か。

かわいい。

【追記】
今さらですが、サントラありましたわ!

この中に入っている曲だと「株式会社機動新撰組、出動! 」が好き。ダイナミックなシーンで使われていた印象。
でも、ほんとにもっとたくさん良い曲あったから、せめてリスト…公開してほしいなあ………。

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