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明け方には、息を潜めた秘密が満ちている。

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大好きで、苦しくて、それでも出会えた本のこと。
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君は嘘つきだから、小説家にでもなればいい

「こんなに面白い文章を書く人だと思わなかったんだ」と薦めてきた友人が譲ってくれた。

「勇気凛凛ルリの色」。

私が手にした最初の浅田次郎エッセイだ。

浅田次郎エッセイに少しでも興味を持っている人がいたら、迷うことなくこちらを推す。まず冒頭の、このエッセイ依頼を受ける場面から面白い。油断して読んでいたとしたら、それが公共の場であることも忘れて、ふふっ、と口元が緩むくらい。立ち読みでいいから、あの

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十角館の殺人事件

「知っている人にしか通じないネタ」というものは、知らない人にとってはいい迷惑だけれど、知っている人にはどうしようもなく心をくすぐられる代物だと思う。

そのネタ、知ってる。こうでしょう?こうくる?みたいに踊らされたこども心をぐいぐい引き寄せて離さない。私は本と同じくらい、アニメや漫画、ゲームが大好きだから、「え、そのマンガ知ってるの?じゃあこのネタも通じる?」を一緒に分かち合える人とは、おどろくほ

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下妻物語

自分の知る最強の女の子像、と聞かれたら、「夜は短し歩けよ乙女」の黒髪の乙女か、「マチルダは小さな大天才」のマチルダか、「図書館戦争」の柴崎か、「下妻物語」の桃子を挙げる。

中学当時何よりも大好きで、四六時中ミスドで語り明かした友人が勧めてくれたこの本は、14歳の自分にまるごと降りそそいだ。あまりにも読み過ぎて、買ったばかりの文庫本はあっという間にしわしわとして、どこへでも持ち運んで、何度も繰り返

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スウィート・ヒアアフター

よしもとばななの「スウィート・ヒアアフター」を読んでいる。

就活も上手くいかず、学業も誇れず、立ち寄った本屋で半ば適当に手を出したその本は、何だか優しく心をえぐるので、学校帰りの中央線でぼろぼろ泣きながら、周囲の視線をそれはそれは一身に集めた。さすがにこれではまずいと思い本を閉じてから、なんとなく読むことを遠ざけている。

大切な人を事故で失って、生き残ってしまった自分が残ったものと向き合う物語

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