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分厚い上下巻でも一気に読めるスティーブン・キングの『アウトサイダー』

 少年を拉致し、残酷に殺害した犯人が特定され、衆人環視の中で逮捕される。一件落着かと思われたが、刑事たちは矛盾する証拠に翻弄され、新たな展開を迎える。上下巻の分厚い本書だが、ずんずん読ませる力業は、さすがホラーの帝王だけある。
 
 スティーブン・キングの作品を読むのは初めてとなる。モダン・ホラーを生み出し、第一人者といわれる。ネットの情報によると、それまでのホラー小説は非現実的な世界を描いていたが、キングはリアルな日常生活に不可思議な現象を取り込み、事件の解決を試みるのだという。
 
 この作品に登場する刑事ラルフや検事ビルは、きわめて良識的な人たちだ。超常現象や魔物の存在などまったく信じていない。目に見える証拠をもとに、犯人をしぼりこんでいく。
 目に見える証拠? 果たしてそれは確かな証拠なのか? 
 相反する証拠が現れ、捜査するラルフは頭を抱える。犯人だと思ったテリーは無実なのか? 冤罪を生み出してしまったのかと自分を責めつつ、他の署の刑事ユネルと探偵ホリーとともに真犯人へと近づいていく。

 探偵ホリーは女性だが、とても有能だ。事実をもとに、それが非現実的な事柄であっても、あくまでも愚直に捜査を行う。そして、メキシコに伝わる魔物伝説「エル・クーコ」に出会う。子どもを殺し、闇の世界で生きる「アウトサイダー」のことだ。

 終盤で仲間を失うが、子ども殺しの真犯人「アウトサイダー」にたどりつき、息の根を止める。

 探偵ホリーは他人とのコミュニケーションが苦手だが、捜査をしていく中で、その実直な行動や事件解決への情熱が仲間に伝わり、友情のような人間関係をつくっていく。それが読む者の心を温かくする。

 この世の中には、理屈では説明できないことが確かにある。それが「悪」である場合に「アウトサイダー」が生まれるのかもしれない。

 闇の世界に触れたラルフやホリーは悪夢に苛まれるが、その一方で唯一無二の絆で結ばれ、日の当たる世界を生きていく。たとえ、第2、第3のアウトサイダーが現れても、この2人なら逃げることなく、立ち向かっていくに違いない。


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